映画『泣き虫しょったんの奇跡』感想  後悔先に立たず…からの、まさかの大逆転!!


 

小学生の頃から将棋大好きの瀬川昌司。幼馴染みの鈴木悠野とは勝負の日々。町の将棋クラブにも通い、グングン実力を伸ばしていた。そして、中学生になり、二人は大会に出場するのだが、、、

 

 

 

 

監督は豊田利晃
自身も奨励会出身。
主な監督作に
『ポルノスター』(1998)
『アンチェイン』(2001)
『クローズEXPLODE』(2014)等がある。

 

主演の瀬川昌司役に松田龍平

他の出演者に
野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介、イッセー尾形、大西信満、美保純、國村隼 等。

チョイ役でも
松田たか子、新井浩文、早乙女太一、妻夫木聡、小林薫、渡辺哲、上白石萌音、板尾創路、藤原竜也 と無駄に豪華。

 

原作は瀬川昌司が自身の半生を綴った同名作品『泣き虫しょったんの奇跡』。

つまり、
映画も実話ベースの話となっております。

 

一握りの天才の中から、更に天才を集めた、

それが将棋のプロの世界。

将棋のプロになるには、
新進棋士奨励会に所属し、
満26歳になる前に四段に昇格しなければなりません。

四段(プロ)になるには、
年二回の三段リーグにて上位2位までの成績を収める必要があります。

 

この条件を満たせば、プロになれます。

 

しかし、それを果たせなければ、、、

 

そうです、
本作『泣き虫しょったんの奇跡』は

夢に挑み、
敗北した者の物語なのです。

 

人生、
全ての人間が、必ず自分が思う勝者になれるとは限りません。

夢に破れた者が、
その後どの様な人生を送るのか、、、

シビアな現実を描いています。

 

だが、しかし、

本作はその題名を見ても分かる通り、

失敗した人生からの大逆転が起こる

 

その物語なのです。

 

挫折や敗北から、
如何に立ち直るか。

 

人間、生きている内に、何度も経験する敗北感。

しかし、
人生は続く。

負けた後の人生で、
如何にして充実感を得るのか?

そう、勝負は一度では終わらない、
自分が諦めなければ!

 

その事を描いた作品なのです。

 

将棋を舞台にした映画ですが、

そのテーマ性を考慮すると、
人生を描いた作品とも言えます。

なので、
将棋のルールを知らなくとも、観て共感出来ますし、

その作品の中で、
奨励会のルールも簡単に説明されるので、
なんら難しい所はありません。

モブキャラすらも、有名役者を配置し、
観ていて飽きる所がありません。

 

テーマ的にも、
ビジュアル的にも、
見どころの多い『泣き虫しょったんの奇跡』。

将棋好きにも、
そうでない人にも、
観て欲しい作品です。

 

 

  • 『泣き虫しょったんの奇跡』のポイント

夢に挑み、敗れる者の物語

敗北者が立ち直る物語

細かい部分に気を遣った作品

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 敗北の説得力

本作『泣き虫しょったんの奇跡』は、
夢に挑み、
それに破れ、
しかし、その後に大逆転を果たし、
結果、夢を叶えた人間の話です。

人生の敗北者が、しかし、
その後の人生で再びチャンスに恵まれ、それを掴みとる

人生、諦めなければ、大逆転も起こり得る。
まるで『スラムダンク』の安西先生の台詞を地で行っていますが、

これが実話ベースなのだというから驚きです。

 

さて、本作では大まかに分けて二部構成。

将棋のプロに挑み、失敗するまでの話と、

失敗した後の人生から、大逆転する話です。

大逆転するからカタルシスがあるのですが、
それには、
前半の挫折の辛さに説得力がなければなりません

ある意味、
挫折の部分が最も重要とも言えますが、

本作でも、その部分に特に注力している印象を受けます。

 

将棋の天才を集めたといわれる、
新進棋士奨励会。

しかし、
天才が集まれば、
その中にも実力差が発生します。

本作の主役の「しょったん」こと瀬川昌司と同年齢の羽生善治や、
最近注目の藤井聡太の様に中学生にしてプロになる人もいれば、

夢叶わず、挫折してしまう人もいます。

その、挫折した人間の描写が、
本作はリアルなのです。

 

実力のある他人に夢を託すしか無い、
中学生時代に将棋クラブで出会ったオジサン工藤(イッセー尾形)。

神経質な様子に友人が離れていって、
いつの間にか奨励会から消えてしまった加東(早乙女太一)。

周囲に実力を認められながら、
それでもプロになれなかった冬野(妻夫木聡)。

慟哭しながら、奨励会を辞めて行った畑中(駒木根隆介)。

そして、極めつけはしょったん自身の独白です。

 

「時間が沢山ありながら、無駄に過ごしてしまった」

「本気で物事に取り組まなかった」

正に、後悔先に立たず

 

「好きな事をやれ」と夢を後押ししてくれた父が、

「お前はよくやった、ゆっくり休め」と、
挫折した後に慰めてくれた言葉、

しかし自分自身に、
真剣に、燃え尽きるまでやったという自覚が無い為に、
その優しさが逆にしょったんの後悔と慚愧を際立たせます

 

物事に本気で取り組まないのは、
ある意味「逃げ」なのです。

人間、負けるのは恐いし、辛い、嫌です。

しかし、本気でないなら、
「真面目にやってないから」とか、
「真剣にやったら勝てた」とか、
言い訳をする事が出来ます。

そう、本気でやって、
それでも負けて、
言い逃れの出来ない状態での敗北を認める事からの逃げ

それをしょったんはやってしまっているのです。

 

