常人を超えた肉体、存在、それが、プロレスラー。
一見して分かる、彼達の肉体を作ったのは、トレーニングと、そして「飯」である。彼達は如何に飯を食い、或いは、食えなかったのか?
デビュー前、デビュー期、絶頂期、そして現在、
様々な時、場所、人の「食」を語る!!
著者は大坪ケムタ。
本著は、グルメサイト「メシ通」で連載されている
「レスラーめし」の内容を加筆、修正して書籍にしたもの。
(WEBサイト「レスラーめし」はコチラで読めます:外部リンク)
インタビューしたレスラーは、
小橋建太
中西学
鈴木みのる
ブル中野
前田日明
越中詩郎
長与千種
オカダ・カズチカ
藤原喜明
長州力
ダンプ松本
武藤敬司
天竜源一郎
小林邦昭&獣神サンダーライガー
の15組、16名である。
皆さん、
例えば、
自分の人生を振り返って、面白おかしく語って下さい、
みたいなインタビューを受けたとして、
「ハイ、こんな事がありました」
「これこれ、こうです」
と、イキナリ語れますか?
普通の人の
普通の人生、
まぁ、武勇伝の一つや二つはあって、
語る方は面白いつもりであっても、
聞く方も面白いとは限りませんよね。
何故なら、
他人の話というものを聞くとき、
共通点と興味が無いと、つまらないモノだからです。
しかし、です。
性の話と、衣食住、
これは、誰の人生においても、
必ず共通する、
鉄板の盛り上がりをみせる話題です。
その中でも、「食」はどうでしょうか?
これこそ、
どんな人間でも、
幼少期から始まり、現在進行形で語れる、
唯一無二の話題と言えるのではないでしょうか。
一般人でも、
盛り上がる事必至のこの話題、
況んや、プロレスラーをや。
そう、本著は、
ただでさえ、盛り上がる「食」の話題を、
プロレスラーが語ったインタビュー集です。
プロレスラーの、
あの常人離れした肉体を作るのは、
トレーニングと、「食い物」。
彼達は、どんなモノを食べてきたのか?
もう、
その時点で興味津々です。
普通の人でもそうですが、
プロレスラーでも、
同じ人間であっても、
時期、
場所、
状況によって食べるものは違ってきます。
幼少期、入門時、デビュー当時、絶頂期、現在、
そういった時期的な食の変化、
所属団体、海外遠征、道場か巡業先かという、
場所、環境的な食の違い、
また、加齢や病気、怪我など、体質の変化に伴う、食の変化 etc…
千差万別、
話題には事欠きません。
しかもそれが、
プロレスラーならではの、
やんちゃなエピソード満載で語られるのです。
「食」で苦労した新弟子時代の話や、
体を作る為に暴食した、或いは節制した話、
豪快な酒席でのエピソード、
奢られたり、料理を振る舞ったりした話、
正に、十人十色と言えます。
本著は、400ページ強の分厚さ、
しかし、
ハズレエピソードが無いという、
正に奇跡のインタビュー集。
プロレスを「食」で語る
という発想、
このアイデアが正に、金鉱を掘り当てたと言えるのです。
プロレスに興味がある人は勿論、
プロレス自体を全く知らなくても、
確実に面白い、
本著『レスラーめし』はそんな作品です。
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『レスラーめし』のポイント
「食」という老若男女、万国共通の鉄板の話題
時期、場所、状況による、食の違い
点の話題が、線で繋がる面白さ
以下、内容に触れた感想となっておいます
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各エピソード解説
本著『レスラーめし』は、
15人のレスラーに、「食」にまつわるエピソードを語ってもらったインタビュー集。
個人的な感想を交えつつ、
各エピソードの簡単な解説をしてみます。
小橋建太
第一話だからという訳ではないでしょうが、
この、最初の一篇には、
本書のスタンス、面白さが詰まっています。
幼少時代は、
母が苦労しつつも、食べさせてくれたという小橋。
自分が稼ぐようになって、
「食べる」という事が当たり前では無い事に気付き、
同時に、親の有り難さを知ったというのが良い話です。
一転、
ジャイアント馬場の付き人時代のエピソードも面白いです。
馬場の付き人故、
美味しいモノを食べる機会が多けれども、
周りみんなの分も食べて、それが苦しくて、料理を味わう余裕が無いというのがまた、プロレス的。
試合で向こう側に立つと、一緒に食事を摂る事も無くなる、
とか、
ガンの療養に、食事を工夫した話など、
面白くも、しみじみする話が多いです。
中西学
