映画『アド・アストラ』感想  父をたずねて10億里!?ブラピの宇宙ポエム旅行!!

国際宇宙アンテナの製造現場でメンテナンスをしていた、アメリカ宇宙軍のロイ・マクブライド少佐。
その作業の最中、謎の爆発の影響で、作業員に多数の被害が及ぶ。
その爆発は、後にサージと呼ばれる電気嵐であり、地球上のあらゆる電気機器にダメージを与えた現象である。
その調査を任命された、マクブライド少佐。サージの原因は、公式には死んだと思われていた彼の父親が、冥王星で起こしていると宇宙軍は睨んでいるのだ、、、

 

 

 

 

監督はジェームズ・グレイ
主な監督さくに、
『リトル・オデッサ』(1994)
『エヴァの告白』(2013)
『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(2016)等がある。

 

出演は、
ロイ・マクブライド少佐:ブラッド・ピット
イヴ:リヴ・タイラー
トム・プルイット大佐:ドナルド・サザーランド
ヘレン・ラントス:ルース・ネッガ

H・クリフォード・マクブライド:トミー・リー・ジョーンズ 他

 

 

 

かつて、漫画の神様と呼ばれた、手塚治虫。

現代漫画の技術の基礎を築いた存在として、
広く知られています。

そんな手塚治虫の代表作と言えば、
『鉄腕アトム』。

原子力(核融合)を原動力とするロボットという設定は、
現代においても、
語るべきテーマを多く含んでいると思われます。

さて、
そんな『鉄腕アトム』の英語題は、『ASTRO BOY』。

 

と、言う事で(!?)
本作、
『アド・アストラ』(ad astra)です。

題名に使われている「Astra」とは、
ラテン語で「星」を意味します。

つまり、「ad astra」という題名は、
「星を進め」という意味があります。

このラテン語の「asrta」から、
英語の「astronaut」(宇宙飛行士)という言葉が出来ているのですね。

 

 

ロイ・マクブライドの父、クリフォードは、
太陽系外有人探査計画=「リマ計画」の隊長。

海王星周辺にて、新宇宙に向け探査を行い、
地球外知的生命体の存在を探す作戦である。

16年前に消息を絶った彼は、実は生きていると考えられ、
その彼が、
今回の「サージ」に関わっていると、アメリカ宇宙軍は考えている。

唯一、サージの影響を受けなかった火星地下の宇宙基地から、息子であるロイが呼びかければ、
何か反応があるのでは?

その否応無い期待と作戦の為に、
ロイ・マクブライド少佐は火星を目指す極秘任務に従事する、、、

 

 

導入の粗筋としては、
そんな感じの本作、

その内容を簡単に言うなれば、
題名が示すイメージの通り、

父の消息を求め、
宇宙を旅する息子の物語です。

 

『母をたずねて三千里』というアニメがありましたが、
本作は、
父をたずねて「約10.949億里」(地球から約43億キロメートル)、
宇宙を旅するのです。

いわば、
父との対話が、世界を救う事になるという、
「セカイ系」的な作品です。

 

因みに、字幕では、
父は「冥王星」(Pluto)に居ると書いてある部分がありましたが、

実際は「Neptune」と言っていたので、
本来は「海王星」と訳すべきだったと思います。

冥王星には「環」がありませんが、
海王星には「環」がありますしね。

痛恨の字幕ミスじゃない!?
好きで良かった『キン肉マン』!
ありがとう、ネプチューンマン!

 

宇宙を冒険するSFアドベンチャーである本作。

こう書くと、
まるで、『スター・ウォーズ』(1977)とか、
ガーディアン・オブ・ギャラクシー』(2014)みたいな、
SFアクションや、

また、
宇宙ミッションという意味では、
『オデッセイ』(2015)みたいな、
主人公と地球がチームで困難に挑戦する宇宙ミッション映画を思い浮かべますが、

本作は、
それらのSF作品とは、全くイメージが違います。

ファースト・マン』(2018)的な雰囲気で撮った、
『インターステラー』(2014)のイメージ。

本作の宇宙描写は、
リアルな現実の技術が、
そのまま、宇宙に進出した末の世界、

 

と、いった印象です。

 

それでいて、
ハードなSF、宇宙用語には拘らず、

その描写は、あくまでも、
主人公のロイ・マクブライド少佐の内面にフォーカスが当てられています。

劇中、延々と、
ロイのポエムの様な内面独白が続く本作。

 

共演陣は豪華ですが、
ほぼ、
ブラピの、ブラピによる、ブラピの為の、
一人芝居と言えるでしょう。

 

そのロイ・マクブライド少佐の内面を反映してか、
本作は、
SF映画ではありますが、

その演出は、
まるで、ホラー映画の様なドキドキ系。

 

何が起こるか分からない、
宇宙の一人旅の孤独と不安と恐怖と困難が、
存分に味わえます。

 

終始抑えた演出で、
落ち着いた、静かな雰囲気の『アド・アストラ』。

派手な印象ではありませんが、
偶には、こういう映画でしみじみとするのもいいものですよ。

 

 

  • 『アド・アストラ』のポイント

父の消息をたずねる宇宙一人旅

内面描写のポエム旅行

往きて帰りし物語

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 外宇宙と内宇宙

本作『アド・アストラ』は、SFアドベンチャー。

とは言え、
アクションとか、ミッション(作戦)系の派手な印象ではありません。

 

