ファンタジー小説『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』スティーヴン・キング(著)感想  いざ開幕!!問題噴出な西部劇!!

 

 

 

双子の多く生まれる町「カーラ・ブリン・スタージス」。23年周期で<狼>に双子の一方を拉致され続けていた。しかし、一人の民人がこれに疑問を呈する。立ち上がり、反抗しようと。そしてそこに、<ガンスリンガー>一行が流れ着く、、、

 

 

 

 

著者はスティーヴン・キング
当代きってのベストセラー作家。
モダン・ホラーの帝王とも言われる。
代表作に、
『キャリー』
『シャイニング』
『ザ・スタンド』
IT
『スタンド・バイ・ミー』
『ミザリー』
『グリーンマイル』
『11/22/63』等多数。

本作、「ダーク・タワー」シリーズは著者スティーヴン・キングが30年近くの構想と執筆期間を経て完成させた作品。
全7部構成の大長篇ともとれる作品である。
そのシリーズは

ダーク・タワーⅠ ガンスリンガー
ダーク・タワーⅡ 運命の三人
ダーク・タワーⅢ 荒地
ダーク・タワーⅣ 魔道士と水晶球
ダーク・タワーⅤ カーラの狼(本巻)
ダーク・タワーⅥ スザンナの歌
ダーク・タワーⅦ 暗黒の塔

という構成になっている。

また、『ダークタワー』としてオリジナルストーリーで映画化された。

 

「ダーク・タワー」シリーズ後半開幕。

本巻『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』のストーリーは

王道西部劇。

 

窮状に喘ぐ町民を流浪の武芸者が助ける展開だ。

この西部劇展開を軸として、

「ダーク・タワー」シリーズの完結へ向けた伏線特盛り。

 

そして、その一方で

トラブル続出!!

 

旅の仲間<カ・テット>が様々な困難に立ち向かう。

また、本巻では

他作品からのゲストキャラが参加。

 

著者のファンには嬉しい展開となっている。

いよいよラストに向けて盛り上がってきた「ダーク・タワー」。
「西部劇ファンタジー」としての本領を堪能出来るのが本巻『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』である。

 

 

  • 『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』のポイント

王道展開の西部劇ファンタジー

ラストへ向けた伏線特盛りのトラブルの数々

以外!?なゲストキャラの加入

 

 

以下、内容に触れた感想となっています

 


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*本ブログは新潮文庫版「ダーク・タワー」シリーズを読んでの感想です。
文中のページ数も新潮文庫版に準拠しています。

 

  • 一気呵成に書き上げた後半

「ダーク・タワー」シリーズは、著者スティーヴン・キングが長い時間を懸けて書いてきたシリーズである。

その出版スパンも数年が空く為、一時期は著者が存命中に終わらないのではないかとも噂されていた。

しかし、1999年に交通事故に遭い九死に一生を得た著者は、このシリーズを完結させる必要性を痛感。

2003年~2004年に一気に出版したのが、本書を含む「ダーク・タワー」シリーズ後半のⅤ、Ⅵ、Ⅶ巻である。

なので、このⅤ、Ⅵ、Ⅶ巻はより繋がりが深く、
まとまった一つの物語としての展開と伏線が多数設定されている。

より読み応えのある大長篇と言えるだろう。

 

  • 王道展開の西部劇

本巻『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』は王道展開の西部劇。

子供をさらわれる民人は、遂に立ち上がらんとするが、いかんせん武力が無い。

抗戦派と現状維持派で意見が対立する中、用心棒として町のトラブルに関わって行くのがローランドの<カ・テット>、ガンスリンガー一行である。

牙を持たない弱者の為に狼藉者を成敗する。

この「弱きを助け、強きを挫く」王道展開は分かっていても面白い

この展開、西部劇なので『荒野の七人』と言いたい所だが、
日本人ならやはり、先ず頭に浮かぶのは黒澤明監督の『七人の侍』である。

実際、著者も後書きにてそれらの作品や『荒野の用心棒』について言及している。

「西部劇ファンタジー」と言えるシリーズなので、
先ずは基本に立ち返り、王道展開に挑戦してみた作品と言えるのではないだろうか。

 

  • 病膏肓に入る

この王道西部劇ファンタジーを軸に、様々なトラブルが伏線を張りつつ噴出して来る。
それが本巻『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』の面白さでもある。

書き出すと、
1:<狼>の襲来を迎え撃つ町の話
2:ローランドの関節炎
3:スザンナの妊娠
4:薔薇の咲く空き地を巡る話
これらの展開に、
5:キャラハン神父の冒険
を加えたのが本書の主な部分である。

ローランドは関節炎に苦しみ、
スザンナには再び別人格が現れる。

コイツら、いっつも同じ様な事に悩まされてるな、、、
と思うが、それも道理。

除去したハズのイボやデキモノが再び同じ場所に発生する」のは世の常である。

厄介でありながら対処の難しい、人間の性である。

何かをする時に、常にベストパフォーマンスを発揮するのは確かに理想である。

しかし、トラブルや事件は時と場所を選んでくれない。

全く準備出来ていなかったり、体調や精神面が悪い場合にも否応なく対処せねばならない時は必ず人生に訪れる

「100パーセントの状態で100パーセントに対処する」よりも、
時には「60パーセントの状態で80パーセント対処してみせる」機転とテクニックも必要なのだ。

また、いつも病気の印象のローランドだが、今回の関節炎は著者スティーヴン・キング自身の事故後のリハビリの苦しみや、加齢による体調変化を反映したものと思われる。

作品の息が長いのと同様、
主人公のローランドはその分だけ歳を取っているのだろう。

 

  • ゲストキャラ登場!!

