映画『フロントランナー』感想  選挙の本質は、政策に非ず、人心掌握!?


 

1988年、民主党の大統領予備選にて最有力候補(フロントランナー)となったゲイリー・ハート。大局観、巧みな話術、ルックス、どれを取っても抜きん出ていた彼は、しかし、予備選より撤退する事となる。本作は、3週間で状況が一変した、その顛末を描く、、、

 

 

 

 

監督はジェイソン・ライトマン
カナダ出身。
父親は『ゴースト・バスターズ』を監督したアイヴァン・ライトマン。
監督作に
『サンキュー・スモーキング』(2005)
『JUNO/ジュノ』(2007)
『ヤング≒アダルト』(2011)
『とらわれて夏』(2013)
『タリーと私の秘密の時間』(2018)等がある。

 

出演は、
ゲイリー・ハート:ヒュー・ジャックマン
リー・ハート:ヴェラ・ファーミガ
ビル・ディクソン:J.K.シモンズ
ドナ・ライス:サラ・パクストン 他

 

 

アメリカにおいて、
大統領を選ぶ選挙は、
共和党、民主党、それぞれの代表者の一騎打ちにて決まります。

そして、党代表を決める為に、
大統領予備選にて、各党の代表者を決めるのです。

1988年、
アル・ゴアやマイケル・デュカキスを抑え、
民主党のトップ候補(フロントランナー)となったのが、
ゲイリー・ハートです。

その彼が、スキャンダルが原因で、
大統領予備選を撤退する様子を描いた本作。

他国の、
しかも、30年前の選挙の様子を観て、
それが面白いのか?

面白いんです。

何故、今30年前の
大統領予備選を観るのか?

 

その意味を考えると、本作の面白さに気付きます。

 

 

歴史や、
過去の実話を学ぶ事は、

現在、そして、未来をどう生きるかに通じる事です。

過去の過ちを繰り返さず、
より良く生きる為の指標になるからです。

本作にて描かれるのは、

選挙と政治の関係です。

 

マスコミの報道、
それに伴う、民衆の興味の変化によって、

選挙が決定的に変わった瞬間、
その事を、
1988年の大統領予備選に見た、

本作のテーマはそこにあります。

 

それを描く上で、
本作は
ゲイリー・ハート陣営、
ゲイリー・ハートの家族、
ワシントン・ポスト紙、
マイアミ・ヘラルド紙、
ドナ・ライス、

それぞれの登場人物を
それぞれの立場で描く群像劇

 

とする事で、

必然にか、
偶然にか、
突如起こった政治報道のパラダイム・シフトを演出しているのです。

 

ここから始まったとされる報道姿勢は、
現代のアメリカ、

そして、
現代の日本にも通じるものが観てとれます。

 

過去の事件、
しかし、
そこから、現代の政治、選挙、報道、の在り方を、
俯瞰して観る事が出来る。

『フロントランナー』は、
正に、今、観るべき映画と言えるでしょう。

 

 

  • 『フロントランナー』のポイント

政治と選挙

報道姿勢とスキャンダル

大衆迎合

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 女性関係スキャンダル

本や漫画を読む場合、
熱心な読者は、
作品に熱中するあまり、
その作者のキャラクター性にまで注目する場合があります。

しかし、
「作品と作者は別物として見てほしい」と、
多くの作者が言っている通り、
作者と作品と混同すると、
読者は失望する事になります。

作者の私生活や言動が、
作品のテーマを損なう、又は、反する場合が多数あるからです。

故に、
作者は、
あとがきやインタビュー、SNS等で、滅多な事を言うと、
途端に炎上してしまいますので、

現代においては、
その発言に細心の注意を払う必要があります。

 

さて、翻って、政治の問題です。

謂わば、公人である政治家ですが、
政治理念や政策を差し置いて、

有権者は、
その私生活にどれだけ踏み込む事が出来るのか?

