幻想・怪奇『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』マイクル・ビショップ(著)感想  

 

 

 

スティーヴィ・クライはフリーのライター。夫に癌で先立たれ、二人の子供と共に暮らしている。しかし、商売道具の頼みのタイプライターが故障。メーカーの修理費がべらぼうに高い為、町の修理屋で直したのだが、その日からタイプが勝手に動くようになる、、、

 

 

 

著者はマイクル・ビショップ
『ささやかな叡知』『焰の眼』『樹海伝説』『デクストロⅡ接触』等、過去に翻訳作品が存在するが、現在新刊では入手出来ず。
本作が久しぶりの訳出作品となる。

 

本作『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』は、いわゆる

メタ・ホラー。

 

勝手に動くタイプライターが描く物語が現実と入り交じり、主人公のスティーヴィ・クライどころか読者までも混乱してくる。

しかし、そのメタ部分よりインパクトがあるのが、不条理展開。
あまりにうざ過ぎて

読んでいてイライラ、ストレスマッハである。

 

そして、主人公のスティーヴィ・クライはシングルマザー。

出来するトラブルに苛つき子供に当たり、
友人に愚痴をぶちまけ、
日々の仕事と金銭面による先行き不安に悩んだり、

その小市民感がリアル過ぎて他人事とは思えない。

 

普通の人が怪奇現象にキレながら、それでも日々の生活を続けるべく奮闘する。

『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』は主人公に共感出来るが、
共感すればするほどイライラ展開に煩悶する読者泣かせのホラーであり、この感覚が面白い作品である。

 

 

 

以下ネタバレあり

 

 

  • メタ展開

本作『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』はメタ・ホラー作品である。

スティーヴィ・クライのタイプライターの自動筆記により書かれる描写は、作中で夢と現実が交差し地続きとなっている。

しかも、作中作である「タイピング」が実は今まで読んできた部分と同じで、
それどころか、作中人物であるシートン・ベネックが書いた通りに悪夢が進行し、
スティーヴィが認識する事でそれが現実になるというメタ展開。

だが面白いのは、自分が作中人物かと悩みつつも、それより目の前にある問題
子供の心配や、
金銭面の不安や、
シートンのウザさにいらつくといった、卑近な部分に目が行って、特に深刻にはならず「兎に角、何かやってみよう」で済まそうとするそのたくましい態度である。

ホラーの不気味さに恐れおののくより、自分の好奇心を満たす為に事態を進行させ、生活の為に必要だから怪しいタイプライターをも使用し、修理が出来ると聞けば犯人と疑う相手をも利用する。

貧乏は、ホラーよりも怖ろしいのだ。

 

  • ぬらりひょん

だが、本作でメタ展開よりもホラーなのが、シートン・ベネックの不条理さである。

喋る時にも目を合わせず、コミュニケーションが取れているのか不安になる相手は確かに現実に居る。

そんな陰キャであるが空気が読め無いので、妙な所で押しが強く、ズカズカとパーソナルスペースに侵入して来るウザさをも持ち合わせる。

近くに絶対居て欲しくないタイプの人間である。
そして、現実にちょくちょく見かけるから始末が悪い。

「やるなよ、絶対やるんじゃないぞ」と読んでいて思った事を、シートンは敢えてやる。
このウザさよ。

しかも、スティーヴィもズルズルと相手の言いなりになって押し切られる。
家に上げたり、寝室に入れたりする。
「いや、速攻で叩き出せや!」とツッコミを入れざるを得ず、これまたストレスマッハである。
(まぁ、作中作の「タイピング」で書かれた通りに行動するので仕方が無いが)

このシートンのウザさが本作の一番の「肝」である。

正に、日本の妖怪の「ぬらりひょん」である。
のらりくらりと捉え所が無く、居座ってウザいという存在だ。

……しかし、クライマックスで不条理ホラーに「因縁」という理由付けがなされると、たちまちシートンの不気味さは霧消した

物事は、正体が分からない時に「恐怖」になるのだ。
原因が分かればもう怖くない。
「ぬらりひょん」であったシートンも、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」となるのだ。

 

 

本作『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』はスティーヴン・キング非推奨だという。

それは恐らく、キング作品の『クージョ』のパロディシーンがあるからだろう。(p.246~249の場面)

確かに本作はメタ展開やパロディがあり、ちょっと斜に構えた小説である。

だが、悪夢と現実が入り交じる展開や、会話出来ているのに話が通じない怖ろしさの部分は真っ当なホラー作品である。

これに、スティーヴィの生活感溢れる悩みが重なって、ある種のリアリティを生んでいる。
だから共感出来るし、イライラも出来るのだ。

そして、イライラが面白さとなっている小説が、本作『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』なのである。

 


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さて次回は、メタに走らずとも、面白いものは面白い、『ゲーム・オブ・スローンズ』第二章第1話について語りたい。