映画『ダンガル きっと、つよくなる』感想  スポ根オヤジのスパルタ教育はパワハラか!?

 

 

 

かつて、全国代表クラスの実力を持ちながら、生活の為にレスリングを諦めた男、マハヴィル。彼は「国際試合で金メダルを獲る」という夢を息子に託そうとする。しかし、生まれたのは娘ばかり4人。マハヴィルは夢を捨てたが、実は、娘はべらぼうに喧嘩が強かった、、、

 

 

 

 

監督はニテーシュ・ティワーリー

 

主演はアーミル・カーン
インド人俳優で一番有名と言えるではないでしょうか。
主な出演作に
『きっと、うまくいく』(2009)
『チェイス!』(2013)
『PK』(2014)他。

 

他の出演者に、ファーティマー・サナー・シャイク、サニャー・マルホートラ、サークシー・タンワル、アパルシャクティ・クラーナー他。

 

 

2016年12月に本国・インドにて公開された本作、『ダンガル きっと、つよくなる』。

一年以上の月日を経て、ようやく日本にお目見えです。

 

…まるで、謀ったかの様に、ある意味世間を賑わせているタイミングでの公開になった本作。

その影響か、偏屈オヤジが娘にパワハラをしている様な映画のイメージになっていますが、それは濡れ衣と言えましょう。

そんな穿った見方は一旦捨て、フラットな目線で見た方が楽しめます。

なんせ、

本作はインド映画の、全世界興行収入No.1の作品なのです。

 

さて、映画の内容を一言で表すと、

スポ根。

 

自分の夢破れたオヤジが、
娘にそれを託すべくスパルタ教育を施す物語です。

しかも、実話ベース。

 

実在の人物、出来事に、
オリジナルな映画的展開を加えたエンタテインメントとなっています。

 

喧嘩に強い、つまり、娘にはレスリングの才能があると判断したマハヴィルは、翌日から姉妹二人を鍛え始めます。

ランニング、手押し車、スクワット、、、

「女が髪切ってあんな格好している」

と、村の人に笑われながらも、訓練をやらされるギータとバビータの姉妹。

娘が泣こうが、妻が反対しようが、マハヴィルはレスリング指導を辞めず、
遂には、野良のレスリング試合にギータを送り込みます、、、

 

本作はインド映画特有の長尺、140分の上映時間があります。

しかし、起承転結、飽きさせる事なく面白さが最後まで持続、
クライマックスには涙が目に浮かんで来る事間違いありません。

親子問題、
パワハラ問題、
そして、インドにおける女性の人権問題なども考えるところがある、

しかしやはり、ストレートにスポ根を楽しめる、それが本作『ダンガル きっと、つよくなる』です。

 

 

  • 『ダンガル きっと、つよくなる』のポイント

オヤジのスパルタ教育、正にスポ根!

自分の夢を娘に託す事は、パワハラか!?

インドにおける女性と社会の問題

 

 

以下、内容に触れた感想となっております。

 


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  • 題名解説

『ダンガル きっと、つよくなる』。
原題は『Dangal』。

「きっと、つよくなる」の部分は日本オリジナル。
本作主演のアーミル・カーンが出演して、日本でもヒットした作品、『きっと、つよくなる』と無理矢理絡めた題名になっています。

では、「ダンガル」とはどういう意味なんでしょうか?

本作では、「ダンガル」なる人物は登場しません。
固有名詞では無いのですね。

公式ホームページによれば、
「ダンガル」とは、インド語で「レスリング」を意味するとの事。

また、広義の意味で、
情熱に溢れたファイター、
人間の尊厳、
などの意味をも含まれているそうです。

 

また、本作の日本予告篇では、
クライマックスがロンドンオリンピック(2012)の様なイメージでしたが、
実際はロンドン五輪の描写は全くありません

本作でのクライマックスは、
2012年、インドにて開催されたコモンウェルス大会(Commonwealth Games)です。

 

では、コモンウェルス大会って一体何?と思われるでしょう。

コモンウェルス大会とは、
いわゆるイギリス連邦に属する国や地域が4年毎に集まって開く国際的総合競技大会の事です。

日本では馴染みがありませんが、
オリンピック、世界選手権に次ぐ規模の国際大会です。

ザックリ言うと、
日本で言う所のアジア大会みたいな物でしょうか。

 

  • スポ根オヤジのスパルタ教育はパワハラか!?

『ダンガル きっと、つよくなる』はスポ根です。

スポ根とは、
かつて、日本でも絶大な人気があったジャンル、
該当する有名作品としては、
漫画『巨人の星』とか、
ドラマ『サインはV』、『スクール☆ウォーズ』なんかが当てはまります。

え?
例えが古すぎて分からないって?

そう、本作で描かれている精神性は、最早日本では時代遅れと呼ばれ、パワハラ認定される物です。

 

現代日本でも、
例えばボクシングの亀田一家などがそれに当てはまるでしょうが、
世間からは、やや白々しく見られているきらいがあります。

本作で描かれた様に、
親が自分の夢を押し付ける形で子供にスパルタ教育を施すのは、パワハラなのでしょうか?

