時は戦国時代。
20年前、沛(ペイ)国は領土の境州を炎国に奪われたが、表面上は友好関係を築いていた。
沛王の沛良(ペイ・リャン)は現状維持の穏健派だが、都督の子虞(ツー・ユイ)は奪還派の急先鋒。炎国の将軍と勝手に一騎打ちの日取りを決めてしまっていた。
しかし、実は都督には秘密があって、、、
監督は、チャン・イーモウ。
1950年生まれ、中国出身。
監督作に、
『紅いコーリャン』(1987)
『紅夢』(1991)
『初恋のきた道』(1999)
『HERO』(2002)
『LOVERS』(2004)
『単騎、千里を走る。』(2005)
『金陵十三釵』(2011)
『グレートウォール』(2016) 他
出演は、
子虞(ツー・ユイ)/影:ダン・チャオ
小艾(シャオ・アイ):スン・リー
沛良(ペイ・リャン):チェン・カイ
田戦(ティエン・チャン):ワン・チエンユエン 他
忍者って、
日本のみならず、むしろ、
海外でも人気のある属性ですよね。
鍛えた肉体と技で、暗躍し、
影に生き、影に死す。
そんな忍者より、
さらに陰キャな存在、
それは、影武者と言えるのではないでしょうか。
オリジナルの「弾除け」としてのみ存在する、
それが影武者。
死んでも、誰も顧みず、
むしろ、主君でなくて良かったと、褒められる。
何と言う存在か。
しかし、
他人から見て間違える程似ているというのなら、
むしろ、本人に成り代われるんじゃね?
そんな、暗い願望が垣間見える存在でもある、
それが、影武者。
日本では、
黒澤明監督の映画『影武者』(1980)や、
『影武者徳川家康』という、小説原作の漫画がかつてあり、
人気を博し、
むしろ、
時代劇での、ある種の定番とも言えるのかもしれません。
そんな、影武者時代劇、
意外と、中国の時代劇では、
使われてなかったとの事。
そういう、意外な盲点(?)を突いて、
武侠アクション映画で影武者モノを作った、
それが本作『SHADOW/影武者』です。
さて本作、
一見して感じるのは、
その独特な色使いです。
まるで、
水墨画の様な色合い。
確かにカラーなのですが、
まるで、白黒のモノクロの様に感じます。
監督のチャン・イーモウは、
過去作にて、
赤を強調したり、
ビビッドな原色を際立たせたり、
割と、派手な色使いが特徴だったのですが、
本作は落ち着いた、
シブい感じに統一されています。
そして、
水、雨、霧といった、
液体の表現も特徴的。
水墨画的な色合いと、
液体の特徴的な表現、
まるで、対戦格闘ゲームの
「ストリートファイターⅣ」シリーズの演出を彷彿とさせます。
そして、アクション。
今となっては微笑ましい、
『HERO』や『LOVERS』の頃と同じような、
スローモーションとワイヤーを使う系です。
とは言え、
アクションガッツリというよりは、
どちらかというと本作は、
題名通りの、
影武者の葛藤を描く作品。
「影」が悩む、アイデンティティの問題は、
そのまま、
各登場人物達にも当て嵌まり、
それが、人間関係における、
虚々実々の関係性を生んでいます。
王と、都督と、影を巡る権力闘争、
都督と、妻と、影を巡る三角関係、
それぞれの人間関係の駆け引きを堪能出来ます。
武侠アクションと、
権力闘争、
そして、三角関係という、
一粒で、
3つの美味しさがある作品、
それが、
『SHADOW/影武者』なのです。
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『SHADOW/影武者』のポイント
水墨画の様な、シブい色使い
水、雨、霧といった液体の表現
虚々実々の人間関係の駆け引き
以下、内容に触れた感想となっております
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驚異のデニーロアプローチ
本作、
メインの登場人物は、
都督と、影と、妻。
この三角関係が、
物語を引っ張る核となります。
一見、
都督と影は、ソックリさんの別人に見えますが、
実は、同一人物、
ダン・チャオが二役を演じています。
もう、人相が全く違います。
影は、筋肉質な感じですが、
対する都督はガリガリ。
何と、
先ず、影の撮影を行い、
次に、
体重を5週間で20キロ落として都督の撮影に挑んだそうです。
役によって、
体重や人相自体を変化させるというのは、
古くは、
ロバート・デ・ニーロがよくやった事で、
そういう役へのアプローチ方法を、
「デニーロアプローチ」とも言ったりします。
最近では、
クリスチャン・ベールの体重の増減が、
見ているコッチが心配になるレベルで凄いです。
まるで、別人と見紛うほどの、変貌振り。
これを、
同一人物でやるというのが、
もう、本末転倒で、意味不明な感じの凄さがあります。
さて、
実は、都督/影を演じたダン・チャオと、
妻の小艾(シャオ・アイ)を演じたスン・リーは、
実の夫婦。
一人二役を演じる主人公が、
実生活が夫婦の女性と三角関係に陥るという、
なんとも、メタ目線での興味深さを考えると、
本作は更に、面白いのではないでしょうか。
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三国志と、本作
本作『SHADOW/影武者』のストーリーはオリジナル脚本ですが、
実は、その内容は、
三国志の登場人物、周瑜の「荊州奪還のエピソード」を元にして、
翻案したものなのだそうです。
本作の都督のモデルが、三国志の呉の周瑜。
都督とライバル関係の、
炎国の将軍・楊蒼は、関羽が元ネタと思われます。
楊蒼の武器、「青龍偃月刀」は、
関羽の武器、というイメージがありますよね。
また、パンフレットによると、
本作の「境州」の読み、「ジンジョウ」は、
そのまま三国志の「荊州」の読みと同じなのだそうです。
本作は、
そういう元ネタを知らなくても、
そのまま楽しめる作品ですが、
確かに、
三国志を知っていれば、より楽しめると思います。
「おお、このネタを使ったか」
「これは、こうアレンジしたか」と、
作品を、メタ目線で楽しむ部分が生まれるのです。
…まぁ、しかし、
私は三国志を読んだ事が無いので、
その部分では、楽しめなかったのが、残念。
後からそうだと知って、
そういう目線でも楽しめたのかと、関心しました。
それでも、
私の様に三国志を知らない人間でも楽しめるのが、
本作の良い所。
映像美の面白さ、
虚々実々の人間関係の駆け引きを描いた顛末、
そして、奇妙な三角関係。
監督、チャン・イーモウの、
確固たる美意識によって作られた作品、
『SHADOW/影武者』は、そう言えるのではないでしょうか。
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