映画『モリーズ・ゲーム』感想 失敗する度に復活しろ!!人生万事塞翁が馬!!

 

 

 

かつてモーグルにて五輪を目指したアスリート、モリー・ブルーム。怪我をして競技スポーツを引退した彼女は、如何にしてセレブ達相手に賭場を開く女支配人となったのか?政府に資産を凍結されたモリーは、裁判を前に弁護士にその顛末を徐々に語る、、、

 

 

 

監督はアーロン・ソーキン
本作が初監督作だが、脚本家として
『ソーシャル・ネットワーク』(2010)
『マネー・ボール』(2011)
『スティーブ・ジョブズ』(2015)等、
多数の映画制作に関わっている。

 

主演のモリー・ブルーム役にジェシカ・チャステイン
遅咲き感はあるが、その分年齢に即した良い役を多数演じている。
出演作に
『ツリー・オブ・ライフ』(2011)
『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(2011)
『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)
『インターステラー』(2014)
『オデッセイ』(2015)
『ユダヤ人を救った動物園 ~アントニーナが愛した命~』(2017)等。

 

共演に、イドリス・エルバ、ケヴィン・コスナー、マイケル・セナ等。

 

 

かつて、オリンピックを狙った元アスリートが、20代にしてセレブが集まる賭場を経営するに至る、、、

パワーワード満載の一文ですが、

なんと、本作は実話ベース。

 

モリー・ブルームがFBIにより逮捕されるまでを描いた回想録『モリーズ・ゲーム』がその原作となっています。

その後、監督はモリーとミーティングし、
本に書かれなかった部分まで含めて映画化した作品、それが本作『モリーズ・ゲーム』なのです。

 

本作、

とにかく、テンポが良い。

 

沢山の情報量を、限られた時間内にギュウギュウに詰め込んでみました、といった感じを受けます。

それでも、上映時間2時間20分はあっという間です。

 

そして、特に言葉に力を持たせており、

セリフの重みを見せられます。

 

銃撃戦が無い代わりに、
言葉による果たし合いがある、
そんな感じです。

 

ストーリーは基本、
モリー・ブルームの波瀾万丈な半生の事を物語っていますが、

ポーカーに溺れるギャンブラーの堕落ぶりも垣間見られます。

 

ギャンブル映画、とまでは行きませんが、
展開のスパイスとして、『ドサ健ばくち地獄』感も楽しめます。

 

モリー・ブルームの個性的な半生を
独特の展開で切り取ったテンポ良い映画『モリーズ・ゲーム』。

圧倒的な魅力のある作品です。

 

 

  • 『モリーズ・ゲーム』にポイント

モリー・ブルームの魅力的な半生

ギャンブラーの自堕落ぶりの面白さ

練りに練った構成の妙

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 展開の魅力

『モリーズ・ゲーム』の監督はアーロン・ソーキン。

本作が初監督作品ですが、脚本家として
『ソーシャル・ネットワーク』
『マネー・ボール』
『スティーブ・ジョブズ』等、を手掛けています。

いずれも、実在の人物がモデルの作品

自分の初監督の作品としてモリー・ブルームという魅力的な女性の半生を描いたのは、
ある意味必然だったのかもしれません。

 

本作は原作として、
モリー・ブルームが2014年に発売した『モリーズ・ゲーム』という書籍があります。

しかし、この作品はFBIに逮捕されるまでしか描かれていません。

監督は、その後のモリー・ブルームを彼女自身に取材し、
さらに親子の問題をも作品に組み込んで映画しているのです。

 

特徴的なのは、その描き方。

時系列順ではなく、

先ず冒頭のツカミとして、
テンポの良く情報量を詰め込んだ「オリンピック選考会」を描写し、

その後の展開は
A:オリンピック挑戦失敗後から始まる賭場の女支配人としての人生のパート(原作で描かれた部分)

B:FBI逮捕後、弁護士に依頼し、裁判に向かうパート(監督が取材した部分)

を交互に描いています。

 

この構成が面白いですね。

原作を読んでいる人でも、
「お、こんな続きがあったのか」と驚きがありますし、

親子関係を作品のテーマの一つとして組み込む事で、
栄枯盛衰の転落人生的なものから
人間万事塞翁が馬、的な深みのある物語へと昇華されている感があります。

原作部分のみだと、
ある意味下世話なワイドショー的興味の範疇の物語ですが、
そこに、
親子関係という普遍的なテーマを加える事で、観る人の共感を得ているんですね。

 

脚本家出身という事で、
時系列順では無い展開、
テーマを加える事で作品の印象を変えるやり方、

これらの構成の妙に力を注いでいる印象があります。

 

  • 言葉の力

また、脚本家出身という強みは、
台詞に込められた力にも観る事が出来ます。

特に、イドリス・エルバが演じた弁護士のチャーリー・ジャフィー、

(地方検事にモリーの無実を蕩々と訴えるシーン、
モリーを理詰めで追い込んで、真実を語らせるシーンなど)

そして、ケビン・コスナー演じる父親の心理学者の台詞

(モリーと会い、診断という形で告白するしーん)

が印象的です。

 

アクション映画ならば、派手な銃の撃ち合いでクライマックスを盛り上げますが、

この映画は
時には、迸る勢いの長台詞で、
時には、丁々発止のやり取りで、
時には、ジックリと語りかける告白で、

それぞれ言葉の重みで映画を盛り上げます

この、
アクション的なノリで言葉を発してクライマックスを盛り上げる手法というのは、
今まである様で中々無いものだと思います。

 