これは難しい問題です。

何故なら、
スポーツの世界で結果を残している人間に、
「親の英才教育」を受けている人物は多いからです。

 

これは、将棋の話ですが、谷川浩司氏の『中学生棋士』によれば、
天才とは、年が若い頃から熱中して物事に取り組んだ人間が後天的に獲得するものだと言っています。

つまり、スポーツであれ、勉強であれ、
若い内から厳しく取り組んだ方が、後に結果を出しているんですね。

しかし、人間、自分に甘い物。
それが子供なら尚更です。

ストイックにスポーツ、勉強に取り組む人間などほんの一握り。
実際は、その殆どが外部的要因で修行を強要されたのだと考えられます。

やっぱり、パワハラじゃないか、
反抗する立場、意見を持たない相手に、上から否応無く自分の鋳型を押し付けているだけじゃ無いのか、
そう思われるかもしれません。

 

確かにその通りですが、最終的には、やらされた本人がどれだけ真剣になれるかどうか、
それが後に大成するか否かを決める要因だと思います。

結局は、
親がレールを作れるのは、ある段階まで、
つまり、子供が自意識を獲得するまでなのです。

厳しく育てられても、自意識が生まれ、サボる事を覚えると、
ルーチンワーク的修行の途中で、やりながら手を抜くという器用な事が出来るように成ります

手を抜くと、今まで結果が出ていたものが上手い事いかなくなり、実力が頭打ちになるのです。

その時に、人は選択する事になります。
腐って落ちぶれるか?
奮起して更に励むか?

この選択は、
親にレールを強要された人間でも、
人生において必ず対面する事になる問題なのです。

その後、どちらを選択するのか?
それまでは強要された人生でも、その選択は自分のもの、
つまり自分の人生なのです。

 

普通って何でしょう?

そこそこの教育を受け、
安定した仕事に就いて、
金銭的に困窮しない程度に贅沢する。

しかし、それは幸せなのでしょうか?
確かに平和で幸せです。
でも、全ての人間がそう感じる訳ではありません。

そもそも、人生は苦しいものです。

そして、人生に不満がある者は、
実はどんな状況にあっても不満を感じ続けるものなのです。

普通に家庭を持って平和に暮らしていても、その平凡さを嘆き、
親に強要された事をやらされても、その自由のなさを不満に思い、

結局は、与えられた状況を受け入れ、それを自分の人生と成す様に最善を尽くす努力をする者にだけ
人生の充実感が訪れるのです。

 

この充実感、達成感が人生になければ、
それを自分の所為にするより、
周りの環境が悪かったと言い訳した方がより自分は安全ですし、困難が少ないです。

 

一生懸命やって、達成感があれば、育ててくれた相手にも素直に感謝が出来ます。

しかし、挫折し敗北感を感じたなら、同じ事でも、それはパワハラとなってしまうんですね。

全ては、本人次第

ならば、自分の行く道を自分で決め、そこに邁進してこそ人生と言えるのではないでしょうか。

 

  • インドの女性問題

しかし、『ダンガル きっと、つよくなる』では、もう一つの問題が提起されています。

インドの女性は家事をする存在であり、
そもそも自分の人生は自分で決められる様なものでは無いというのです。

 

ギータとバビータは、やらされた形でレスリングをしていました。

しかし、実際のインドでの女性の扱いの現実、
「人生に選択肢が無い」という状況を理解し、練習に対する態度が変わります。

何故なら姉妹は気付くからです。

自分達には選択肢がある。
「普通に生きる人生」と「レスリングをする人生」。

さらに、「レスリングをする人生」には、まだその先があるかもしれない。

選べるだけでも、自分は幸せなのだと、
自分達は恵まれていると気付いたから、ギータとバビータは本腰を入れだしたのです。

これ、この気付きが、愛なんですよね。

結局、愛と信頼関係があるかどうかなのです。

 

  • 脅威の肉体改造

主演のアーミル・カーンは1965年生まれ。
撮影時の大体の年齢は50歳ですね。

アーミル・カーンと言えば、いつも凄い筋肉モリモリ、まるでリアル『キン肉マン』のような体を作って映画を撮影しています。

しかし、今回、中年太りを表現する為に肉体改造を敢行。
70キロのマッスルボディを、97キロのぶよぶよのドテ腹に変化させています。

これはある意味衝撃。

あのハリのある筋肉が見る影もありません。

さらにこの後、撮影の為に再び体重を元に戻したというのが狂気じみています。

映画においては、役作りの為に肉体改造等の徹底した努力を惜しまない「デニーロ・アプローチ」という言葉がありますが、
アーミル・カーンは正に、それを地で行く存在なのです。

 

それだけでは無く、いつもはちょっとおどけた演技で魅了しているアーミル・カーンですが、
今回は常にしかめ面の不機嫌顔。

しかし、それが実に嵌っていて、演技の幅を見せつけられ、驚いてしまいます。

 

また、本作の出演者、
ギータとバビータの姉妹役を演じた女優は、子供時代も長じても、

どちらもレスリング素人が、
役者本人がレスリングシーンを演じる事が出来るレベルまで練習を積み重ねて撮影に臨んでいるのだと言います。

この体当たり具合も、本作の魅力なのです。

 

 

女子レスリングと言えば日本では馴染み深い競技。

しかし、インドでは日本と根本的に違った問題等も抱えていると教えてくれる作品『ダンガル きっと、つよくなる』。

パワハラ問題、女性問題も扱いつつ、
真っ当にスポ根として楽しめる王道ストーリーです。

実在の人物である、ギータとバビータの姉妹。

彼女達は、実際に日本の吉田沙保里や伊調馨たちとも対戦経験のある選手です。

実話ベースの王道スポ根。
これがつまらないハズが無い、
それが、『ダンガル きっと、つよくなる』なのです。

 

 

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