映画『カメラを止めるな!』感想  楽しい!!映画って、こんなに楽しいんだ!!

 

 

 

ゾンビ映画『ONE SHOT OF THE DEAD』の撮影現場。人里離れたこの場所で映画を撮っていたクルー達。監督は演技に満足出来ず、既に42テイク目。一旦休憩を入れたその時、実際にゾンビに襲われた!!、、、

 

 

 

 

監督は上田慎一郎
短編映画を撮影し、
本作が初の長編作品となる。

出演は
監督:濱津隆之
メイク:しゅまはるみ
男優:長屋和彰
女優:秋山ゆずき
カメラマン:細井学
助監督:市原洋
録音マン:山﨑俊太郎 他

 

 

無名の監督、

無名の役者、

低予算のインディーズ映画。

それが、まさかの口コミで大ヒット中!!

 

今年の映画賞レースを、
万引き家族』と争うと言われている本作。

一体全体、どんな映画なの?

果たして、面白いの?

そんな感じで観に行きました。

 

さて、本作は、

いわゆる劇中劇。

 

映画内で
「ONE SHOT OF THE DEAD」というゾンビ映画を撮っている、

という設定の映画です。

こういう多重構造の作品は、

小説だったりしたら、
メタ的な構成の凝った作りのミステリで、面白い作品が多いです。

映画作品にも
『インセプション』(2010)という傑作がありますね。

 

しかし一般的に、映画作品で
劇中劇(映画内映画)をテーマにした場合、

映画を褒める映画となってしまう事が多いです。

映画礼賛映画といいますか、

自画自賛といいますか、

オナニーを観せられている感覚に陥るんですね。

数年前にアカデミー賞を採った
『アーティスト』(2011)『アルゴ』(2012)なんかはそうですね。

 

それなりに面白くはありますが、

正直に言うと、

俺はテメエのオナニーなんて観たかねぇんだよ!

本番見せろ!!本番!!

 

という気持ちになっちゃうんですよね。

 

さて、
「劇中劇」という曖昧な前知識のみで観に行った『カメラを止めるな!』。

ゾンビ映画を撮っていたら、
マジのガチでゾンビに襲われた!!

という設定のみを知っていました。

若干の不安がありながら、
しかし、
一抹の期待を捨てきれずにいた訳ですが、、、

 

これが、

面白かった、

いや、

楽しかった!!

映画を観て、
こんなにワクワクしたのは何時以来だろう!?

 

そんな感想を持ちました。

 

本作は低予算映画。

なので、

純粋にアイデア勝負なのです。

 

 

まず、冒頭が凄い。

37分間、ノーカット。

 

舞台劇ではありません。

特殊効果やアクションシーンもある、
ゾンビ映画をこの長さでやる。

このチャレンジ精神たるや。

そして、
その後は、そのワンカットで撮った映画「ONE SHOT OF THE DEAD」を礎石とし、
物語が展開して行きます。

この、構成が絶妙。

 

成程~、そうきたか~

と唸らざるを得ません。

 

そういうアイデア面での面白さもさる事ながら、

本作で最も目立つのは、

その作品作りの熱量。

 

「俺たちは、ガチで作品を作っているんだ!!」

画面から溢れ出る、その叫び声、喘ぎ、疾走感、

本当にギリギリの所で作っている、という真剣さが隠しようも無く伝わって来ます。

 

このガチさ、

本番っぷり、

そうそう、こういう映画が観たかったんだよ!!

そう思わせてくれます。

 

それは、純粋に
「映画を観る」という事の喜び。

 

面白い映画は沢山あります。

しかし、
本作の様に、
観て「楽しい」映画というものは、中々無い。

ゾンビにドキドキして、

映画作りにハラハラして、

見舞われる災難の数々は、観ている分には笑えるのに、

最後には謎の感動が待っている。

すれっからしの映画ファンが、

久しく失っていた
「映画を観て感情が揺さぶられる感覚」

これを味わう事になるでしょう。

 

面白くって、
楽しくって、

そして、映画の素晴らしさを実感出来る作品、

『カメラを止めるな!』

これぞ、映画愛映画なのだと言うべきものなのです。

 

 

  • 『カメラを止めるな!』のポイント

37分間ワンカットのゾンビ映画「ONE SHOT OF THE DEAD」

アイデアが光る、構成の妙

本気で無茶をやる疾走感

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 


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  • 低予算映画

先日、映画監督の園子温が活動拠点をアメリカに移すかもしれないというニュースを見ました。

彼は、最早、日本にてエンタメ系の作品を撮影する意義や意味は無いといいます。

エンタメ系の作品では、予算が全てであるのだ、と。

そして、
日本で評価されるには、
海外の「賞レース」に参加せざるを得ず、
それに煩わしさがあるのだと言っていました。

 

悲しいかな、
それが現在の日本の現状なのでしょう。

 

しかし、
現代において作品が評価されるもう一つの道に、
「口コミ」というものがあります。

これが広がって評価された、

近年ではアニメの『この世界の片隅に』(2016)という作品がありました。

そして、本作は、正にその口コミが現在進行形で拡がっている作品。

 

また、
低予算での長編映画のデビュー作といえば、

クエンティン・タランティーノ監督の
『レザボア・ドッグス』(1992)を彷彿とさせる、

正に、アイデア勝負の作品。

 

『カメラを止めるな!』は、
そういう要素を持っている作品と言えるでしょう。

 

  • 多重構造と構成の妙

『カメラを止めるな!』は劇中劇にて繰り広げられる、
多重構造の作品です。

 

1:廃墟で撮影されるゾンビ映画

2:そこで実際にゾンビに襲われる様子を描く「ONE SHOT OF THE DEAD」

3:「ONE SHOT OF THE DEAD」の撮影を描く、『カメラを止めるな!』

 

という設定ですね。

(実は、さらに階層があるのですが、それは後述)

 

そして、面白いのは、その構成。

『カメラを止めるな!』は3幕構成になっています。

1:「ONE SHOT OF THE DEAD」そのもの

2:一ヶ月前から始まる、「ONE SHOT OF THE DEAD」の撮影準備期間

3:「ONE SHOT OF THE DEAD」撮影舞台裏の様子

 

この構成が面白い!

