小説『はい、チーズ』カート・ヴォネガット(著)感想  ウィットとアイロニー溢れる短篇小説集!!

 

 

 

地道に働いて来たヘンリーの発明「コンファイドー」。これは、イヤホン型の助言ロボであり、何でも知りたい事を教えてくれるものである。これで一攫千金を狙うヘンリー、早速妻のエレンに付けてもらったのだが、、、

 

 

 

 

著者はカート・ヴォネガット
アメリカの小説家。
解説を読むと、錚々たる顔触れと知り合いだったそうだ。
主な作品に
『プレイヤー・ピアノ』
『タイタンの妖女』
『猫のゆりかご』
『スローターハウス5』
『スラップスティック』
『バゴンボの嗅ぎタバコ入れ』
『人みな眠りて』等がある。

 

 

傑作長篇の数々により、
SF作家のイメージのあるカート・ヴォネガット。

しかし、本作『はい、チーズ』は

SFに限らず、
人間ドラマのウィットとアイロニーを描いた短篇集となっております。

 

人生の悲喜こもごも、
その断片が、色んな状況で描かれている、そういう印象です。

 

さらに、
本作の短篇は、

オチにサプライズがあるパターンが多いです。

 

やはり、短篇であるならば、
「こう来ましたか」
と、読んでいて唸る様なオチが欲しい所。

そういうタイプの短篇が読みたい方の需要に応えた形となっております。

 

サクッと面白い短篇小説が読みたいな~、
そんな時、本作『はい、チーズ』を手にとってみる事をオススメします。

 

 

  • 『はい、チーズ』のポイント

皮肉さとユーモアが混じった人間ドラマ

読み易く、面白い短篇集

オチで唸らせるタイプ

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 短篇小説のお手本

皆さん、短篇小説はお好きですか?

私は好きです。

サクッと読めて、それでいて面白い短篇って何でしょう?

それは、オチがある作品、
オチにサプライズがある作品だと、個人的には思っています。

これは恐らく、
幼少のみぎりに読んだ星新一作品の影響でしょうね。

 

短篇って、
分量が短い分、アイデア勝負の部分が大きいです。

アイデアの部分で納得行くかどうか、
それを限られた形で表現するのは、存外難しいもの。

その時、
切れ味鋭いオチをラストにおいてあったなら、
もうそれだけで良い作品の様な感じになってしまいます。

終わり良ければ、すべて良し!!

 

いえ、結構短篇小説って、
雰囲気だけで流そうと、誤魔化している作品が多いのですよ。

その雰囲気が良ければ感心しますが、
案外そういう作品は少ないものです。

 

その点、本作品集は、
オチの面白さを追求した短篇集と言えるでしょう。

意外なオチ、
唸るオチ、
皮肉さがピリリと効いたオチ、

読後感が違っても、
どの作品もオチに気を配っています。

正に、短篇小説のお手本と言える作品と言えるのではないでしょうか。

 

  • 作品解説

では、簡単に収録作の解説をしてみたいと思います。

全14篇の短篇集です。

オマケに著者の手紙がありますが、その部分の解説は無しです。

 

耳の中の親友
常に自分を励ましてくれる、小っさな小人さんが居たら、
人生楽しいだろうなぁ。

そんな発想があったのか、どうか。

しかし、実際は、
本心というものは、疑心暗鬼そのものという、人間の性を描いています。

これが、『北斗の拳』のラオウとかだったら、
自信満々の囁きになっていたのかもしれません。

 

FUBAR
人生が面白く無い、
そう思うのは、自分がそう考えているから

自分が、
自分の人生を面白くもおかしくもする。

陰キャはそれが出来ないから、人生つまらないのです。

けれど、
人との出会い、
自分とは全然違う、無垢な破天荒さみたいなものを持っている人間に出会うと、
本当に陰キャの人生は変わります

そういう人に、出会うかどうか、
まぁ、それも時の運なんですけれどね。

 

