幻想・怪奇小説『ドラゴン・ヴォランの部屋』J・S・レ・ファニュ(著)感想  お化け?妖精?一番怖いのは女性!?

 

 

 

馬車でパリに向かっていた英国人リチャード・ベケットは、旅の途中で魅力的な伯爵夫人に出会う。黒いベールで顔を覆われたその夫人に懸想したベケットは後を追い、同じ宿屋に宿泊し、伯爵の情報を集める、、、

 

 

 

著者はJ・S・レ・ファニュ
代表作の『吸血鬼カーミラ』が有名な作家だ。
名前は有名だが、本邦での作品集は本書が2冊目だという。

 

待望といえる第2傑作篇。
本書『ドラゴン・ヴォランの部屋』は短篇4つと中篇1つからなる。

怪奇、幻想、サスペンス、と飽きさせないラインナップとなっている。

 

面白いのは、短篇4つと中篇の読み味が違う事だ。

同じ作家でもバリエーションの多様さを見せつけてくる。

だが、共通している点は、

どの作品も上品さが漂っている事だ。

 

まるでファンタジー小説の様な世界の描写だが、正にその時代に生きている人間ならではの筆致である。

作り物ではない異国情緒に溢れた作品集だ。

 

ホラーテイストでありながら、そこはかとない上品さもある本作、味わってみてはどうだろうか?

 

 

以下ネタバレあり


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本書『ドラゴン・ヴォランの部屋』は日本オリジナルの作品集だ。

短篇が4つ。

ロバート・アーダ卿の運命

ロバート・アーダ卿の死についての噂を2つ記した作品。
逃れられない運命」について2種類の反応を見せるロバート・アーダ卿の様子を描く怪奇小説。

ティローン州のある名家の物語

グレンフォーレン卿に嫁いだ少女ファニーの物語。
唯々諾々と受け入れた結婚生活の不安の中直面する、不条理な恐怖と因果応報を描く。

ウルトー・ド・レイシー

無垢の娘が運命に絡め取られる怪奇小説。
しかし、恐怖を感じるのは当の本人ではなく周りの人間であるのが面白い。

ローラ・シルヴァー・ベル

異界のモノに見初められた少女の運命を描く幻想小説。
恋に惑うと周りの忠告が聞こえなくなるのは現実世界でもよく見る。
気付いた時には後の祭りという話。

 

いずれも傑作だ。

そして、中篇として本書タイトルの『ドラゴン・ヴォランの部屋』が収録されている。
幻想・怪奇小説が4篇続いた後に、いきなりサスペンス小説を盛り込んでいる。

作品集としての統一感より、本邦では怪奇作家としれ知られる著者レ・ファニュの作家としての多様性の紹介を目的としている。

ドラゴン・ヴォランの部屋

自信満々で異国を旅する青年の「若気の至り」を描いている。

テンポ良く、無駄無く描かれていて、非常にスピード感がある。
話の構成がまとまっており、ギュッと凝縮している。

サスペンス的ではあるが、猪突猛進するリチャード・ベケットの浅慮に思わず笑いを誘われてしまう。

だが、彼を馬鹿には出来ない。
浅はかだったり、恋に惑ったりするのは、誰にでも経験があるからだ。

短篇の4つで描かれた幻想・怪奇の恐怖とも勝るとも劣らない、恋に惑った人間を手玉に取る詐欺の恐怖を描いている。

 

 

幻想・怪奇小説と思って読み進めてみると、それまでの雰囲気を払拭するかのような意外な面白さのサスペンスに出会う。

編者の意図した通りだろうが、ちょっとしたお得感のある作品集となっている。

 

 

 


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さて次回は、幻想世界を描くファンタジー『アンヌウヴンの貴公子』について語りたい。