私生活がどうあろうとも、
政治家としての能力が高ければ、
それで良いのではないのか?

そういう疑問、主張が政治には存在します。

 

本作『フロントランナー』では、

政治理念や政策についての大局観を差し置いてでも、

政治報道、
あるいは、有権者の興味が、

政治家の私生活やスキャンダルについて敏感になった
その転換点を描いた作品なのです。

 

その中でも、
男性政治家の女性スキャンダルというのは、
洋の東西を問わず、命取り。

「不倫」というキーワードは、
一斉に人格叩きが発生する、格好の餌食となります。

ゲイリー・ハートは、
自宅にドナ・ライスを招き入れて、数日を共に過ごすという、
愚行を演じます。

それどころか、
その自宅には、ハートの選挙スタッフが出入りしていた為、
謂わば、
スタッフ公認の、公然の秘密だった訳です。

もう、今では信じられない事態ですが、

この事実からして、
当時(の選挙スタッフ)は、
政治、選挙と私生活は、別物と考えていた事が窺えます。

 

しかし、
スキャンダル発覚からの、報道の一連の流れ、

そして、
ゲイリー・ハート陣営の対応のマズさ、

そこを突く形で、
さらに報道が過熱する事で、
政治家の私生活スキャンダルが注目を集める事になるのです。

 

  • 政治報道の変化

先ず、
ゲイリー・ハートの不倫をスキャンダルしたのが、
マイアミ・ヘラルド紙。

「まるで、ハリウッド俳優を追うパパラッチ」と言ったのは、
作中のゲイリー・ハートですが、

今では当たり前に感じる、
政治家のスキャンダルの隠し撮りも、
その当時は、卑劣な行為と認識されていたのです。

自分の不貞行為より、
隠し撮りの方が、倫理的に問題がある

そういう認識が、ゲイリー・ハートにあったのだと思われます。

 

ですが、
現実はそうでは無かった。

民主党候補の中でも、フロントランナーであった為に、
スキャンダルはかえって悪目立ちし、
新聞から発したスキャンダルは、
TVメディアにより、一層広く人口に膾炙する事になります。

これは、
衛星放送、現場の突撃取材など、
TVメディアの発展が、報道の即時性を高めた事とも、
関係していると思います。

 

一方、ゲイリー・ハート自身は、
都合の悪い図星を突かれた事が痛かったのか、

敢えて、加熱する報道を無視します。

更に、選挙対策を与るスタッフの大黒柱、ビル・ディクソンに、
不倫報道の対応を迫られ、
ハートは逆ギレします。

「俺はアメリカの未来、政治の大局観の為に生きているんだ。スキャンダルなどという些事に関わっている暇は無い。それについて、スタッフ共に説明する義理も無い」

報道の過熱化により、
時代の変化を敏感に感じていたビル・ディクソン。

バーガー店で、肉を焼いたのだって、
実は、民衆目線の人気取りだった訳ですから。

しかし、
自身を支えるスタッフを軽視する発言をしたゲイリー・ハートに、
彼は三行半を突き付け、選挙対策本部から去ります。

ある年齢から上は、
政治(仕事)と私生活は別だと割り切っています。

しかし、
若い世代はそうでは無い、
私生活も含めて、公人としての政治家を見る時代なのです。

選挙スタッフにも、
勿論若者が居る。

彼達を軽視する発言は、
スタッフの士気に大いに影響した事でしょう。

私は、
本作のテーマとは別に、
この発言が影響して、
スタッフの人心が離れ、白けた空気が選挙事務所に流れ、
その空気にいたたまれなくなった事が、
ゲイリー・ハートの撤退の一因となったと考えます。

また、不倫、不貞を軽視する発言は、
女性蔑視にも繋がる発言です。

ドナ・ライスが作中で言っていた苦悩、
「能力があっても、それに見合う職に女性は就けない」
というのは、当時を表す発言なのでしょう。

 