本巻にてまさかの新メンバーとして加入するのは、
著者スティーヴン・キングの呪われた町』の登場人物、ドナルド・キャラハン神父である。

『呪われた町』にて吸血鬼カート・バーローと対決し敗北。
堕落させられて町を出奔したキャラハンの遍歴が本作にて語られる。

バーローに噛まれて吸血鬼にさせられたと思いきや、そうでも無く、意外に元気な感じだ。

てっきり「吸血鬼神父」という二律背反な存在になっているのかと思ってました。

彼の役目は、物語を繋ぐパイプ役。

1:町の窮状を救う為にガンスリンガーと接触
2:<塔>を狙う意外にも、<深紅の王>の一党は悪事を働いている事の一例
を示す。

また、アル中という設定をも持ち、ローランド同様キャラハン神父も著者の経験が活きた(!?)キャラクターとなっている。

 

  • 用語解説

完結を見据えて書いたと思われる本巻。

用語や伏線が多いので、目立った部分を抜き出してみたい。

<秘数>(上巻p.96他)
十九九十九一九九九
ローランドの<カ・テット>を運命づける数字。

タッチ>(上巻p.104他)
ジェイクやアランが持っている超能力。
いわゆるテレパス能力である。
人の思考を読んだり、自分の思考を伝えたり、予言や千里眼をも備える。

>(上巻p.35他)
「吸血鬼と恐ろしい精霊とタヒーンの棲家(上巻p.313より抜粋)」と言われる<雷鳴>からやって来て、カーラの双子をさらう存在。
より上位の悪意ある存在に使役されている。

その見た目はアメリカン・コミックの『ファンタスティック・フォー』のキャラクター「Dr.ドゥーム」を思わせる。(下巻p.406)

アンディの存在を含めて考えると、カーラの町自体が、双子を産み、刈り取る為の「農場」として存在させられている印象だ。(下巻p.200)
その双子の共感能力を抜き出し、<塔>破壊の為に<破壊者>のエネルギーとして使用し(下巻p.343)、能力の抜け殻になった子供はルーントとなって返されていた。

ロウ・メン(下衆男たち)>(中巻p.180他)
深紅の目に黄色いコート、大きな帽子をかぶっている。
自らを管理人(レギュレイターズ)と呼ぶ事もあり、「青い棺」の入れ墨をしていたりする。

その実態は<深紅の王>の尖兵である。

吸血鬼。(中巻p.119他)
キャラハン神父によれば、以下の3種類に分けられるという。

1:長命で知性も高く、血を吸って仲間を増やす事が出来る存在

2:「1」に変化させられた存在。単純な知性しか持っていない。噛みついて仲間を増やす。

3:普通人と同じに見える存在。食事をする様に人間の血を吸うが、仲間は増やさない。

キャラハン神父は「3」の吸血鬼を狩る「ヴァンパイア・ハンター」活動をして<ロウ・メン>に目を付けられた。

また、自らの死を認識していないという<流浪の死>は吸血鬼と関係があるのだろうか?

ソンブラ・コーポレーション。(上巻p.155中巻p.480他)
エディの仇敵エンリコ・バラザーを使嗾し、薔薇の空き地を狙う組織。
これも<深紅の王>の尖兵だと思われる。

エディはこれに対し、自分達の事を「テット・コーポレーション」と称した。(下巻p.105)

トゥダッシュ。(上巻p.173他)
世界から他世界を行き来する現象。
マンニは自らそれを行えると言われる。
ローランドの一行は<黒い水晶球>の影響下で行った。

黒い水晶球>(中巻p.227他)
厳重に封印された、邪悪な物体(?)。
<十三番目の水晶球>。
チャイム音(カメン)を鳴らし、人の精神を蝕む。
ブラックウッド(ゴーストウッド)の箱に収められており、蓋を開けるとそれと共に「世界を行き来する扉」も開く。
強く念じる事で、行き先の年代や場所を特定出来る。

死んでいるのか生きているのかはっきりしない<黒衣の男>が再三仕掛ける罠の一つである。

マンニ(上巻p.56他)
世界を行き来して知識を深めているという団体(?)民族(?)のようだ。

オリザ(中巻p.246他)
米の貴婦人。
その武勇伝が転じて民間信仰にまで発展している。
物語によると、オリザは縁を研いだ皿を投擲して仇敵を倒したと言われる。
「オリザの姉妹」はチタン製の皿を使用し、必殺のその技術を継承している。

