映画『MOST BEAUTIFUL ISLAND』感想  下層民は、富裕層の喰いモノ!!


 

スペイン系の移民、ルシアナは、人生一発逆転を夢見て、ニューヨークへとやって来た。しかし、現実は、バイトに明け暮れ、貧乏生活を送る日々。ある日、ロシア系の移民、オルガに高額バイトを斡旋してもらう。指定された場所に、黒いドレスとハイヒールで行けと言われ、、、

 

 

 

 

監督、脚本、主演を務めたのは、アナ・アセンシオ
嘘か、誠か、
本作は、彼女の実体験が元となっているとの事。

そういう本作は、
正に、一人舞台、
アナ・アセンシオの独壇場。

これが、実話がどうかは置いておいて、

一人の追い詰められた人間の、
地獄から世間に向けた、怨念のこもった作品となっています。

 

良いカッコしやがって、

口先だけで、上手い事言いやがって、

てめえらの、欺瞞を暴き、
白日の下に晒してやる!!

そういった、

報われない者のルサンチマン溢れる物語なのです。

 

 

そんな本作、
ジャンルとしては、何でしょうか?

人に拠れば、
社会派のドラマにも見えますし、
ホラー的にも感じるでしょうし、
サスペンスとして、見る人もいるでしょう。

 

高額バイトという、甘い蜜に誘われ、

会場に行ったはいいが、
妖しい雰囲気に気後れするルシアナ。

しかし、
後悔先に立たず、

戻るは叶わず、
パーティー(?)に参加しなければならなくなります、、、

 

嫌が応にも、
状況に直面せざるを得ない、
下層民の哀しみ、、、

 

本作で描かれるそれは、
決して、派手ではありませんが、

だからこそ、
リアルなスリルがあります。

そんな作品、
『MOST BEAUTIFUL ISLAND』です。

 

 

  • 『MOST BEAUTIFUL ISLAND』のポイント

夢破れて山河あり

富裕層の喰いモノとなる、下層民

主演、監督、脚本、アナ・アセンシオ

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 情念のこもった作品

『MOST BEAUTIFUL ISLAND』は、
妙な情念のこもった作品です。

それは勿論、
監督、脚本、主演を務めた、アナ・アセンシオの個性が詰まっているから、なのです。

 

本作は、上映時間80分。

序盤、中盤は、
ストーリーも、さくさくテンポ良く進みます。

しかし、
いざ、パーティー会場についたら、
ちょっと、クドいというか、

急に、展開が遅くなります。

引っ張って、引っ張って
「どんな、凄い事が行われているの!?」
と、無駄に盛り上げておいて、

「あ、この程度…」みたいなスカしを観せて来ます

 

そう言えば、
「謎の高額バイト」というものは、
いわゆる都市伝説として、
我が国にも存在します。

有名なモノでは、
死体洗い」というものを、聞いた事がある人も、多いのではないでしょうか。

曰わく、

医学部の解剖に使う死体を、洗うバイトがあるとか、

巨大な水槽にホルマリン漬けになった死体が、
浮き上がって来たら、それをつついて、沈める作業がある、とか、

死体が減らないのは、
一定数のバイトが水槽に落ちて、
新たな死体を供給しているからだ、とか etc…

嘘か誠か?

リスクと隣り合わせの高額バイトというものは、

いわゆる、都市部に発生する、現代の怪談として存在するのです。

 

本作の高額バイトは「蜘蛛乗せ」。

どんな恐ろしい拷問や恐怖が待ち構えているのか?

それとも、超常現象的な、恐怖描写が展開されるのか?

