エス・エフ小説『時間線をのぼろう』ロバート・シルヴァーバーグ(著)感想  こんぐらがる時間線!!パラドックスを気にするな!?

 

 

 

ゆとり青年ジャド・エリオットはひょんな事から時間局に勤める事になった。時間局とは歴史の名場面にタイムトラベルし、その瞬間を見学するツアー観光を司っていた。そのクーリエ(案内人)となったジャドは時間のパラドックスに慣れながら、その経験を積んでいくのだが、、、

 

 

 

著者はロバート・シルヴァーバーグ
多数の著作があるが、現在手に入れられるものは少ない。
『夜の翼』
『地上から消えた動物』等。

本作『時間線をのぼろう』はその名の通り「時間SF」である。
そして、取り分け面白い所は

時間SFの矛盾点について自覚しているという点だ。

 

「冷静に考えたら、時間SFっておかしいよなぁ」と自ら言いながら、しかし、それに気にせず時間旅行のSF作品を書いている。

この無邪気さに油断していると突如現れる怒濤の展開に飲み込まれる。

 

舞台はコンスタンティノープル。
この魅力的な土地で繰り広げられる大騒動。

「時間SFってかったるい」そう思っている人にこそ読んで欲しい逸品である。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 自己ツッコミ

    ジャドは時間局で働く為に講習を受ける。
    これがバツグンに面白い。

特に笑えるのが「観客累積のパラドックス」である。
ちょっと分かり易く説明してみよう。

時間旅行をして、「関ヶ原の戦い」を見物しに行ったとする。
一回10人のツアーで月2回だとすると年に240人が観戦することになる。
それが10年で2400人。
100年だと24000人である。
200年で48000人になってしまう。

こうなると最早東軍や西軍とも比肩する一大軍勢になってしまうが、歴史にはそう記されていない。
この矛盾点をどうやって解決するのか?

さらには、実際はツアー客を案内するクーリエの存在もある。月に1回ツアーしたとしても、10年で120人の同じ人物が同一時間の同一地点に居る事になる。

この事について、どう説明と解決をするのか?

しない!!

ズッコケてしまうが解決しないままに話は終わる。
この無邪気さが、何となくハリウッド映画的で面白い。

一応他には、
未来へは行けない。
出発時の時間が基準になる。
歴史改変が起こったら、出発時に戻ると歴史が確定してしまう。
歴史改変を直す為には、さらに過去へ行き、修正して出発時に戻れば直る。(時間警察の役目)
等のルールがあるのだ。

 

  • てんやわんやの大騒動

前半はこんな感じで時間SFの理論にツッコミを入れつつ、さりとて解決しないままに進んでゆく。
ここで読者は時間SFの論理と、それを気にしない柔軟さを学ぶ。

そしてクライマックスで時間SFの論理を駆使した怒濤の展開を繰り広げる。

これが最高に面白い。

時間旅行なんかしたら、厄介な事が起こるだろうなぁ」という読者の純粋な思いが最悪の形で実現して行くのが面白いのだ。

私などは時間SFを読んだり観たりする度に
「おかしいだろ!?」
といつもツッコんでいた人間である。

そのツッコミを作者が作品自体に入れている展開。
はっきり言って胸がすく思いである。

つまりこの『時間線をのぼろう』は時間SFが苦手な人にこそ読んで欲しい時間SFと言えるのである。

 

また、『時間線をのぼろう』は時間旅行でコンスタンティノープルの歴史を巡っている。
私は浅学にして歴史の造詣が浅いが、彼の地が魅力溢れる場所だという事は感じた。
このコンスタンティノープル巡りも本書の楽しみの一つだろう。

 

 


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さて、次回はあの土地の時間線をのぼってみる、『ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー』について語りたい。