幻想・怪奇小説『呪われた町』スティーヴン・キング(著)感想  ストレート過ぎる怪奇譚!!町が丸ごと消える!!

 

 

 

小説家ベン・ミアーズは新作執筆のインスピレーションを得る為に、自身が幼い頃過ごしたセイラムズ・ロットを訪れる。その町の「マーステン館」にて首吊り死体の幻影(?)を見たのだ。ベンが町に戻った時、長らく放置されていたそのマーステン館を購入した人物が現れた、、、

 

 

 

 

著者はスティーヴン・キング
当代きってのベストセラー作家。
モダン・ホラーの帝王とも言われる。
代表作に、
『キャリー』
『シャイニング』
『ザ・スタンド』
IT
『スタンド・バイ・ミー』
『ミザリー』
『グリーンマイル』
『11/22/63』
「ダークタワー」シリーズ、等多数。

 

本作『呪われた町(原題:’SALAME’S LOT)』は著者スティーヴン・キングの第2長篇。

この第2作目の本作からして、既に著者の特徴は見て取れます。

多数の視点、
多数のエピソード、
それがラストに向かって収束して行きます。

 

そして、著者のキャリアの最初期の作品という事で、
技巧や設定への拘りよりも、

ストレートな恐怖の描写が見られます。

 

地方の田舎町「セイラムズ・ロット」。
いろんな人が居て、いろんな生活をいています。

そんな彼等の生活が、次々に起こる怪事件により密かに、しかし確実に浸食されて行く。

この物語は、

「一つの町の住民」という全体が主人公とも言えるでしょう。

 

「善と悪との戦い」というゴシック・ホラー。

それを、町全体のレベルの群像劇として描いた本作『呪われた町』。

奇を衒わない、ストレートな面白さの怪奇小説です。

 

 

  • 『呪われた町』のポイント

王道展開のゴシック・ホラー

町全体が主人公とも言える群像劇

程よい長さと読み易さ

 

 

以下、内容に触れた感想となっています

 


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  • 町の住民、全員が主人公!?

本作『呪われた町』は、吸血鬼に侵攻された町が丸ごと消滅するまでを描くホラー作品です。

ストレートな「吸血鬼(Vampire)」ストーリーに、
「メアリー・セレスト号の乗客消失事件」の様な「奇妙な失踪事件」のテイストを加えた作品と言えましょう。

「吸血鬼」の描写自体は非情にテンプレ。
日光を嫌い、
十字架、聖餅、聖水を嫌い、
咬まれると仲間にされ、
招き入れられないと家には入れず、
杭を心臓に打ち付けて成敗する。

その一方、様々な怪事件に晒され、徐々に日常が浸食される住民の生活を個別に多数描いています

つまり本作は、
吸血鬼という典型的なモンスターを題材にして、
悪意に浸食される普通の人間の生活を群像劇で描く事を主軸とした物語なのですね。

なので、一応の主人公のベン・ミアーズが怪異に気付き対処してゆくという、本筋とは関係ないエピソード、
不倫やDVや覗き屋や娘を束縛したい母親の話などが、実は作者が一番楽しんで書いた部分なんじゃないかなと思います。

そして、生き生きとそれぞれの生活をしていた住民が
等比級数的にあっと言う間に消え去るからこそ、住民消失という不可解さと物哀しさを演出出来ているのです。

 

  • 小ネタ解説

下巻p.62(1983年刷り版)のマーク・ペトリーの台詞、
彼はむなしく柱に拳を突きつけて、なおも幽霊をみたといいはる
という部分は、著者の作品『IT』にてウィリアム・デンブロウも唱えていた台詞。

これは英語の早口言葉の様です。
英語では
「He thrusts his fist against the posts and still insists he sees the ghosts.」
となります。

同ページにはもう二つの早口言葉があります。

スペインでは雨は主に平野部に降る
「The rain in Spain stays mainly in the plain」
(映画『マイ・フェア・レディ』でもこう言う台詞があるそうです)

ベティ・ビターがバターを持って来て、ベティが言うにはこのバターは苦い
「Betty Botter bought some butter, but she said the butte’s bitter」

日本語翻訳では、何でこんな事言っているのか?と思った部分です。

 

町を脱出したパーキンズ保安官とキャラハン神父。

チキンと言われようと、「君子危うきに近寄らず」であり、パーキンズ保安官の行動は一番無難ですね。

そして、キャラハン神父がその後どうなったかと言うと、それは『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』にて語られています。

 

 

吸血鬼という超有名モンスター。
ストレートなゴシック・ホラーにてそれを描く。

しかし、メインとなるのは、
崩壊する町、その住民の普通の日常の描写です。

この細部の描写に力を入れるのがスティーヴン・キングであり、
この細部描写によるリアリティの獲得が作品の面白さなのです。

王道展開をしっかり描いて、それが面白い。
『呪われた町』とはそういう作品です。

 

こちらは下巻

 

 


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さて次回は、キャラハン神父のその後は如何に!?小説『ダーク・タワーⅤ カーラの狼』について語りたい。