SNSで、「如何にもプロレス的」な朝ご飯の画像を挙げている中西。
プロレスラーとは、凄い所を見せなければならない、
だから、
飯でも、凄いという所を見せる、
という発想がまた、
安直過ぎてシビれますね。
そんな彼のゲテモノ喰いエピソードがまた面白い。
熊の手や、
牛のペニスなど、
普段、食べる事の無いものでも、
プロレスラーなら、食べてしまうのです。
鈴木みのる
新日本プロレスからUWF、藤原組、パンクラスと渡り歩き、
現在はフリーとして、再び新日本のリングに上がっている、鈴木。
所属団体が変われば、
食べるモノも変わっているのが興味深いです。
アントニオ猪木の付き人時代は良いモノを喰い、
UWF時代は貧乏飯、
藤原組では出前や弁当、
パンクラスで、節制した、ストイックな食事を摂る…
正に、
食事がレスラー人生の歴史を反映しており、
本書のテーマを体現した存在とも言えます。
ブル中野
ヒールだった現役時代とはうって変わって、
現在はスレンダーな美人になっているブル中野。
しかし、やはり、
ガチのプロレスを見せてくれていた中野は、
現在の見た目の印象とは違い、
表面からは隠された凄絶なエピソードが満載です。
ご飯しか無く、紅生姜をのっけて食べていた新弟子時代。
170センチの身長で、100キロを超える体格を作ってヒールになった時代は、
食べるモノも贅沢になったと言います。
アメリカ遠征時代、
プロゴルファー挑戦時代、
プロレス復帰から、
体重を落すまで、、、
兎に角、強引、無謀、
正に、人生がプロレスだと、体現しています。
前田日明
ヤンチャ過ぎる酒のエピソード満載。
言っちゃ悪いが、イメージ通り、
期待を裏切りません。
人の結婚式をぶち壊したり、
ロシア人と飲み比べしたり。
酒のみならず、
食のエピソードも豪快、っていうか、笑える。
食べきれない高級な肉を猪木が飼っていたセントバーナードに食わせていたり、
人が、自分のプロテインを勝手に飲むので、ションベンを入れたり、、、
本人が真面目に語る武勇伝だからこその、面白さです。
また、
鈴木みのるが「UWFは貧乏飯」と言ったのと違い、
前田日明は「ちゃんと、ちゃんこを食わしていた」と言っています。
食べる方と食べさせる方の言い分に違いがあるのが、興味深いです。
越中詩郎
自分の食のエピソードに加え、
人気の他のレスラーのエピソードをも交えて語ります。
それとの絡みで、良い人感がありますね。
トップが居ないと飲みが荒れる、
そして、それを宥めるのが、越中の役目になっているのですね。
その中でも「天龍カクテル」や
「熊本旅館崩壊事件」など、
印象的なエピソードも語られます。
プロレス特有の海外遠征エピソードや、
プロなら、技は教わらず、盗め、という発言、
面白い中にも、教訓として考えさせられる話も多いです。
長与千種
ブル中野の時もそうでしたが、
全日本女子プロレス所属の場合、
新弟子時代は兎に角、食が貧乏。
長与の時代は、タバスコを飯にかけて凌いでいたそうです。
絶頂期の「クラッシュギャルズ」時代は弁当を食べていた長与、
その後、自分が団体を率いるようになり、
「GEAR JAPAN」旗揚げ時は、所属選手の為に、食に拘ったり、
現在、「マーベラス」では、体作りの概念自体が変わった事を語ります。
2000年以降の選手は、
「自分で調べる」という術に長けており、
プロテインはサプリメントを取り入れているそうです。
トップならではの目線で、
レスラーと食を語っているのが興味深いです。
オカダ・カズチカ
昭和系のレジェンドの話が多い中、
現代を代表するレスラーであるオカダが語ります。
とは言え、
昔と変わらず、
ちゃんこ作りに勤しむ入門時、
海外遠征にての食のエピソードなど、
今も昔も変わらぬ、
プロレスラーには、共通した食の流れみたいなものがあるのだと、気付かされます。
藤原喜明
食についても、武勇伝の多い藤原。
食事の場でも目を光らせていた、猪木のボディーガード時代、
イメージ通りの、酒豪エピソードもあります。
また、猪木から「元気ですかー!」と電話が来て、
「ガンになりました」と答えた話は、
何とも言えない、深い味わいがあります。
藤原組の時代、
鈴木みのるは弁当や出前中心だったと言っていましたが、
藤原自身は、ちゃんと、ちゃんこを作っていたと語ります。
食事を出す方と、食べる方で認識が違うというのは、前田日明の回でも見られたもの。
興味深い共通点です。
長州力
スズメを捕って食っていたという、衝撃の少年時代。
しかし、長州力がそう言うと、何故か似合ってしまいます。
とは言え、