と、過剰に観客の期待を煽っておいて、
実際には、ちょっと大した事無いイベントです。

ぶっちゃけ、
冒頭の、「ゴキブリ(本物)との混浴」の方が、
よっぽど衝撃度が高いと言えます。

 

勿論、
裸で屈辱的だし、
何だかんだ言って、命の危険もあるし、

実際にやる方となったら、
「蜘蛛乗せ」も、恐ろしい出来事です。

しかし、
観る方には、イマイチもの足りない。

しかも、
クールに乗り越えるより、
オルガの様に、泣き叫んで失敗して欲しい、
みたいな、歪んだ期待をも抱くものです。

 

しかし、実は本作、

そういう、やる方と観る方とのギャップ
その事に対する、
やる方からの、観る方への不満を描いた作品とも言えるのです。

 

  • やる方の、観る方への挑戦状

『MOST BEAUTIFUL ISLAND』、
それが本作の題名であり、
おそらく、
「夢が叶えられる大都市」、
憧れの象徴としての「ニューヨーク」の事を言っているのだと思われます。

しかし、そこで夢を叶えようと、
海外からやって来た移民の現状としては、

日々の生活を送るのにも汲々とし、
三下バイトに明け暮れている始末。

結局、
夢で釣って、
実際には、自国民が敬遠する、大して稼げない肉体労働・単純労働を外国人に強いるという、
移民政策がはらむ、人道的な暗部に押し付けられているのです。

 

『MOST BEAUTIFUL ISLAND』という題名には、
定冠詞の「The」が付いていません

ニューヨークという舞台ではありますが、

移民が被る悲劇をいう意味において、
本作はどんな場所、土地、都市、国でも起こり得る事だと示唆していると思われます。

 

主演、監督を務めた、アナ・アセンシオも、
おそらく、
実際にそういった悲劇を被った一人なのでしょう。

スペインから映画で一旗揚げようとやって来た。

しかし、
役者としても、
企画を持ち込んでも、
誰も相手をしない。

必至になって奮闘して、
ゴキブリと混浴しようが、
裸で蜘蛛を乗せようが、

皆が皆、
無表情で「その程度か…」という、薄い反応。

1998年に放映されたアニメ『ガサラキ』の登場人物、
西田が、この様な趣旨の事を言っていました。

最も恐るべきものは
人々の、圧倒的な無理解による、無関心です、と。

 

日々の単純労働で、無駄な時間を過ごしつつ、

自分の身を犠牲にして、
映画に出たり、バイトをしたり、
色々奮闘しても、

それを享受する、
富裕層や、観客は、
誰も評価してくれない

人の苦しみを糧にして生きているのに、
実際に、苦労している人間を歯牙にも掛けない。

 

そこで、アナ・アセンシオは決意したのです。

お前達がそういうつもりならば、
私が、あんたらの欺瞞を白日の下に晒してやるよ、と。

無表情で女達を品定めし、
上から目線で「ようやった」と偉そうに宣うヤツらの傲慢な姿を活写してやるよ、と。

本作には、そういう怨嗟の念が込められていと、
私は感じます。

だから、
単純で、洗練されていなくとも、
本作には、
ある種の「違和感」が、面白さとして観客に残る

そういう作品に仕上がっているのだと思います。

 

 

本作は、
そのラストシーンも印象的です。

試練を乗り越え、バイト代を手にしたルシアナ。

勤務明けのアイス売りからアイスを買います。

その時、アイス売りに、
「釣りはいいよ」と気前よく言い放つのは、

手に入れたあぶく銭を有効活用出来ない、貧乏人の性(さが)なのか、

同じ移民の女性に対する、彼女なりの配慮なのか。

そして、
アイスを食べるルシアナのバックには、
「BIG BIG DREAM」という看板が見えます。

夢で釣られ、
人生を喰いモノにされて生きている人間が、
最後に見せたのは、

それでも、夢を諦めきれない希望か?
それとも、
たまに見せられる「大きな夢」に、結局は釣られてしまうという皮肉なのか?

 

情念のこもった作品である『MOST BEAUTIFUL ISLAND』は、
そのラストシーンでも、問題を提起して来るのです。

 

 

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