漫画『有害無罪玩具』詩野うら(著)感想  アイデンティティを揺るがす!!SF不思議アイテム!!

職業体験で博物館に訪れた中学生の坂本。
そこは、明確な理由は無いが、様々な理由で発売禁止となった「玩具」を集めた「有害無罪玩具館」。
館長の柳沢に紹介され、それらの玩具を「体験」してゆく、、、

 

 

 

 

作者は詩野うら
本作は、ウェブサイト「チラシのウラ漫画」(外部リンク)にて掲載されたものの一部を加筆、修正したものです。

他の単行本に、
偽史山人伝』がある。

 

 

 

先日、
題名に惹かれ、ジャケ買いした漫画、
『偽史山人伝』。

これが、
個人的な嗜好に嵌り、
大変楽しめたので、
作者の過去作である、本作『有害無罪玩具』も手に取りました。

いやぁ、本作も面白かった!

そして、本作の『有害無罪玩具』という題名も、
何とも、不安を呼び起こす、
特徴的な興味深さのあるタイトルではありませんか。

 

後書きによると、どうやら、
『有害無罪玩具』『偽史山人伝』共に、
作者のウェブサイト「チラシのウラ漫画」に掲載されたものを加筆修正し、書き下ろしを加えたもの。

作者は、
2016年に思い立ち、
少し、長目の漫画を10本描いたそうです。

 

『有害無罪玩具』が4作掲載、
『偽史山人伝』が7作掲載なので、

書き下ろし分を除くと、
まだ、若干ストックがありそうです。

どうですか?皆さん?

今なら、流行る前に、
「昔から知ってた」的な感じで、
マウントを取れるチャンスですよ!?

 

と、いうことで、
「この漫画、ワシが育てた」と言わんばかりに、
本作の紹介をしてみたいと思います。

 

さて、『有害無罪玩具』。

掲載作は、
少し長めの連作短篇」といった様相を呈していますので、
一本の読み応えがあります

 

その内容は、

読者のアイデンティティを揺さぶる、
SFファンタジー的な感じ。

 

例えるならば、
シリアスな『ドラえもん』といった内容です。

 

SF的なワンアイディアがあり、
それを活かした、ストーリーが展開されます。

淡々と、
しかし、饒舌に語られるエピソード、

その内容の濃さに、
やみつきになる面白さがあります。

 

絵の特徴としては、

描き込みが多いのに、
画面が煩雑にならずに見やすい感じです。

 

顔のデザインは、
リアル寄りの造型というより、
漫画的なデフォルメが効いた感じ。

絵、自体も、スクリーントーンを使っておらず、
おそらく、一本一本、丁寧に線を引いて、描かれています。

 

それでいて、

一コマに詰め込まれた絵の密度と
台詞・説明文の情報量の多さが魅力です。

 

 

ギュギュッと詰め込まれた、
濃密な作品世界、

それを楽しめる『有害無罪玩具』。

本作も、オススメの一品です。

 


 

  • 『有害無罪玩具』のポイント

ワンアイディアを活かした連作SF短篇集

独特な絵とストーリーによる、濃密な読書体験

アイデンティティ揺さぶる内容

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 収録作品解説

では、『有害無罪玩具』収録作について、
簡単に解説してみたいと思います。

本作は、
中篇と短篇による、
全4作からなります。

中篇と言っても、
読み味は、連作短篇といった様相。

いずれも、SF的なワンアイディアが光る作品です。

 

 

有害無罪玩具
SF的なワンアイディアを連続する、
連作短篇集的な作品。
タイトルロールとなっている事からも、
本作のみならず、
作者の詩野うらの特徴、気質が凝縮されていると言えます。

「生きてる!!!しゃぼん玉」
「みらいメガネ」
「さきどりおえかき」
「万能デザイン人形」
「マクガフィンン物語」
「脳コピー」
「多重世界観測バッジ」
「有益無意味薬」

