映画『移動都市/モータル・エンジン』感想  ボーイ・ミーツ・ガールの大冒険!!これぞ、実写版ジブリ映画!?


 

たった60分の戦争で、文明が崩壊、それから1000年後の世界。都市は移動し、互いに「捕食」して、自らのエネルギーに変換していた。その中の一つ、巨大移動都市ロンドンが、小さな都市を丸呑みにした。しかし、そこには、眼光するどい女性が乗り込んでいて、、、

 

 

 

 

監督はクリスチャン・リヴァーズ
長らく、ピーター・ジャクソン監督の作品にて、
コンセプト・アートや視覚効果など、ビジュアル面全般に携わって来た。
本作が長篇映画初監督作。

 

原作は、フィリップ・リーヴ(著)、『移動都市』。

 

出演は、
ヘスター・ショウ:ヘラ・ヒルマー
トム・ナッツワーシー:ロバート・シーアン

サディアス・ヴァレンタイン:ヒューゴー・ウィービング
キャサリン・ヴァレンタイン:レイラ・ジョージ
アナ・ファン:ジヘ
シュライク:スティーヴン・ラング

 

 

 

原作の『移動都市』の翻訳版が発売されたのが、
2006年。

その時、
本に付いていた帯に既に、
「映画化決定!」の文字が踊っていました。

それから、原作の方は、続篇が発表されど、
映画化の話は、一体どこに、、、?

そんな日々が続き、
いつしか、映画化の話は、
私の記憶から忘却されていきました、、、

しかし、
あれから、10数年、
ようやく、映画が日の目を見るのです!

 

まぁ、
かく言う私は、
「移動都市」シリーズを、全部初版で、出た時に買っていますが、
実は、未だに読まずに、積んでいるんですがね!

まさか、
私が読む前に、映画化するとは、、、

夢にも、思わんなんだ、、、

 

そういう、駄目な読者代表たる、
私の戯言は置いておいて、

この、
映画版の『移動都市/モータル・エンジン』の話です。

 

本作、
日本の映画ファンに解り易く、
一言で言うなら、

実写版、『天空の城ラピュタ』です。

 

若かりし頃、
日本の少年少女がこぞって夢中になった、

あの頃の宮崎駿監督作品の数々、
『ルパン三世 カリオストロの城』
『風の谷のナウシカ』
『天空の城ラピュタ』
『もののけ姫』などの、

ボーイ・ミーツ・ガールの、冒険モノ!

 

立場、来歴が違う二人が出会い、
いつしか、協力しながら、物事にあたる、、、

あの、誰もが夢中になった、
ハラハラドキドキが蘇ります。

しかも、実写で!!

 

そんな本作、
ぶっちゃけ、有名な人は、
『マトリックス』の「エージェント・スミス」や
『ロード・オブ・ザ・リング』の「エルロンド」役の
ヒューゴー・ウィービング位した出演していません。

一方、
舞台となる、

ロンドンや、監獄、
奴隷市場、静止都市、飛行船 etc…

それぞれの都市に個性があり、
それを観ているだけでも飽きません。

 

そう、
見慣れぬ役者が出ていても、

いや、
見慣れぬ役者が演じているからこそ、

真っさらな気持ちで、
奇想天外な、
誰も見た事の無い様な、真っさらな都市の冒険を楽しめると言うモノ。

 

 

山あり、谷あり、

終始大冒険を繰り広げる『移動都市/モータル・エンジン』。

最新の映画なのに、
懐かしくも、楽しい気分にさせてくれる作品です。

 

 

  • 『移動都市/モータル・エンジン』のポイント

ボーイ・ミーツ・ガールの大冒険

魅力的な世界観

観ていて飽きない都市のデザイン

 

 

以下、内容に触れた作品となっております

 


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  • 魅力的な世界観

本作『移動都市/モータル・エンジン』は、
その世界観が魅力的です。

 

たった、60分の戦争で、文明が崩壊してしまった世界。

一体何が起こったのか?

ロンドンの大英博物館には、
昔の遺物として、ブラウン管やスマホが飾られていますが、

その戦争の詳細は、
歴史として知られていない様です。

記録する余裕すらなかったのか?
それとも、何者かが、記録を消したのか?

そういう妄想が膨らみます。

 

本作、
魅力的な設定、
そして、緻密に作り上げた各都市のデザインが見物ですが、

その一方で、
その謎や、作り込みについて、
敢えて、多くは語っていない印象を受けます。

 

都市が移動する、
というのは凄いアイデアですが、
移動した後の「土地」はどうなっているのか?