空いた時間でパチンコしたり、競馬したり、
ストⅡしたり、マリカしたり、ジャンプ読んだり、

1年365日、24時間、一分一秒、

真剣に将棋に取り組まなかった。

そういう自覚が後悔となり、
その後悔こそが敗北感なのです。

 

本作では、その描写がリアル。

自分が終わるまで、
危機感を自覚していないルーズさや、

横断歩道を歩行中、
急にタールに塗れる様に、絶望の沼に沈んでしまい、
叫び声すら他人に届かない悪夢に囚われるのもまたリアルです。

 

聞くところによると、
どうやら監督の豊田利晃は、
自分自身も9歳~17歳まで奨励会に所属していたとの事。

確かに原作はありますが、
それにプラスして、
自分自身が体験した事を描いたからこそのリアル感なのだと思います。

中でも、特に敗北感が際立っているのは、
その当時の監督自身の気持ちなのかもしれません。

 

  • 細部への拘り

『泣き虫しょったんの奇跡』は、
そういうリアル感に溢れた作品ですが、

そのリアル感を演出するのは感情面もさる事ながら、

細かい所まで気を配った演出も、
それに一役買っているのだと思われます。

 

例えば、小学生時代のしょったん。

先生に、「ドラえもん」が好きと言いますが、

その後に届く先生からの手紙に、さりげなく「ドラえもん」が描かれています。

ちゃんと覚えていてくれた、
しょったんならずとも、ちょっと涙が出そうになります。

また、
教室で対戦している太っちょの子供の名前が「郷田猛」(ドラえもんのジャイアンの本名)だったりするのは、
ちょっとクスリとする所。

 

冬野と雨の中、会話するシーン。

しょったんを良い人と言い、
その理由を聞かれた冬野は、

「タバコをくれたから」と答えます。

直前まで、将棋の指し方の話をしていてその返答。

敢えて、しょったんの指し方が好きだったという本音を言わないテレ隠しが、

短いシーンながらも、印象が強く残る会話となっています。

 

サラリーマン時、
となりの席の同僚が応援メッセージをくれます。

そのメッセージを、
ファイルに大切に挟んでいる様子をちゃんと描写しているのは、
細かいですが、ちょっと心がほっとする場面です。

 

そして、将棋を指す場面。

「ぱちり」という小気味の良い音が響き、

そして、
駒をマスの下線にちゃんと合せている、

この一連の所作が、観ていて美しいです。

 

細かい所ではありますが、

そういう細部に宿る気遣いも、
本作をリアリティのある作品へと押し上げている土台となっているのです。

 

  • しょったんというキャラクター

リアルな敗北感、

細かい描写の積み重ね、

観客が共感出来る部分が多いからこそ、

その後の大逆転の場面で感動出来る、

『泣き虫しょったんの奇跡』はそういう作品なのです。

 

しかし、それだけではありません。

プロ編入試験の可否を投票で決めた際、

賛成129、反対52という結果となりました。

旧来のルールを曲げる事なのに、
これだけ賛成票が集まる。

これは、やはり、
対プロ戦の成績の部分もさる事ながら、

しょったん自身の人柄に依る所も大きいのだと思います。

 

プロは元々、奨励会出身者、
しょったん自身を知っている人も多かったハズです。

「アイツ嫌い」と思われていたら、
反対票がもっと多かったはず。

むしろ、プロ棋士達に、
「しょったんがプロになるなら、それを応援したい」
と思われていたから、
これだけの賛成票が集まったのだと思います。

 

冬野は、
「他人を陥れる指し方でないと、プロにはなれない」
と言っていました。

そうでないしょったんはプロになれなかった。

しかし、
そうでなかったからこそ、
その人柄でプロになるチャンスを掴んだとも言えるのではないでしょうか。

自分を枉げなかった為にプロに成れず、
しかし、それでいて夢を叶えた

将棋という
勝利至上主義の対戦競技において、

勝敗の埒外にある勝負論を貫いた

その要素も、
本作が「奇跡」たる由縁であり、
カタルシスとなっているのです。

 

  • リアルジェロニモ

プロに憧れながら、プロでは無く、
プロと戦い、
そこからプロに成る事が出来た。

この設定、
なんと無く『キン肉マン』の「ジェロニモ」というキャラクターを思い出させます。

ジェロニモも、
人間でありながら「超人」に憧れ、

超人に戦いを挑み勝利し、
その後超人と成った人物です。

(しかし、超人になった後より人間の時の方が強かった、とか言われるのはご愛嬌)

 

普通の人間とプロ棋士の間には、
キン肉マンの一般人と超人くらいの差がある

こう言ったのは、漫画家・柴田ヨクサルです。

実はこの柴田ヨクサルも子供の頃はプロ棋士を目指し、
しかし、当のプロ棋士に「お前の実力では無理だ」と言われ、諦めた過去を持ちます。

その彼の描く『ハチワンダイバー』という将棋漫画も面白い作品です。

興味があれば読んでみるのも良いと思います。

 

 

 

細かい描写でリアル感を演出し、

リアルな敗北感からの、
奇跡の大逆転にてカタルシスを生む。

この出来過ぎの展開が、
実話だからこそ面白い『泣き虫しょったんの奇跡』。

人間、
いくつになっても夢は捨てきれない、

しかし、
捨てないからこそ浮かぶ瀬もある、
そういう、ある種の希望を見せてくれる作品なのだと本作は言えるでしょう。

 

 

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しょったんこと、瀬川昌司自身による原作です

 


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