小説『デブを捨てに』平山夢明(著)感想  ド底辺のド畜生達が奏でる哀歌!!


借金を返せなかった俺は、ゴーリーに捕まった。一年前、支払い猶予を得る為に、文字通り「腕を折った」というのに…。絶望的な状況の俺に、ゴーリーは突如、提案する「腕とデブ、どっちがいい?」。俺は咄嗟にデブを選び、そのデブを捨てに行く事になった、、、

 

 

 

 

著者は平山夢明。
アウトローの奏でるヴァイオレンス作品と、
実話怪談系の作品、
この両輪で成り立つ作家。
主な著書に、
『メルキオールの惨劇』
『独白するユニバーサル横メルカトル』
『大江戸怪談 どたんばたん』
『ミサイルマンー平山夢明短編集』
『他人事』
『DINER ダイナー』
『或るろくでなしの死』
『暗くて静かでロックな娘』
ヤギより上、猿より下

恐怖を語った新書の
恐怖の構造

実話怪談系の、
「超」怖い話シリーズ 等がある。

 

 

 

平山夢明とは、稀有な作家です。

何故か?

 

先ず、平山夢明の作品の特徴として、

二進も三進も行かなくなった、窮極の状況にて、
泣くより、笑うしかなくなった人間の悲哀を描いています。

 

アウトロー達が繰り広げる、
ヴァイオレンスな日常。

それは、
現代社会のヒエラルキーを超低空飛行しつつ、

その状況に、
ある意味安定して生きて来た人間が、
遂に墜落してしまう様子が描かれる、

それが、平山夢明の作品と言えるのです。

 

それは、当の本人達には、絶体絶命の死活問題。

しかし、

傍から見ると、笑えてしまう、
ブラックなユーモアに溢れているのです。

 

何故笑えるのか?
と言えば、

それは、

読者自身が、
常には意識しない、
身も蓋も無い本音をえぐり出している

 

からなのです。

 

物事を、
透徹した目線で、描き、

しかもそれを、
ヴァイオレンスと笑いを、共に届ける事が出来る。

だからこその稀有な作家なのです。

 

長々と説明しましたが、
本作『デブを捨てに』は、

そういう平山夢明の性質が、
存分に発揮された作品集。

短篇3、
中篇1から構成される、
読み易い作品集です。

 

従来のファンは勿論、

映画の『Diner ダイナー』なんかで、
作者に興味を持った人も、
存分に楽しめるものと思います。

 

 

  • 『デブを捨てに』のポイント

社会の底辺でもがく者達の悲喜劇

ヴァイオレンスとブラックユーモア

独特のリズム感の台詞回し

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 


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  • 収録作品解説

では、収録作品を簡単に解説してみたいと思います。

本作『デブを捨てに』は、
短篇が3つ、
中篇1つから成る作品集です。

 

いんちき小僧
世の中、隙間産業と言いますか、
誰も考えなかった、しかし、
実は、受容があった、
そんな事を、最初にやった人が、
得てして儲かります。

そんな、コロンブスの卵を見つけるのが難しいのですが、
本作の、
「大麻(らしきもの)を、偽物として売る」
というアイディアは秀逸。

あぁ~確かに、Win-Win じゃ~ん、とは思えども、
そうは問屋が卸さないというのもまた、
好事魔多しという事で、世の常なのです。

偽物の商品をヤク中に売って稼いだ本人が、
偽物の家族の幸せだと解っていても、
それを求めるというラスト、

自分の釣り針に、自分で掛かったのは、
自分自身が、それを求めていたから、

そんな、一瞬の安らぎを求めるオチに、
切なさが込み上げます。

 

マミーボコボコ
皆さん、大家族モノのTV番組って観ますか?
私は、全く観ません。
見た事無いし(1回位はあるかな?)
全く興味もありません。

しかし、
全く興味の無いものでも、
「それが何故、流行っているのか?」
という事を、自分流に分析する事は必要なのですね。

と、言うわけで、
平山夢明が大家族モノを料理したら、
こうなりましたというのが、本作。

素人でも、カメラを向けられると、
TVに忖度して、
画面映えするコメントなんか、勝手に言ってしまうものです。

それがエスカレートして、
逆に、画面映えする事を意図してやり出すと、
人生、虚飾しか無くなるのですね。

人の目を気にして生きる人間の末路を、
あくまでも、無関係の第三者目線で描くというのが、
本作の面白い(と言ったら語弊がありますが)所。

 

顔が不自由で素敵な売女
人は誰しも、
捨て去りたい過去というものを、
一つや二つは持っているもの。

その、過去の罪が、
現在に復讐してくるという恐ろしさ。

本作も、第三者目線で物語が進みますが、
破滅的な状況に陥った人間を救うデウス・エクス・マキナが、
河童頭で耳が無い売女というのがまた、
何とも言えません。

誰かにとっての「女神」というのは、
顔や来歴では無く、
その行動でよって決まるのですね。

 

デブを捨てに
本著収録の、唯一の中篇。
読み味としては、凸凹のバディが織りなすロード・ムービー的な雰囲気。

アウトローのヴァイオレンス話のハズが、
いつの間にか大食い珍道中みたいになっているのが笑えます。
人間、自分が身につけた特技が、人生の土壇場で、意外な効力を発揮するのですね。

てんこ盛りの某ラーメン店は豚の喰いモノだ、とか、
(流石に、褌のみで調理したモノを食べる気にはなれないぞ)
某地方の方言を扱うヤツ達は、性格が悪いとか、
偏見に満ちた描写が、
ブラック過ぎて、引きつった笑いが出ます

旅の物語の鉄板、「往きて帰りし物語」の定型通り、
本作でも、
その旅の終わりには、ジョーもデブも、かつての自分ではありません。

ジョーは、かつて、
溺れた妹を見捨てたという過去があるそうです。
物語の中では言及されませんが、
その、彼自身の過去が、自分自身に誇りを持てない人生を送る事の契機となっていたのでしょう。

ジョーは、デブが死ななかった事に救いを見出しますが、
しかし、
ジョーもデブも、最後に、自分の力で事態を打開したのでは無く、
運命を受け入れ、覚悟を決めていた状況で、
しかし、偶然、生き残った形。
降って湧いた幸運で、助かった命なら、
人間、いくらでも変わる事が出来る。

こんな話でも、
救いがあるのが面白いですね。

 

 

社会の底辺で生きるアウトロー達の悲喜こもごもを描いた、
本作品集。

その内容もさることながら、
本作は、台詞回し等の、言葉の選択も秀逸です。

「このアンテナに、あんたのアンテナをぴったりくっつけさえすりゃば後は自然とエニシングゴーズさ」(p.9 より抜粋)
「へるす叙々苑。ここの子はみんなメニューの源氏名なのよ」(p.119 より抜粋)
「おい!都会モン!なんとかならねぇのか!よう!よう!」(p.260 より抜粋)

場面とそぐわない、突然の横文字、
独特の感性のルビ振り、
妹が絶体絶命の時に、突然ラッパー口調になる兄 etc…

兎に角、
本作は、ただ、言葉だけでも面白いというのが凄い。

この、言葉の面白さが、
ブラックな状況でも、
ユーモアを失わない描写に繋がっているのですね。

 

 

社会の底辺で絶体絶命の危機に陥り、足掻き、もがく者達
しかし、
その状況に、何処かユーモラスな哀愁を漂わせる作品集『デブを捨てに』。

読み易く、面白い言葉の連続が、

残酷で、馬鹿馬鹿しくて、それでも、少し哀しさも感じさせる、

そんな物語を作り上げているのですね。

 

 

 

 


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