エス・エフ小説『翼のジェニー』ケイト・ウィルヘルム(著)感想  独特!!論理より感情のSF!!?

 

 

 

「リンドクウィスト先生!」と突然アポ無しで病院に女性が尋ねてくる。その女性の名はジェニー。私、悩んでいるんですと言う彼女の背中には翼があった、、、

 

 

 

著者はケイト・ウィルヘルム
本邦では過去にサンリオSF文庫で長篇の紹介が為されていたが、現在では絶えて久しく、今回、しばらくぶりの出版となる。
代表作に
『鳥の歌いまは絶え』
『杜松の時』
『炎の記憶』等があるが全て絶版である。

 

本書『翼のジェニー』は短篇7つと中篇1つからなる作品集である。

ジャンルとしてはSF。

ワンアイディアを展開していくタイプである。

 

だが、特徴的なのは、

SFでありながら、論理より感情を優先したオチになっている事だ。

 

SFはジャンル的に理屈っぽくなりがちだが、作者の性質なのか、本書『翼のジェニー』は情緒的な作品集となっている。

科学技術や数理、世界設定や論理で攻める事が多いSF作品において、本作は

情緒で読ませる。

 

物語を読む、という根源的な読書の楽しみのある作品集だ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 作品紹介

翼のジェニー
表題作。翼のある女性が世間の冷たさに出会うが、、、

決断のとき
夢において果断な決断が出来ずに、結果的に悪夢となるその夢に神経をすり減らされる男の物語。

アンドーヴァーとアンドロイド
結婚していない独身男性では副社長になれない。
そう言われたアンドーヴァーは一計を案じる。

一マイルもある宇宙船
病院に担ぎ込まれた男。実は宇宙人から精神交信を受けていて、、、

惑星を奪われた男
かつて宇宙ミッションで苛烈な決断を下し、その結果罪に問われている男の話。

灯かりのない窓
夫婦で宇宙船の乗組員を目指すが、、、

この世で一番美しい女
女性の幻想譚。

エイプリル・フールよ、いつまでも
本書唯一の中篇。
老人が居ない!?いつの間にか世界が変化している事に気付いた夫婦の話。

 

私が一番面白いと思ったのは『アンドーヴァーとアンドロイド』である。

この作品は、ラスト、弁護士に嘘を吐いたのか、
それとも今までの話全部が嘘だったのか、
その判断が出来ない気持ち悪さが面白い。

 

『決断のとき』の、勇気を出した結果破滅している?様子の無常感もいい。

 

笑えるのは『灯かりのない窓』である。

話の展開やオチはいいとして、狭い宇宙船でこんなにヒステリックな人物とご一緒したくはない。
本人はスカッとしても周りはストレスですよ。

 

  • 情緒に寄ったSF

SFと言えば、科学技術や数理、論理、推理、理屈に世界設定が凝った作品が多く、それを売りにしているのが殆どである。

だが、本作品集『翼のジェニー』はSFでありながら、そのオチが感情的で情緒に寄った物が多い

表題作の『翼のジェニー』はその最たるものだし、中篇の『エイプリル・フールよ、いつまでも』もそうだ。

『エイプリル・フールよ、いつまでも』は不気味な侵略SFの様相を呈していたハズが、イキナリ芸術が素晴らしい!!とか言い出して情動の勝利を謳い出す。

『灯かりのない窓』においても、どう見ても宇宙船(という他人と共有する閉鎖空間)に乗るべきではない感情的でヒステリックな人物が選ばれている。

オチが読めても、根拠が分からない。
何故なら感情に根拠などないからだ。

これは、著者の性質か?意図的なテクニックなのかは解らない。

しかし、理屈や理論でストーリーを追う人、SFを読み慣れた人物なら尚更、物語の着地点が予想と違って戸惑うことになるのだろう。

この違和感が作品に独特の読み味を与えている。

 

理屈に寄らずとも、SFは作れる。

こういう作品も存在しうるというのが、SFの面白い所である。


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さて次回は、理屈より勢いが大事!?映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』について語りたい。