カマラ(下巻p.33他)
様々な意味を持つとされる言葉。
米や性交、角突き合わせて協議する事、等々。

ジェリコの丘の戦い(上巻p.320,351)
未だ語られていない、ガンスリンガーが全滅したという最終決戦。
ローランドはこの戦にてエルドの角笛を失った。

 

また、ニューヨークにトゥダッシュした際、以前ジェイクが薔薇を目撃した時と「違う」部分が多数あったという。
主な部分を抜き出してみたい。

1:古本屋の看板のスペシャル・メニューが違う
ジョン・D・マクドナルド
ウィリアム・フォークナー
レイモンド・チャンドラー
という並びが(『Ⅲ 荒地』上巻p.251)
ウィリアム・フォークナー
スティーヴン・キング
レイモンド・チャンドラー
と変化している。(『Ⅴ カーラの狼』上巻p.129)

2:『シュシュポッポきかんしゃチャーリー』の作者名が違う
ベリル・エヴァンス
から
クローディア・y・イネス・バックマンに変わった。

3:看板の電話番号が違う
555-6712
から
661-6712
に変わった。

4:ピンク色の字の落書きが違う
<亀>にまつわる詩(『Ⅲ 荒地』上巻p.273)
だったものが、
「”おお、スザンナ-マイオ、我が分裂娘、彼女を一九九九年のディキシー・ピッグのリグに留めておけ”(『Ⅴ カーラの狼』p.379より抜粋)」
に変わった。

「ディキシー・ピッグ」云々は、
中巻p.337にて、スザンナの別人格マイアが夢の中で着ていたTシャツにも記されていたフレーズだが、果たして?

これらの変化が、今後どの様に物語に影響するのか?
この辺りにも注目して読んで行きたい。

 

  • 小ネタ解説

気付いた小ネタをピックアップしたい。

まず、<狼>の武器。
ライトスティックとスニーチ。

見た目は「Dr.ドゥーム」で、
「スター・ウォーズ」のライトセーバーを持ち、
銀色に輝く玉を放つ。

玉は「ハリー・ポッター・モデル」と書かれているが(下巻p.386)、私は「ハリー・ポッター」シリーズを全く知らないので何の事だか分からないのが悔しい。

むしろ私が即座にイメージしたのは、上巻p.317でエディが連想したのと同じく、ホラー映画『ファンタズム』に出てくる飛行球体「シルバー・スフィア」であった。

トラウマホラー映画『ファンタズム』。
ええ、深夜に初めて観た時は、その日の夢に悪夢として出て来ましたよ、トールマンが。

確か『ファンタズム』も子供をさらっていた様な印象がありますが、うろ覚え。
その内、再び観てみたい。

上巻p.106ではシャーリー・ジャクスンの『ずっとお城で暮らしてる』に言及。
『くじ』の事も話していたし、著者はシャーリー・ジャクスンが好きみたいだ。

下巻p.29で語られる「イディッシュ語」を操る種族というのは、ユダヤ人。

上巻p.371では、スザンナが「レーガンが大統領」というエディの言を話半分で聞いている様子が描かれている。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でもマーティとドクとの間でなされたやりとりだ。

(ロナルド・レーガンは米国の第40代大統領。1981~1989在任。俳優出身)

しかし、あに図らんや、ドナルド・トランプを金持ちの例として挙げている(上巻p.212)当時のスティーヴン・キングに、現在の大統領がトランプだと言っても、とても信じまいて

 

 

本筋には西部劇ファンタジーを据えつつ、完結に向けて設定と伏線をてんこ盛りした贅沢な作品の『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』。

時間と空間を移動しつつ、作中人物が自分が出てくる著作を見て混乱。

それを読んで、私自身も若干頭がこんんぐらがって来ているが、果たしてこれ以降どういう展開を見せるのか?

スザンナとマイアはどうなる?
薔薇の空き地の行方は?
<雷鳴>に居る?と思われるフィンリ・オ・テゴとは?

どうやら、作者自身も作品に関わってきそうだぞ、と予感を抱きつつ、今後の展開にも大いに期待したい。

 

 

*シリーズ毎の解説ページは以下からどうぞ。

ダーク・タワーⅠ ガンスリンガー
ダーク・タワーⅡ 運命の三人
ダーク・タワーⅢ 荒地
ダーク・タワーⅣ 魔道士と水晶球
ダーク・タワーⅤ カーラの狼 (本巻)
ダーク・タワーⅥ スザンナの歌
ダーク・タワーⅦ 暗黒の塔 

「エルーリアの修道女」(『第四解剖室』収録)

映画版『ダークタワー

 

 

こちらは現在新品を入手出来る角川版の下巻

 

 


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さて次回は、ガンスリンガーの<カ・テット>とは全く違う絆?に縛られた漫画『束縛愛 彼氏を引きこもらせる100の方法』について語りたい。