ヒポクリッツ・ジャンクション
他人の恋愛に口出ししてはならない、とはよく言われる事。

外からは愁嘆場に見えても、
実はいつものルーティンだったりするんですね。

でも、そのルーティンをちょっと変える様な、
ちょっとした刺激を提供出来れば、
そこにビジネスチャンスが生まれる、って訳です。

 

エド・ルーピーの会員制クラブ
自分の預かり知らぬ所で、いつの間にか自分が悪者になっている

人間関係、社会生活の恐怖が描かれます。

絶対権力者に逆らった結果だとしても、
嘘を真実と言わされるのは、屈辱以外の何物でもありません。

これに、NOを言い続ける勇気があれば、
物事はもっと良くなる

そういう願いが込められている様に感じます。

 

セルマに捧げる歌
ドヤ顔で行った助言が、まさかの勘違い
この勇み足程、恥ずかしい事はありません

しかし、この椿事が悲劇に終わらず、
新たな可能性を拓くというオチに持って行く強引さが、
爽やかな読後感をもたらします。

 

鏡の間
殆どコントの様な状況に終始する、
読んでいて楽しい作品。

 

ナイス・リトル・ピープル
SF的な奇想物語なのかな?
と、思わせておいて、
最後まで読むと心胆寒からしめる作品。

小人さんがやってくれた事なのか?
はたまた、
気が狂った人間の凶行で、意味不明の事を宣っているだけなのか?
それとも、
自らの凶行に理由付けする為に、小人さんが居たと思い込んだ男の妄想なのか?

解釈を読者に委ねている所が、面白さに拍車をかけます

 

ハロー、レッド
この手の話では、いわゆる実の親は悪者として描かれる事が多いです。

しかし、
本作のレッドは、ただ単に物事をハッキリ言うだけで、
決して悪い人間では無い所がポイント。

だからこそ、ラストのオチの切れ味、
現実を見せつけられる様子に、切なさが込み上げて来ます

周囲の人間の、
思わず修羅場に居合わせて、
聞いていないフリして黙っている感じも分かり過ぎて面白いです。

 

小さな水の一滴
難攻不落のプレイボーイを落す、まさかのオチ

今ならストーカーとして逮捕レベルですが、
私の頭の中では、何となく『座敷女』のイメージで読んでいました。

 

化石の蟻
登場人物の名前からして、ソ連を皮肉った感じを出したかったのだと思います。

 

新聞少年の名誉
いやな事を言う人間もいれば、
フォローをしてくれる人間も居る。

こういう風に、世間のバランスが取れていればどんなに良いか。

読者の期待に応えているからこそ、
ラストのオチにも納得出来ます。

 

はい、チーズ
言葉巧みに美味い事を言う相手を信用してはいけない

ただ、話を聞いていただけなのに、
自分が最初に意識していた事とは、全然違う所に着地してしまう。

世の中、人を喰いモノにしようとする人間が多いと警告してくれる作品です。

 

この宇宙の王と女王
予想外の方向に転がり続ける展開が見事

アクシデントがあっても、
それをどう乗り越えるかで、その後の人生も変わってくる。

同じ結果でも、
解釈次第で、物事は如何様に捉えられるのだと、この作品は教えてくれます。

 

説明上手
読んでいる方も、色んな意味で顔面蒼白になる作品。

医師も、夫も、読者も、
「何だ、このクソは!?ふっざっけんな!」と驚きを隠せない事、間違い無しです。

自分の責任を放棄して、
周りの人間に受け流す事に終始する人間、いますよね。

こういうオチもある、それもまた良し、です。

 

 

 

短篇小説のお手本の様な作品集、『はい、チーズ』。

超常現象やSFに頼らなくとも、
人間ドラマでオチをちゃんと読ませてくれる。

幅広い読者に受け入れられる、
正統派の面白さを味わえる短篇集と言えます。

 

書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています

 

 


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