公儀隠密、伊賀忍者の影で冷遇されてきた根来忍者衆。しかし、五代将軍綱吉擁立に貢献した堀田筑前守の尖兵として、今、時代の脚光を浴びる。かくして、根来組は各国を視察し、お上に奏上するお役目を賜るが、、、
著者は山田風太郎。
伝奇、ミステリ、時代もの等のジャンルで幅広い活躍をした。
主な作品に、
『甲賀忍法帖』等の「忍法帖シリーズ」
『太陽黒点』等のミステリ
『幻燈辻馬車』等の明治もの
『戦中派不戦日記』等のエッセイ
などなど、、、
忍者モノで一世を風靡した山田風太郎。
本作『忍法双頭の鷲』は「妖の忍法帖」(1969)が角川文庫に収録されたとき(1980)に改題した作品。
BSジャパンにより、2018年4月3日より連続ドラマ化、
『くノ一忍法帖 蛍火』として放映される作品の原作です。
(配役などに、大分違いがあります)
その内容は、
忍者の諸国検分録。
伊賀忍者に代って公儀隠密筆頭となるべく、
堀田筑前守の命令を受け、異変を見せた諸藩の実状を探るべく現地に乗り込みます。
しかし、黙っていないのは伊賀忍者。
根来組が討ち漏らした10人の伊賀者が各地で暗躍しており、、、
この、諸藩への潜入捜査と伊賀忍者との死闘がセットになった、
連作短篇形式の物語です。
元々、山田風太郎の忍法帖シリーズは連作短篇風の物語形式が多いですが、本作はその傾向が顕著な作品です。
そして、物語の主人公は二人の根来忍者、
秦漣四郎と吹矢城助。
ダブル主人公のバディもの、
なので、題名が「双頭の鷲」なのですね。
そして、この二人が惚れているのが、頭領の娘、お螢。
当然、恋の鞘当てもあり、、、
忍法、ヴァイオレンス、恋愛、
これら忍者モノに共通するモチーフは本作でも健在。
これぞ、エンタテインメント、
面白いとはこういう作品、『忍法双頭の鷲』の事を言います。
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『忍法双頭の鷲』のポイント
忍法とヴァイオレンスと恋愛事情のエンタテインメント
諸藩の不思議事件簿
恭順により自らの栄達を望んだ者の末路
以下、内容に触れた感想となっております。
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無常の仕置き
公儀隠密として諸国を検分する根来組、主人公の二人の秦漣四郎と吹矢城助。
各地の不思議な事件の裏には、奇っ怪な理由、欲望、人情色々ありますが、
その全てが、お上が権勢を誇る為の見せしめとして仕置きされ、禄を減らされてしまいます。
根来組の栄達は、この仕事の如何による、
そう信じる根来組は疑問も持たずに仕事を続けますが、
パトロンの堀田筑前守の死去に伴い、根来組はアッサリ切り捨てられます。
まさに、狡兎死して走狗煮らる。
(用無しになったら猟犬も殺される)
仕事という物を、誰かの発展の為に尽力する事は、
自らを道具に堕す事であり、
結局、人生にとって意味が無いという苛烈な事実を思い起こさせます。
無残な無常観は忍法帖シリーズの特色ですが、
本作はその色が濃い作品となっています。
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エピソード解説
連作短篇形式となっている『忍法双頭の鷲』。
そのエピソード解説を簡単にやってみます。
導入部(p.5~30)
根来組が公儀隠密筆頭を目指し、伊賀組にとって代る事。
沼田藩、真田家(p.31~58)
伊賀者、一人目、藩境にて襲撃。
前将軍の時代の権勢者であった酒井雅楽頭の息女が嫁いでいる真田家。
自らの潔白を表明するべく、無茶な工事を請け負う事となり、
領民にその負担のしわ寄せが行く。
傘骨連判状にて、奏上者を選んだ。