今で言う「オーマイゴッド」みたいな感じで、
「キルケ」と悪態を吐くのは何故か?

アナは、何をして、
それ程の賞金首になったのか?

シュライクは、
「ストーカー」という人造人間?の様ですが、
そもそも、その目的は?
何故、彼が最後の一人なのか?

原作を読めば、
おおよその判明はするのかもしれませんが、

映画版においては、
この設定、謎は詳しく説明せず、

しかし、
ストーリー自体は魅力的に進んでいきます。

 

このバランスが素晴らしいんですよね。

観ている間は、
目の前のハラハラドキドキの大冒険の展開で、
謎が謎として気になりません。

しかし、
鑑賞後、ちょっと冷静になると
「あれ?あの設定はどういう事だろう?」
と、ちょっと疑問に感じてしまう。

観ている間、
直感的に楽しめるのは勿論、

観終わった後も
その世界観や設定について、いろいろ妄想や空想が拡がって、
論理的に楽しめます

世界観に浸れる、といいますか、

設定が作り込まれて、
しかし、
その全てが説明されていない分、
観た人間の解釈が入る余地がある。

この、余白の部分で、
色々と空想が拡がるからこそ、
本作は魅力的なんです。

 

  • ジブリの実写化!?

そんな『移動都市/モータル・エンジン』ですが、
日本の観客なら、
驚く程、ジブリ映画に似ていると、思わずにはいられないでしょう。

 

「60分の戦争で文明が崩壊した」というのは、
『風の谷のナウシカ』の炎の7日間を思い出させますし、

ラストの「メドゥーサ」の存在、光線自体、
巨神兵や、
『天空の城ラピュタ』のラピュタ城を彷彿とさせます。

飛行船で都市として住まう様子は、
『天空の城ラピュタ』のドーラ一家の様ですし、

いわゆる、「飛行船」が重要なファクターになっているのは、
「ナウシカ」「ラピュタ」のみならず、
『魔女の宅急便』
『紅の豚』
『風立ちぬ』に通ずるものがあります。

シュライクは、
「ラピュタ」のロボット兵の様な悲哀がありますし、
『もののけ姫』の「たたり神」みたいな恐ろしさもあります。

そもそも、都市が動くというのも、
『ハウルの動く城』的なイメージ。

そして、
そのワクワクするストーリーの骨子にある、
ボーイ・ミーツ・ガール、
これは、『天空の城ラピュタ』のパズーとシータの様でもあります。

原作もそうなのでしょうか?

なんだか、
ジブリ映画の面白いファクターをギュッと詰め込んだ総集篇みたいな趣すら感じます。

本作こそ、
日本の観客に示された、冒険映画の最適解と言えるのではないでしょうか。

 

因みに、
海外では『スター・ウォーズ』を連想している人が多いそうです。

「メドゥーサ」が、「デス・スター」の様だ、と。

言われて観ると、確かに、
ラスト、
飛行機で特攻する辺り、
「デス・スター攻略戦」の攻防を彷彿とさせますね。

 

  • 扇動家と、指導者と

本作、
ワクワクドキドキの冒険がメインのストーリーラインなので、
敢えて、フューチャーされていませんが、

階層社会と、移民問題も、
その世界観の中に観る事が出来ます。

 

巨大移動都市のロンドンは、
自らの存続の為、
他の都市を喰らい、エネルギーに変換しつつ、

その、都市を失った住民を吸収して膨れあがっています。

物語の冒頭、
都市の指導者サディアスは、
吸収した都市の住民を歓迎すると宣言していました。

しかし、
その実態は、
「弱い者は口をつぐむ」とベヴィス(トムの友人)も言っている様に、

明らかな階級社会が形成されています。

 

ベヴィスの、キャサリンに対する初見の態度を見るに、
都市の上層に住まう者は、
都市の下層に住む者を「喰いモノ」にして生活しているのだと思われます。

おそらく、その生活レベルは全く違うものでしょう。

パンフレットによると、
ロンドンは7つの層で形成され、
上層はより豊かなのだと書かれています。

つまり、
小都市を喰って移民を受け入れ、
彼達を下層民として住まわせる事で、
ロンドンは成り立っているのですね。

 

皮肉なのは、
そうやってロンドンに組み込まれた下層民が、

また、ロンドンが小都市を喰らう様をショー・イベントとして享受して、
ガス抜きをしている部分です。

弱い者が、自分より弱い立場の人間を見て溜飲を下げる、
これこそ、正に負の連鎖です。

 