閑話休題。

ヘラルド紙やビル・ディクソンを、
論点をズラした口撃で退けるゲイリー・ハートですが、

しかし、
それ自体が、不倫の事実を肯定する事であり、

また、
家族の外出まで支障がでる状況にあって、

ハートは釈明会見を開かざるを得なくなります。

 

さて、
そこでワシントン・ポスト紙です。

ワシントン・ポスト紙と言えば、
昨年の映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』などで描かれた顛末を経て、

政治に屈せず、
事実に即した真っ当な記事を提供するという理念を持っている
そういうイメージのある新聞社です。

因みに、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』にて、
トム・ハンクスが演じた、ワシントン・ポスト紙の主幹、ベン・ブラッドリーは、
本作ではアルフレッド・モリーナが演じており、健在です。

そのワシントン・ポスト紙所属の、
ゲイリー・ハート番記者であるA.J.パーカーの記事にて、

「いくらでも追跡するがいい」と言ったゲイリー・ハートの発言を受ける形で、
マイアミ・ヘラルド紙は盗撮をした、
そういう経緯があります。

マイアミ・ヘラルド紙がスキャンダル第一報を報じた当初は、
ワシントン・ポスト紙は、それに追随する様子ではありませんでした。

スキャンダルは、
三流紙に任せていれば良い、そういうスタンスです。

しかし、
加熱する報道と、世間の興味の増大を目にし、
商売という側面もある新聞社としては、
政治スキャンダルを報道せざるを得なくなり、
ゲイリー・ハートの釈明会見に臨みます。

あの、ワシントン・ポスト紙でさえ、スキャンダルを扱う、

遂に、報道が、
政治理念よりスキャンダルに重きを置く、
その転換点が、
正にこのワシントン・ポスト紙の宗旨替えであったと言えるでしょう。

 

さて、本作で描かれる、
ワシントン・ポスト紙のゲイリー・ハートの番記者、A.J.パーカーは、
本作でも、最も興味深い人物の一人と言えるでしょう。

A.J.パーカーは、
ワシントン・ポスト紙内では、ゲイリー・ハートの立場に立ち、
彼を擁護し、或いは、信奉する発言も垣間見えます。

しかし、会社の方針で、
彼はハートの私生活のスキャンダルを追求せざるを得ません。

一方、
ゲイリー・ハートの前では、
遠慮しながらも、舌鋒鋭く聞きにくい質問をズバズバと切り出します。

ハートの釈明会見においても、
「あなたは不倫していますか?」
という、最も決定的であり、
誰もが聞きたかった質問をしたのが彼であり、

その質問が、ハートの致命傷となります。

ワシントン・ポスト紙から見ると、ハート寄り、
ゲイリー・ハートから見ると、新聞社寄り、

両者からコウモリの様に扱われる彼が、
結果的には、
報道と政治の在り方を決定的に変える、
その一翼を担ったというのは、興味深いです。

 

  • その後の大統領選

その後、ゲイリー・ハートは選挙戦を撤退、
民主党候補はマイケル・デュカキスとなります。

彼は共和党のジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)と大統領戦を争い、敗北。

その父ブッシュも、
1992年の選挙で、
民主党のビル・クリントンに敗北します。

このビル・クリントン。

選挙キャンペーン時に不倫が報道されますが、
妻のヒラリーの協力もあって、
このスキャンダルを辛くも乗り越えます。

しかし、大統領就任以前から多くのスキャンダルがあったビル・クリントン。

中でも不倫は常習だったらしく、

特に、1998年、
研修生のモニカ・ルインスキーに、
大統領執務室(の隣の書斎)でフェラチオをさせたというスキャンダルは、
政権に大打撃を与えました

2期・8年の大統領職を務めた後、

民主党はアル・ゴアを次期の大統領選に選出しますが、
この時のスキャンダルが尾を引き、

2000年は共和党のジョージ・W・ブッシュ(子ブッシュ)が大統領に選ばれます。

子ブッシュは2期を務め、

2008年、民主党のバラク・オバマが大統領選に勝利、
彼も2期、大統領を務めます。

そして、
2016年、
大統領選にて、
民主党の候補者、ヒラリー・クリントンを退け、
共和党のドナルド・トランプ
アメリカ合衆国、第45代大統領に就任します。

 

