SFオタクのボブはラスベガスで開催されたSF大会に参加していたのだが、そこで事故に遭ってしまう。117年後、ボブは意識を取り戻す。彼は、現代医学では修復不能の怪我を負った時、未来で治療を受ける冷凍保存の保険に加入していたのだ、、、
著者はデニス・E・テイラー。
本書をいくつものエージェントに送って商業デビュー。
好評を博し、保険外交員の職を辞め、専業作家となったそうです。
なんだか、アメリカ人作家の前職って、保険外交員が多いイメージなのは私だけでしょうか?
本作『われらはレギオン1 AI探査機集合体』は、いわゆる宇宙SF。
しかし、宇宙SFと一言でいっても、
ジャンルは更に細分化されている印象ですね。
しかし、本作には、全部入ってます。
冒険、機械知性、自己複製、戦闘、政治、文化人類学、ファースト・コンタクト、宗教、
宇宙SF作品にて見られる要素が、
これでもかと詰め込まれています。
無いのは、ハードSF要素位です。
2016年に意識を失い、
2133年に目覚めたボブ。
しかし、政治と社会状況の変化で、冷凍保存された個体は既に人間では無いと判断されているのです。
そんな状況のボブは、機械知性として未踏星域へ向けて宇宙探査ミッションを行うAI乗組員の訓練を受けます。
一番乗りが領有権を主張出来るという判断のもと、
各国の妨害がありながら出発するボブ。
辿り着いた土地で、作業の効率化を図るボブはある決断をします、、、
冒険、冒険、また冒険の本作。
とにかく、エンタテインメントに徹しています。
特に、主人公ボブの性格が陽キャオタク。
何か問題があるかもしれないが、
とりあえず行動してみるか!
如何にもアメリカンなノリが微笑ましく、
読んでて楽しい作品です。
しかし、本作は、
3部作の第一部で、
話が完結していません。
面白い作品である事は間違いありませんが、その点だけは注意ですね。
サクッと気軽に面白いSFが読みたい!
本作『われらはレギオン1 AI探査機集合体』はそういう欲求に応えてくれる作品です。
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『われらはレギオン1 AI探査機集合体』のポイント
色んな要素全部盛りの欲張り宇宙SF
一人でありながら、多数の主人公
サクッと読めて楽しい作品
以下、内容に触れた感想となっております。
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みんなボブ
本作、『われらはレギオン1 AI探査機集合体』はエンタテインメントに徹した作品です。
冒頭の導入部も、ダラダラやらずに、サクッとボブを再起不能にします。
そして、訓練して宇宙にでるまで約100ページ程。
兎に角、テンポが良いので読んでいて楽しいです。
特に、SF作品にありがちの謎理論を展開しないのが良いです。
作中で、『スター・トレック』ネタが散々出てくる事から分かる通り、
つまる所、この作品は冒険モノなんですね。
冒険の先で様々な困難、
政治であったり、
敵との戦闘だったり、
未開部族の社会学だったり、
ファースト・コンタクトなんかに出会っているのです。
さて、本作で特徴的なのはやはり、
主人公ボブが3Dプリンターで自己複製して、自分を沢山作るという発想でしょう。
自分が既に人間では無いと、
まぁ少しは悩みますが、それを受け入れ、
ならばとばかりに倫理観をあっさり乗り越え自分の複製を作ります。
しかも、コピーをコピーしたら、前とちょっと違っているのと同じで、
作ったボブは性格がちょっとずつ違う。
自分が沢山いるのに、同じ個体では無い。
これが面白いんですよね。
この統一性が、
ボブ VS. 宇宙のトラブルあれこれ
といった感じの、
まるで群像劇の連続ドラマを観ている様な感覚になります。
ボブが、同時多発的に宇宙の様々な場所に偏在し、
それぞれのドラマが同時進行して行く。
主人公が一人なら、物語は直線になります。
しかし、本作は主人公は一人なのに、複製して沢山いるから、
一人の主人公の物語なのに重層的な構成の群像劇となっているのです。
こういうアクロバティックな事が出来るのが、SFの面白い所です。
作中、ボブの数が増えていって、
「あれ?第何世代の、誰の複製のボブだっけ?」
と段々分からなくなってきます。
表を作って確認しつつ読むのも面白いですが、
そこには拘らず、全部ボブだと割り切って読む事も可能なのです。
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われらはレギオン
され、その自己複製。
実は、題名を見るとその展開が何となく予想されるのです。
本書の現代は「WeE ARE REGION (WE ARE BOB)」となっています。
では、レギオンとは何か?
レギオンとは:
古代ローマにおける、軍隊、軍団の事だそうです。
また、新約聖書の
「マタイによる福音書」第8章、
「マルコによる福音書」第5章、
「ルカによる福音書」第8章、
にそれぞれ記述がある悪霊の事でもあります。
イエスに名を問われた悪霊が、
「My name is Legion. For we are many.」
と答えたとあります。
「我々はレギオン(軍団)である。何故なら、沢山いるからだ」
とでも訳しましょうか。
紀元1~2世紀頃に書かれたとされる新約聖書にて、
悪魔が、ローマで軍団を意味した「レギオン」を名乗っている事に、少なからぬ皮肉を感じますね。
つまり、本作で言うと、
「一人であり、多数である事」
という意味が込められているのですね。
因みに、私的にレギオンと言えばゲームのキモいモンスターの印象があります。
『悪魔城ドラキュラ 月下の夜想曲』シリーズや
『真・女神転生』シリーズの丸いブヨブヨした感じのモンスターですね。
特に、『悪魔城ドラキュラ 月下の夜想曲』のレギオンには悪夢的な恐ろしさがあったのが印象的です。
地球から現地人を脱出させつつも、
他に様々な謎を置きっ放しにして終わってしまった、
本作『われらはレギオン1 AI探査機集合体』。
ボブは、見守る社会集団に介入し過ぎでは無いのか?
「メデイロス」との闘争は、今後どう進展して行くのか?
移民団が、このまますんなり植民出来るのか?
そして、マリオが見つけた痕跡は何を意味するのか?
様々な謎をクリフハンガー的に引っ張って終わってしまった本作。
是非とも、次巻も読まねばと、今からワクワクしています。
*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています。
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