 

先ず、
第一幕、冒頭37分、ワンカットで作り上げた「ONE SHOT OF THE DEAD」

初っ端で、ゾンビ映画の撮影中だと分かる展開。

正直、最初は「学芸会」感が画面からにじみ出ています

「これ、大丈夫か?」と思いつつも、

「拙さを楽しむ展開なのかな?」とか、考えてしまいます。

しかし、
徐々にその空気感が嬉しくなって来るのです。

「こういう手造り感のノリ、良いなぁ」と。

 

そして、作品の空気感と劇場の観客の雰囲気が変わる瞬間がありました。

それが、
「坊主頭の録音マンが、急にドアを開けて外に出ようとする」シーンです。

「おい、ちょっと待てよ!!」
という、観客のツッコミと出演者のツッコミがシンクロする瞬間

この時、劇場では笑いが巻き起こっていました。

 

そして、ガッツリカメラ目線で監督が言う台詞、
「撮影は続ける!カメラは止めない!」

ここで、
「え?カメラも意識している設定なの?」と、
ちょっと困惑してしまいます。

 

さて、その後、
メイクが暴走を開始するシーン
あの血塗れで、イっちゃってる目つきで、
「確認するだけだから」という場面にて、

劇場は正にホット。

ゾンビもの恒例、

ゲームの『デッドライジング』でも再三描かれた、

「ゾンビそのものより怖い、サイコパス」の登場です。

 

その後のバッタバッタとゾンビを倒す様子や、

都合良く斧を拾い、棒読みするシーンで、

ドッカンドッカンきてましたね。

 

この、文化祭というか、学園祭というか、

まるで、『涼宮ハルヒの憂鬱』のアニメ放映第一話を観たかのようなこの感覚

「何だか、凄い物が始まっちゃったぞ!?」という印象を残し、

驚異のワンカットが終了します。

 

しかし、映画の肝は、実はここからが本番。

無茶な企画を押し付けられて、
個性豊かなワガママ連中が集う第二幕。

ここで「ONE SHOT OF THE DEAD」がワンカットのみならず、

実は生放送でもあったという無茶苦茶な設定が判明します。

 

そして第三幕。

ここで、一気に、怒濤の様に始まる伏線回収

第一幕で散々描かれた、
違和感ある「学園祭ノリの演出」、

これが、生放送、ワンカット故のトラブルを乗り切る、
決死の努力の結晶であったのだと分かります。

そして、第二幕で再三描かれた、
出演者自身の人物造型。

この個性が活きて、
第三幕では「ONE SHOT OF THE DEAD」の撮影現場を感情移入して観る事が出来るのです。

 

  • 熱量の結晶

そして、この第三幕のわちゃわちゃ感、

学園祭で、トラブルがありながらアドリブで繋げる感覚、

回らない現場を、バイトのみで無理矢理成り立たせる絶望感、

むしろ、続出するトラブルが、逆に楽しくなってくるマゾヒスト的感覚、

この絶体絶命が転じて、笑いとなる、
必死さ故の面白さこそが、

本作を傑出させている要因なのです。

 

まるで、
ソフトのオーディオコメンタリーを、演技で観せられている様なこの第三幕

映画ファンなら夢中にならないハズが無い!!

何気ないシーンの裏で繰り広げられていた、

スタッフ、出演者の心の中で吹き荒れるドライブ感、

それが、最早演技を超えたものとして、観客にまで伝わって来るのです。

ラストのクライマックス、
大人の組み体操のシーン。

これは、リハーサルでも一度も成功せず、
本番の15秒間のみが唯一の成功シーンなのだといいます。

あの必死な形相、

ゾンビメイクのままに、
監督も出演者もプロデューサーも一致団結して撮ったラストシーン、

あれだけ笑ったのに、
最後には図らずも、謎の感動が襲って来ました

 

 

 

 

計算され尽くした、
多重構造を活かした三幕構成の妙

そして、
口にする以上の困難を、一致団結して乗り切った感がありありの、
現場のドライブ感

 

ラストのエンドロールでは、

4:『カメラを止めるな!』を撮影する様子を撮影している

という、
さらなる多重構造を重ねて来た本作。

スタッフ、出演者が一致団結して作品を作り上げるという事、

作り手が作品を愛しているからこそ、

観客にその熱量が伝わり、

それが、面白さを超えた、「楽しさ」

即ち、
観客の感情をすら作品に巻き込み
劇場を笑いと感動でつつみ、

正に、映画館だからこ提供出来る、
映画の素晴らしさを称賛する観客の反応が、作品のノリに織り込まれる現象

(そしてそれは、多重構造における
5:現実世界
でもあります)

それを作り上げた希有な作品、

『カメラを止めるな!』はそういう作品なのです。

 

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