  • アメリカ大衆迎合時代

さて、翻って現代。

2016年の大統領選。

共和党の候補者の一人として立候補したドナルド・トランプ。

誰もが「いつか負けるだろう」と思っていましたが、
あれよあれよと勝ち進み、
共和党の候補者になり、
ヒラリーを破り、
遂に大統領にまでなりました。

 

一般投票では勝利したヒラリー・クリントンが、
選挙人制度により、
トランプに逆転を許し敗北した背景には、

夫、ビル・クリントンの時代から続く、
様々な政治スキャンダルの暴露による、

ネガティブキャンペーンが影響していたのは、
想像に難く無いです。

 

ドナルド・トランプという人物は、
「大衆迎合」により、人心を掌握した、その象徴。

過激な発言が目立っていましたが、
元々ワルい奴に、ワルい事が発覚しても、大して打撃では無い」理論により、

彼のスキャンダルは、ヒラリーより目立たなかったと思われます。

 

しかし、
政治理念や大局観より、

まるで酒場のオヤジが口にしそうな過激発言の数々を実行に移さんとするトランプの政治手腕は、

現代、世界全体の秩序を破壊し、
混沌へと突き進んでいます。

オバマ・ケアの破棄、
メキシコに壁を作る、
保護貿易の推進、
中距離核戦力全廃条約(INF条約)からの脱退、etc…

自国民に向けた、人気取りに終始する事が、
結局、世界を、
ひいては自国を苦しめる事になる。

その事が分からないハズが無い、

と、思うのは、トランプを分かっていないのです。

 

人は、強気の発言をする人間に惹かれます

トランプの支持層は、
自国が強いという事を体現してくれるトランプを歓迎しているのです。

それは、日本でもそうです。

例えば、
「都民ファースト」を謳った小池百合子が都知事に当選したり、
日本の国際捕鯨委員会(IWC)脱退が、世論調査では支持されたりする現状を見れば明らかです。

また、人は、自分が見知った人間を支持する傾向があります

市長や知事、政治家に、
政治とは全く無関係だった有名人が当選する事は日常茶飯事です。

また、安倍晋三首相は、

その総理大臣の職を、2007年、体調不良で辞任しましたが、

その後、再起を懸けた2009年の衆議院議員総選挙では、
地元山口で選挙区を回りに回ったと言います。

この時の選挙で自民党は政権与党から陥落しますが、
安倍自身は選挙区で圧勝。

今に繋がる、自信に繋がっているといいます。

 

この事から分かる通り、
現在、政治家として選挙に勝つ能力というものは、

如何に有権者の耳障りの良い、解り易い事を言うか、

如何に露出して顔を売るか、

スキャンダルとは無縁か、

これらの事に尽きます。

しかし、
政治理念や政策手腕を無視し、
「人気取り」を重視するこの選挙方針は、

その選挙方針の究極の申し子である、
トランプの所業を見るに、

現在、既に限界に来ているのでは無いでしょうか

 

 

 

「選挙」から「政治」が抜け落ちる、
その転換点を描く『フロントランナー』を観るに、

しかし、

現代の状況を考えると、
今、再び、スキャンダルより、
政治理念を重視せねばならない時代が到来した、

その様に私は思うのです。

 

とは言え、
政治家となれば、公人である事を意識し、

清廉潔白とは言わないまでも、

身持ちを堅くする事が大事、

まぁ、一般人であっても、
真面目に生きる事が必要だよな、
と、改めてそう思います。

 

 

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