幻想・怪奇小説『粘膜探偵』飴村行(著)感想  奇想天外!!探偵はあなた達です!!?

 

 

 

陸軍の下部組織、特別少年警邏隊、略してトッケーに憧れ、入隊叶った須永鉄児。14歳の彼と先輩隊員3人は警邏中、忌悪書を持つ大学生を発見、これをシメる。しかし、その行き過ぎた行為を警官に目撃され注意されるのだが、、、

 

 

 

 

著者は飴村行
著作に
『粘膜人間』
『粘膜蜥蜴』
『粘膜兄弟』
『粘膜戦士』
『爛れた闇』
『路地裏のヒミコ』
『ジムグリ』
『粘膜黙示録』(エッセイ集)がある。

 

 

『粘膜人間』にて第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞しデビューした飴村行。

その過激な内容で賛否両論、毀誉褒貶相半ばした、
日本ホラー小説大賞史上最も物議を醸した作品と言えます。

 

その後、数々の「粘膜」シリーズを発表した後、
しばらく小説作品の発表が沈黙していた著者の久々の新作が本作、
『粘膜探偵』です。

 

さて、本作、その題名で分かる通り、
著者の「粘膜」シリーズに属しています。

「粘膜」シリーズの世界観は、
戦時下の日本、
軍人が権力を握る統制社会のディストピアで、
南方の植民地「ナムール」から蜥蜴人間の「ヘルビノ」が使用人として内地に派遣されている状況、

この歪な世界で
時には過激なヴァイオレンスを、
時にはスレスレのギャグチックな描写を絡めながら、
理不尽な世界における人間の所業を描く作品です。

しかし「粘膜」シリーズは、この世界観が共通されているだけで、各作品の繋がりは希薄。

本作のみをイキナリ読んでも楽しめる内容となっています。

 

 

本作を含めた「粘膜」シリーズの特徴として、
まず、

ヴァイオレンスと
それに絡む紙一重のユーモア感覚

 

が上げられます。

デビュー作から、その過激描写で名を馳せたのは事実。

しかし、
実際には、このヴァイオレンス描写というのは飴村行の作品を彩る一要素。

飴村作品、「粘膜」シリーズの一番の魅力というのは、

作品の構成力、
特に予想付かない意外なまとめ方

 

と言えるでしょう。

「え?そこにもって行くの?」

このサプライズ具合が毎回楽しみで、私は読んでいます。

 

題名は『粘膜探偵』。

とは言え、

探偵は全く出て来ません。

 

それに、いわゆる狭義の推理要素もありません。

ミステリ的な展開を予想されたら、
そこは期待外れに思われるかもしれません。

 

独特な世界観での
奇妙で過激な表現、
それこで語られる意外性に満ちた展開、
それが楽しめるのが『粘膜探偵』です。

 

 

  • 『粘膜探偵』のポイント

軍国主義的なディストピアでの独特の世界観

グロとナンセンス溢れる描写

高い構成力と、意外性溢れる展開

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 世界観の魅力

「粘膜」シリーズにて描かれるのは、
第二次世界大戦時の日本をベースに、
その別の世界線とも言える舞台で語られる、
奇妙で暴力的なエピソードの数々です。

世界は不条理で理不尽に満ちている、
しかし、
その一方で、よくよく見ると、
最後には因果応報譚とも言える、
ある種悟った様な不思議な読後感を得られる。

 

世界観の設定、独特の暴力描写とユーモアでありながら、
その核にはしっかりとした構成と因果応報が待っている、
このギャップが飴村行作品の魅力です。

 

  • 構成力こそ、面白さ

『粘膜探偵』の主人公は14歳の少年、須永鉄児。

この鉄児がトッケー(特別少年警邏隊)の初任務に着任する場面から物語が始まります。

先ず初めは、
そのトッケーの先輩達、特に久世にフォーカスが当り、
この久世が何か問題を起こして物語が進むと予想されます。

 

しかし、そんな素直な展開にならないのが『粘膜探偵』。

強烈な個性を持つこの久世を放っておいて、
物語は連帯責任にて謹慎を食らった鉄児の「失地回復」の奔走ぶりが描かれる事になります。

この鉄児、
正に「行動力のある馬鹿程厄介なものは無い」を地で行く存在

ご近所の噂を手掛かりに、
半ばこじつけとも言える強引さで、火の無い所に着火する感じで事件を見つけ、
それを解決する事で自分を認めさせようとします。

 

その、少年らしいおざなりな感じの、
その場しのぎのアドリブで捜査をします。

(この部分が、いわゆる探偵的ではあるのかもしれません)

しかし、この捜査が藪蛇となり、
陸軍が出て来て鉄児は理不尽な選択を強いられる事になるのです。

 

この展開もまたまた予想外。

物語の状況や様相が、意外な部分に移ろい行きます

 

しかし、です。

ラスト、物語がまとめに入ると、
今までの展開、設定、伏線、それらが次々と収束して行き、
実はこの構成に意味があったのだと分かります

物語中に、さりげなく挿入されているエピソード、
ちょっとした台詞や、説明文、人物の感情など、
後から見ると、ちゃんとヒントがちりばめられている
このフェアな感じが面白いのです。

 

本作では、鉄児の捜査が探偵的な意味合いを持っているのかもしれません。

しかし、
ミステリ的な意味合いにおいての探偵役は、
実は読者自身と言えます。

作中にちらばめられた、様々なエピソード、
これにより、物語は何処へ向かい、どんな結末を迎えるのか?

自身の予想が外れる、
この意外性に翻弄されながら楽しむのが、
『粘膜探偵』の魅力の一つでもあるのです。

 

  • 強烈なキャラクター達

飴村作品の魅力は、
ヴァイオレンスとユーモア
物語の構成力
そして、キャラクターの強烈な個性があります。

 

トッケーの先輩、久世の暴力性、
陸軍の武智の飄々とした関西弁、
思う所がイマイチ不明で、不気味な父親、

どれも味がありますが、
本作で最も異色な魅力を放つのは、
蜥蜴人間・ヘルビノの使用人、影子です。

 

忠実に仕えながら、
思った事が正直に口から出るのを止められないという影子。

相手を罵倒しつつ、
その度に「悪気は無いから」と鉄児にフォローを入れられる様子は殆どコントとも言えます。

 

文章で読む人を笑わせるのは、相当に難しいです。

本作ではヴァイオレンスと絡める事で、
謂わば紙一重のユーモア感覚を発揮しているのです。

ヴァイオレンスに傾きがちな物語を、
影子が織りなす独特のユーモアにて中和する、
これが読み味に清涼剤的な一服を加えているのです。

 

 

 

戦時下のディストピアという独特の世界観にて、
ヴァイオレンスとユーモアが描かれる「粘膜」シリーズの最新作、
『粘膜探偵』。

グロやナンセンスが足りねぇなぁ、

そんな不謹慎な事を日々思ってる御仁の期待を裏切らない、
理不尽な物語世界が拡がっています。

 

しかし、
最後には因果応報譚として、
割とまともな地点に着地するこの構成力。

奇妙で不思議な物語が読みたい人、
グロやナンセンスを求める人、
ミステリ的な構成が好きな人、

意外と、様々な読者の受容に応える、
幅広い面白さをも持った作品、
『粘膜探偵』はそう言えると思います。

 

 

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