この各エピソードは、
いずれも、「アイデンティティとは何か?」を問う、
名状しがたい不安を催す作品ばかりです。

これらを、端的にリズムとテンポ良く描写する事で、
読者に、
自己の存在に対する不安を、どんどん積み重ねているのです。

何より、
SF的なアイディアが面白い!
その内容は、シリアスなドラえもん的であり、
SF短篇として、いくらでも話を盛り上げられるものを、
惜しげも無く使っているのが、本作の面白い所です。

 

虚数時間の遊び
時間停止というのは、
AVでよくある(?)ネタ。

それだけ人間欲望に即し、
自分だけ好き勝手出来る!という自己満足を充足する夢の状況と言えます…

それが、永遠に続くので無ければ…

本作は、夢の状況が、
実際に叶ったら、悪夢だったというのを描く作品。
作中、疑似結婚が描かれますが、
まるで、「結婚というものは、する前は夢でも、実際にやってみると悪夢」みたいなものをテーマに据えているのかもしれませんね。

この物語の巻上博士の様に、
人間は、たっと一人になっても生き続けられるものなのでしょうか?

彼女の死後に、時が動き始めるのか?

そのあたりに思いを馳せるのも、面白いです。

 

金魚の人魚は人魚の金魚
2016年に、10作の長目の漫画を描く事を思い立ったという作者。
その作者が、10作目に作ったのが、
この「金魚の人魚は人魚の金魚」です。

故に、
いわば、エピローグ的な感じで、
それまでの9作品に出て来たキャラクター達が多く出演している様子です。

ただ、存在するだけで、
「観測者」としての役割すら果たさない「金魚の人魚」。
然りとて、
その「金魚の人魚」を「見る」他人(読者)は、
「金魚の人魚」が存在しているだけで、
勝手に、エピソードを繰り広げてしまう

そこに生まれる状況を、
淡々と描きます。

まるで、諸星大二郎の『暗黒神話』みたいな、
壮大さを秘めています。

 

盆に復水、盆に帰らず
収録作、唯一の描き下ろし。

「覆水盆に返らず」という言葉があります。
おそらく、その言葉から連想して、
「お盆」に死者が帰ってくるという風習と絡めて、
SF的に、
また、作者らしい、
アイデンティティについて考察する内容に仕上げています。

「覆水」では無く、題名は「復水」。
「復水」とは、
水蒸気を冷却させて、水に戻したもの
また、単語として、
「おちみず」と読ませる事で、その意味は、「月にあり、飲むと若返るという水」(欠けた月が元に戻る事からの連想)という意味もあるそうです。

それらを考慮すると、
作品のテーマ、内容に深く関わった題名であると言え、
題名まで気を配る、

作者らしい言葉遣いと言えます。

エピローグから、
「虚数時間の遊び」の巻上博士のノートにより、
タイムスリップ装置が開発されたという事が示唆されています。

その、オマケSF的な感じで、
タイムスリップ系のパラドックスを描写しています。
それは、

過去(世界A)が、未来を知る事で、未来を変えてしまったら、
その変えた未来(世界B)でも、更に、
その変わった未来を知る過去が、
更に、変わった未来を変えてしまう(世界C)…

という、可能性の無限ループが示唆されます。

もう、それを考え出すと、
可能性の多元世界というより、
終わらない万華鏡みたいで、頭こんぐらがります。

しっとりとした感じで終わらず、
こんなSFネタをラストでぶっ込んで来るのが、
作者らしいですね。

 

 

先ず、作品は、
SF的なアイディアのネタが面白いです。

そして、
そのネタを物語として成立する時、

作者は、
アイデンティティの不安と、
虚無感というか、無常観というスパイスを加えます。

この匙加減が絶妙。

いくらでも広げられるネタを、
敢えてサラリと、端的に描写し、
しかし、
ネタ自体は、大量に詰め込む事で、
リズムとテンポを生みつつ、
更には、
濃厚な読み味をも実現しています。

上質な漫画読書体験が得られる、
『有害無罪玩具』、
オススメの逸品です。

 

 

作者の別作品『偽史山人伝』についてはコチラのページで語っています

 


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