エス・エフ小説『迷宮の天使』ダリル・グレゴリイ(著)感想  ジャンキーが薬でぶっ飛んで神に会う!?

 

 

神経学者ライダ・ローズは現在はジャンキー。彼女が仲間達と10年前に開発し封印したはずの、「神に出会う新薬」NM110を摂取したと思われる少女が自殺した。誰がNM110を世に出したのか?その謎を解く為に、ライダはかつての出資者に会いにゆく、、、

 

 

 

本書『迷宮の天使(原題:AFTERPARTY)』(2014)は著者ダリル・グレゴリイの第4長編。『迷宮の天使』が本邦での初翻訳作品である。

本書『迷宮の天使』は脳科学SF、という事になっているが、実際にはSF要素はその世界観の形成程度にとどまっている。その印象としては

ロードムービー的な冒険小説だ。

 

ハードSFに見られる理解が困難な独自理論は一切出てこない。
そっち系がニガテな人でも安心して読める。

むしろファンタジー的な要素もある。
主人公ライダは薬の影響で

常に幻覚がスタンドの如く付き添っている。

 

ちょっと奇妙なSF風味の冒険、といった所だ。
意外とサクッと読めて楽しめる作品だ。

 

 

以下ネタバレあり

 


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  • 自らの神と出会う

ライダがかつて所属した新薬制作会社「リトルスプラウト」は、向精神薬が高じて「神に出会う」事が出来る薬である。

ライダとかつての仲間達はその薬NM110の過剰摂取により、常に神が側に居る状態となってしまった。

面白いのが、この薬により出会う「幻覚」は各個人によって違う事だ。
つまり、「自分が思う善意の象徴」が見える様になってしまうのだ。
言うなれば、攻撃できないスタンドが事ある毎にアドバイスしてくれる、と言った感じだ。
(「スタンド」とは漫画『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくる守護霊的存在)

この「幻覚」はなかなか優秀である。
善意の存在が常に側に居る事になるので、自らの行為を律し自戒を促す。
また自らの潜在意識の存在なので、意識上に上がらない記憶を覚えていたり、その場その場の最適解を教えてくれたりする。

ハッキリ言って私も欲しい
これって一度勉強すれば、潜在意識の中からテストの答えを教えてくれるんじゃない?ちょー便利!

現在においては、信心は大義に利用され「神は死んだ」時代となっている。
そんな時代においての新しい「神」とは「自らの良心」と本書『迷宮の天使』では物語っているのだ。

  • 高性能FAX?ケムジェット

本書での面白いSFガジェットとしてケムジェットというものがある。

これは調合した薬をFAXの様に出力する機械である。
もはや薬局いらずのアイテムだが、本書内の使用用途ではドラッグの生成くらいにしか使っていないのが笑える。
まさに宝の持ち腐れである。

行き過ぎた便利アイテムは、最早快楽にしか利用出来ないのか?
この辺の厭世感はいかにもSF的である。

現在、3Dプリンタの技術がどんどん上がっている。
ケムジェットの様な便利アイテムが実現される時代も来るかもしれない。

 

 

SFをどの様に使うか?
本書『迷宮の天使』においては、その世界観を確立する為の方法であった。
物語は冒険モノなので、特別SF好きではなくても楽しめる。
あなたも神について一考してみては如何だろうか?

 

 

さて、次回一考してみるのは料理漫画の事。『花のズボラ飯』について語ってみたい。