家は改易(大名の身分剥奪、領地没収などの刑罰)される。
明石藩、本多家(p.58~88)
伊賀者、2人目、忍法雛飼い。
庶民の実状をしる平六は、武士の驕り、平民の窮状をなくす為に自らの正義を断行する。
よって、家臣受けが悪かった。
女人を遠ざけるのは、自らの胤を残さず、本来の継承者に譲る為。
本多家は、潰される。
筑摩藩、松平家(p.88~120)
伊賀者、3人目、「かんな」にて陰毛をそり落とす。
自らを豪傑と恃む松平筑摩守。
彼には陰毛が無かった。
その事実を奇異な物とせぬ為、自身を保ち続けさせる為に、家老が苦心惨憺する。
筑摩藩は4分の1に減封される。
魚津藩、前田家(p.121~155)
伊賀者、4人目、強壮剤の秘密を探る。
前田将監の家臣とお国御前が通じているとの噂あり。
実状は、添い遂げられない二人が、せめて触れ合わずとも向き合う為の逢瀬の時間を邪推された結果であった。
しかし、魚津藩は改易される。
不知火藩、天草家(p.156~198)
伊賀者、5人目、天草周防守の影武者。
善政をしくが、その為領民はだらけきってしまった不知火藩。
影武者を立て、領民の様子を探るものの、
その影武者に乗っ取りを目論まれる。
跡継ぎがいなかったが、この一件のどさくさに待望の世継ぎを授かる
しかし、不知火藩は没収される。
古利根藩、憂国の五人と穴馬谷天剣(p.199~242)
伊賀者、6、7人目、天剣に命じられ公儀隠密に化ける。
恐怖政治を敷く、その実権は筑前守が握っていると見た古利根藩の若者が謀叛を起こそうとするが、
その気持ちを穴馬谷天剣に利用される。
天剣が禁欲的な生活を送っていたのは、実は外見から来るコンプレックスの所為であり、
若者五人が美人の妻や恋人を捨て死地に向かうという事に不条理を感じ、
ならば、俺がもらってやろうと下衆の発想に堕するに至る。
山田風太郎作品において度々見られる、
「モテない人間のコンプレックスが異常に膨らみ欲望のままに行動する」という典型的な人物。
この混乱を利用され、
古利根藩は改易される。
巨摩藩、巨摩家(p.242~279)
伊賀者、8人目、巨摩藩にて淫楽のショーをプロデュース。(この人物のみ、死なず)
御世子がいない巨摩家。
相次いで幼子が死ぬ事件もあり、探りを入れられる。
事実は、近親相姦の為、虚弱の子が生まれるのを嫌った国家老が謀った殺人であり、
彼は自らが選んだお国御前(がっしりした体格)の子に藩を継がせようと目論んだ。
巨摩家、改易。
隠密の果て(p.280~348)
伊賀者、9人目、根来孤雲の屋敷に潜入し、捕らえられる。
10人目、秦漣四郎に切られる。
孤雲の娘、お螢が将軍に見初められ、
それに反発した秦漣四郎と吹矢城助が独断で駆け落ちを敢行する。
事は成るも、子細はバレた為、根来組の威信をかけ、駆け落ちを追うも、
パトロンの筑前守の急死の報が入り、
続く甲賀組の誅戮を受け、根来組は壊滅する。
他人に寄り添い、権勢を恣にした者は、
その権力者が没落すれば、自らも諸共落ちぶれる事になります。
一言で言うと、「狡兎死して走狗煮らる」ですね。
権力闘争においては、先ず、自分が権力を握る事を目指さないと、意味が無く、
そうでなければ、誰に付くかがポイントと成ります。
しかも、闘争に勝利しても安心は出来ず、
自分の派閥の失脚後の事も常に考えている必要があり、
綱渡りの立ち回りが要求されます。
しかし、
権力を欲し、その為に闘争する者は、
その殆ど全てが最後には敗北者と成ります。
その事を理解していないから、権力闘争において、
嘘と裏切りが多発するんですねぇ、、、
そんな無常を噛みしめる作品、それが『忍法双頭の鷲』なのです。
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