父の消息を求めて、
太陽系外園部のとば口である、海王星を目指すロイ・マクブライド少佐。

本作は、
地球から、海王星という太陽系の端へと進むにつれ、
反対に、
ロイの内面に、より深く沈んで行く物語となっています。

 

宇宙飛行士の適性検査の為、
心理状態テストの描写が、繰り返し挿入される本作。

感情を抑制する事が「是」とされる、その様子は、

まるで、
ディストピア映画の『リベリオン』(2002)を彷彿とさせます。

 

しかし、旅の道程が進むにつれ、
その心理抑制が効かなくなるロイ。

地球を離れる程、
感情が溢れ、
更には、理性や心理状態の歯止めが狂って行くのです。

 

あくまで、
ロイの孤独な内面描写を、
ポエムの様に表現する事に終始する本作。

まるで、J・G・バラードの小説の様に、
「外宇宙(アウタースペース)より、内宇宙(インナースペース)」へと向かって行くのです。

 

本作は、
外宇宙へ向けて旅をすればするほど、

より、
内宇宙へと、深く沈んで行く。

その対比が描かれている作品と言えるでしょう。

 

  • 往きて帰りし物語

その意味で『アド・アストラ』は、
往きて帰りし物語

まるで、『指輪物語』のフロドや、ビルボの様に、

旅をする前と、
旅を終え、故郷へ帰って来た後では、違う自分となる、
そういう作品と言えるのです。

 

人類で初めて、
木星以降へと進んだ「英雄」としてのクリフォード。

しかし、その真実は、
地球へ還りたいという乗組員の叛乱を、虐殺でもって鎮圧せしめた独裁者であったのです。

それを知ったロイは、
自分の内面と直面する事になります。

 

家族を顧みず、
宇宙探査の計画へと邁進したクリフォード。

その彼を同じく、
元・妻のイヴの気持ちを顧みず邪険に扱い、
仕事にのめり込み、
宇宙飛行士の適正を重視し、感情の抑揚を失っているロイ。

意識してか、せずしてか、
ロイは、父と同じ道を歩んでいるのですね。

しかし、
英雄では無い、父の真実を知った時、
ロイは、
自分に、父を喪った「哀しみ、寂しさ」という感情がある事を発見します。

子供の頃持っていた、その「感情」。

自分は今、他の人間に、
そういう悲痛を与える存在になってしまっていると気付くのです。

 

そこから、
ロイとクリフォードの道は、分かれます。

海王星周辺にて、遂に父と再会したロイ。

地球(家)へ還ろうと言うロイに対し、
クリフォードは、こここそが、故郷(家)だと言い放ちます。

このミッション(作戦)=旅は、
片道切符なのだと。

 

新宇宙を観測したクリフォード。

数々の惑星を撮影、探査したその成果は、
美しく、素晴らしいものではありますが、

しかし、地球外の知的生命の発見には至りませんでした。

ですが、父クリフォードは尚も言います。
「お前と二人なら、より、深い所を探査し、成果を上げる事が出来るハズだ」と。

 

しかし、ロイは気付いてしまったのです。

知的生命体は、居ると。

自分(=地球)以外の、
最も身近な知的生命体とは、
家族(=他者)であったのだと。

だから、
外宇宙と、内宇宙への旅で、その事に気付いたロイは地球への帰還を目指しますが、

あくまで、
身近な他者との付き合いを拒絶する道を選んだクリフォードは、
たった一人で、更なる外宇宙へと漂っていったのです。

 

「他者の拒絶」という道を選んだが故に、
知的生命体の発見に至らなかったクリフォード。

「内宇宙」へ沈んで行く旅を経て、
「自分外宇宙」=「他者」
つまりそれが、唯一の知的生命体であると発見したロイ。

『アド・アストラ』で描かれる、
外界、内面の両方による、ロイの父との対話の旅は、

他者を発見し、それを受け入れる物語と言えるのです。

 

  • クリフォードとプルイット

さて、
本作で、
ロイのお目付役として、
途中まで旅を共有するプルイット大佐。

プルイット大佐は、
かつてクリフォードと旧知の仲であり、
同じ作戦(リマ計画)に従事していたとの事です。

 

そう聞くと、
思い出すのが『スペースカウボーイ』(2000)という映画作品です。

監督、主演はクリント・イーストウッド。

4人の老人宇宙飛行士が活躍する物語で、
共演は、
トミー・リー・ジョーンズ
ドナルド・サザーランド
ジェームズ・ガーナーとなっております。

 

この作品でも、
トミー・リー・ジョーンズが、
一人、作戦貫徹の為に、宇宙に居残りする描写があり、

何となく、本作を彷彿とさせる部分がありました。

興味があれば、
併せて観てみると、面白いと思います。

 

 

 

外宇宙を目指す程、
より、内宇宙へと没頭して行く『アド・アストラ』。

壮大なものに目を向けるより、
身近な他者こそ、
最も大切にすべき存在

SFでありながら、
ポエティックな本作は、

その事を訴えた作品なのだと言えるのです。

 

 

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トミー・リー・ジョーンズとドナルド・サザーランドが出演しているSF映画、『スペースカウボーイ』は、コチラ


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