インタビューの様子はソツなく、性格の良さがにじみ、
話題に事欠かないバリエーションも持っています。
新日本時のちゃんこが、
一日5万円というのも、衝撃。
外で食べるより、道場で食べるほうが美味しいというね。
ダンプ松本
幼少時、ダンプ松本は、ザリガニを釣って食っていたそうな。
まじか~。
そんな彼女は、全女に入った頃は、
やっぱりタバスコ飯。
そして、マヨネーズ飯。
ヒールになって成功し、良いものを食べられる様になっても、
今度は、知名度が上がって、外食が困難になるというね。
子供の頃から、太目だったというダンプ。
食の話題には事欠かないのが、
何と言うか、イメージ通りな感じがします。
武藤敬司
ジャンクフードに憧れていたという幼少時代。
そして、新日本時代は、
ちゃんこ代3万円を使い切らないといけなかったという裏話を語ります。
まるで、公共事業の様ですね。
海外遠征のエピソードや、
坂口家のワインセラーを飲み干したり、
食でも、酒でも、やっぱり豪快です。
天竜源一郎
お酒にまつわるエピソードが、豊富な印象。
それでいて、面倒見が良いのですが、
その面倒を見られる当人にとっては、
逆に、有り難くなかったりというのが、
興味深くも、面白いですね。
小林邦昭&獣神サンダーライガー
料理で以て、新日本所属選手の命運を握っているという、小林。
そして、その小林の料理を食べ続けたライガー。
道場という空間、
ちゃんこという食において、
料理が作れなくても、徐々に上手くなっていくという話が、
何ともいいですね。
料理も強くなる、それがプロレス、みたいな。
また、
飯を喰うのも、また、修行、
食わないと、実家に帰れと言われるのは、
これまたプロレス的な理不尽な面白さがあります。
兎に角、
皆が皆、
食を語らせたら、面白エピソードが満載です。
そして、興味深いのが、
インタビュー自体は、
個々人で、別々にやっていても、
それを続け、まとめる事で、
点の面白さが、線で繋がって行く感覚が出来上がってゆく事です。
先ず、プロレスラーというものは
幼少時は、割と食に困っている事が多かったりします。
やはり、
リアルに飢える経験があるからこそ、
ハングリー精神が涵養されているのでしょう。
また、プロレス入門時は、
皆が皆、食い過ぎて、逆に辛い目にあっています。
食事の量に苦労しつつ、
ちゃんこを作るが、自分が作るモノはイマイチ、
そして、相撲出身者に美味いちゃんこを教わるというのも共通しています。
しかし、女子は一転、
「米」しか食べられなくて、食に苦労しています。
海外遠征時は、
食に苦労しつつも、
その限られた状況から、自分なりのお気に入りを、皆が見つけています。
また、
鈴木みのるの発言と、
前田日明や藤原喜明の発言を鑑みるに、
食事を振る舞う方と、
食事を享受する方とでは、
全然感覚が違うというのが面白いです。
また、
「プロレスラー・ナンバーワン酒豪」を尋ねると、
多くの人間が坂口征二の名を挙げたり、
熊の手を食べた人、初めて見ました、と中西学が言えば、
前田日明も食べた事があったり、
「熊本旅館崩壊事件」で盛り上がったり、
170センチほどの身長でも、
兎に角、100キロ超えを目指したり
ちゃんこに使い切れなかった肉を、猪木の犬に食べさせたり、
それが、セントバーナードと言及されたり、
しかし、実は、そもそも猪木の犬じゃなくて、坂口の犬だと判明したり etc…
活躍した時期が被るレスラーが本書では多いので、
インタビューする毎に、
過去のインタビューとの関連で、話題のストックが溜っていき、
「プロレスラー」と「めし」との関わりが、
まるで、切れる事の無い糸の如くに、
連綿とストーリーラインが繋がって行くのです。
同じ事実を、
違う人間が補足し合ったり、
同じ事実でも、
人によって受け取り方、
記憶、感覚にズレがあったり、
思わぬ所で繋がったリンクが、
意図せぬ伏線として、
偶然のドラマを作りあげたり。
豪快で、痛快、型破りで、破天荒。
ただでさえ面白いプロレスラーの飯にまつわる語り。
これをまとめて読む時、
話題のパターンが解る楽しさがあり、
また、
不意に繋がる話題のネタが、思わぬストーリーを生むという、
偶然の面白さがあります。
これぞ、
「インタビュー」を続ける事の「意義」。
まとめて読む事で、
「飯」という側面からプロレス史を現出せしめ、
新たなるプロレスの魅力に気付かされる、
それが本書、『プロレスめし』なのです。
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