しかし、
そうして膨れあがった都市のは、
上層が豊かになればなる程、
その維持が困難になります。

更なる「経済成長」の為、
移動都市同士の喰い合いだけでは飽き足らず、

ロンドンは、
静止都市をも喰らおうと、楯の壁の向こうの「シャングオ」に攻撃を仕掛けるのです。

 

飽くなき経済成長という社会は、

強い者が、より弱い者を喰う事によって成り立っています

経済成長路線は、現代社会においては、
すでに、崩壊が約束された方針と言えます。

また、
そういう弱者に不寛容な社会だからこそ、
声高に「自分達は偉いのだ、強いのだ」と叫ぶ指導者が、
その住民に受け入れられるのです。

 

しかし、
そういう指導者の表面上のパフォーマンスに酔い痴れて、
それを支持する事は大変危険です。

口では、
都市の為、国の為と言いつつ、
その本心の所にあるのは何か?

自尊心か?
功名心か?
ただ、自分と支援者とその周辺だけが潤う様に、金を稼ぎたいだけなのか?

それを見極める必要があると歴史は教えています。

そして、
歴史を教訓とされると、自分に不都合だからこそ、

「歴史(過去)など、見る必要は無い、未来を見よ」と、
独裁者(サディアス)は言うのです。

ヒトラーしかり、
トランプや、日本の首相も、そうなるかもしれませんね。

 

エンタテインメントでありながら、
そういう面でも、本作は楽しめるのです。

 

  • ちょっと、言わせて

『移動都市/モータル・エンジン』は面白かったです。

だからこそ、ちょっと言いたい事があります。

出来るならば、
移動都市と小都市の戦いだけで無く、

巨大移動都市同士の喰い合いが見たかった!

テーマやストーリー上、
入れる部分は無い事は承知ですが、

折角のデザイン、アイデアなので、

そういうド派手な場面も、あって欲しかったと、個人的に思います。

 

  • 小ネタ解説

では、前半のつかみとして、
ユーモア混じりの小ネタの解説を少々。

 

「アメリカの古代の神」として、
「ミニオン」を祀っていたのは笑えましたが、

そう言えば、
日本でも、「土偶」とか「埴輪」とか発掘して有り難がっている辺り、
良く考えると「あり得るな」と思わせます

 

そして、
アメリカ人大好き、「トゥインキー」の都市伝説。

「トゥインキーは何年も痛まない」というものがあり、
本作では、それに則った描写がなされますが、

まさかの1000年の賞味期限切れに耐えているのには、
笑いました。

他の映画でも、
文明がゾンビの蔓延で崩壊した『ゾンビランド』(2009)において、
それでも残っていた食べ物の一つとして出て来たり、

『ソーセージ・パーティー』(2016)では、
腐らない食い物(長老)として、存在していたり、

アメリカ人のソウルフードなんですねぇ。
(本作はニュージーランドで主に撮影されていますが)

 

 

そして、シュライクについても少々。

サディアスを付け狙うヘスターが、
逆に刺客を送られて、
狩る者が、狩られる者へと逆転する面白さのあるキャラクターです。

「シュライク」は英語で書くと「shrike」。
これは、日本語で言うと、鳥類の「百舌」にあたります。

百舌と言えば、「速贄」。

捕まえた獲物を、
食べずに、先端の尖った枝や、針金などに突き刺す習性が、
百舌にはあります。

「人間を狩る」という、ストーカーでありながら、
ヘスターを救い、育てたのは、
そういう百舌(shrike)の習性を暗示しているのでしょうか?

また、
「シュライク」という名前で思い浮かぶのは、
ダン・シモンズ(著)の、SF小説「ハイペリオン」シリーズに出て来る、
絶対暗殺者の「シュライク」です。

「ハイペリオン」のシュライクも、
善とも、悪とも言い切れないキャラクターであり、
もしかすると、
本作の原作にも、影響を与えているのかも、しれません。

 

 

 

ストレートに面白い作品、『移動都市/モータル・エンジン』。

ドキドキワクワク、ボーイ・ミーツ・ガールの大冒険。

正直、こういう作品が観たかった!

若かりし頃の、
映画を心から楽しんでいた、
あの昂揚が蘇る、

本作は、物語の面白さが詰まった作品と言えるでしょう。

 

 

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フィリップ・リーヴ(著)の原作本はコチラ


移動都市 (創元SF文庫)


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