  • モリー・ブルームの魅力

これら、構成の妙が特に光る『モリーズ・ゲーム』ですが、
勿論ストーリー部分である、モリー・ブルームの波瀾万丈な半生もこの作品の面白さです。

モリーは機を見るに敏、
その才覚と、恐らくは自身の魅力で、
カジノというか、ポーカー専用のハイレートの賭場を盛り上げます。

 

この、モリーの格好、
作中では、一々ちょっとエロい格好しているのが特徴的ですね。

美人や可愛い人間っていうのは、
自分でそれを自覚している人間が大半です。

というか、そういう風に見られる事を常に意識しているからこそ魅力的である、と逆に言えます。

自分の魅力を意識して、それを売りにした部分があるのでしょうね。

特にモリーの
私が魅力的なのは、奥さんと違ってギャンブルを推奨する理想の女だから
というセリフにそれが如実に表われていると思います。

全て計算尽くでやっているんですね。

(実在のモリー・ブルームは「molly bloom」で画像検索すると直ぐ出て来ます)

 

参考画像、ドイツ語版、「モリーズ・ゲーム」の表紙。
画像は Amazon リンクです


さて、このモリー。

実在の人物はどうか分かりませんが、
映画の中で見る分には、典型的な長子タイプの人間です。

真面目で堅物、
一つの事に拘る忍耐力があるが、心が折れやすい部分もある

ですが、モリー・ブルームが普通の長子タイプと違うのは、
溢れる才覚と、
鋼のメンタル、
そして、折れてもめげない復活の早さにあると思います。

 

決して客の事をゲロしなかったその頑固振りがあったからこそ、
今回映画化されるに至りました。

正に、沈黙は金なり、です。

また、喋らないという事は、
まだ武器を持っているという事、
それをむざむざ捨て去るより、持ったままで最大限活かした方が後に役に立ったという好例だと思います。

 

また、転んでもただでは起きない復活の早さ。

これには目を瞠るものがあります。

人生、まぐれ当たりである程度上手くいく事はありますが、

事故から復活し、競技を続け、
選考会で怪我をしたが、賭場で成功し、
干されても別の場所で賭場を再開し、
逮捕されても、その顛末を本にして出版し、
今ではそれが映画化されるまで至る。

再チャレンジどころでは無い、
何度失敗しても、
その度に復活し続けている、これがモリー・ブルームの最大の魅力と言えるのではないでしょうか。

 

  • 父と娘の関係

『モリーズ・ゲーム』での父と娘の関係。

これを見るに、モリー・ブルームの性格は、
やはり父親との関係性で築かれた部分がその根本にあるのだと思われます。

 

父が診断した、
「お前は子供の頃に、既に私の浮気をしっていた」
というセリフ。

少女のモリーが語るホームビデオの受け答え、
その達観した感じを観た父は、
恐らくそれは、自分の浮気を見られたからだと、推測するに至ったのでしょう。

その負い目からか、厳しく接する父と、

その父の言葉に従いつつ、
しかし、父を敬っている訳では無く、
いざという時にも頼りにせず、存在を除外しているモリー。

この、お互いが尊敬しあっていない、
形だけの親子関係の歪さが、モリーの性格、

誰も頼らず自分一人で生きて行く

この強靱な独立不羈を形成しています。

 

厳しく育てた父親。
その意図とは大分違うものだと思いますが、
モリー・ブルームは並外れな人間に育ったのは事実ですね。

 

そして面白いのは、
自身もスパルタ教育者の弁護士のチャーリーが、
モリーと父との関係を客観的に見て、自分の様子を心配するシーンがある事です。

どんな人間でも、
やはり自分の事を客観的に見るというのは難しいもの。

人の振り見て我が振り直せ、ですね。

 

  • ギャンブラー地獄変

さて、本作の主眼はモリーの人生にありますが、
話の展開でギャンブラーの自堕落さについて少し触れられているのも面白い所。

 

自分が雇っている小娘に図星を指されキレるディーン、
ポーカー自体は下手だが、全くのポーカーフェイスで金がある様に見せていた詐欺師ブラッド、
管を巻いて長話して、モリーの歓心を買いたいダグラス、
見た目が阿佐田哲也っぽい、いかにもな博打打ちハーラン、

そして印象的なのは、
ポーカーが好きでは無く、人が破滅する所が見たいという「プレイヤーX」です。

彼はゲームのみならず、盤外戦術まで駆使して相手を陥れている部分に、その恐ろしさがあります。

 

ゲームで勝てないハーランには、金の力を使い、
ルールを取り仕切るモリーに対しては、ルール自体を変える事で破滅においやります。

 

正に、阿佐田哲也の小説『麻雀放浪記』や『ドサ健ばくち地獄』を地で行くこの人物。

作中では名前を明かされていませんが、
モリー・ブルームが逮捕された時に名前が挙がったハリウッド俳優、
レオナルド・ディカプリオ
ベン・アフレック
マット・デイモン

様々な候補がいますが、
その本命はトビー・マグワイア(『スパイダーマン』(2002)の主演)だと言われていますが、
実際はどうでしょうか?

 

 

 

テンポ良く、
そして観ている人間が処理出来るギリギリの情報量を駆使し、

凝った構成とセリフの力強さで魅力的な人物の半生を語る『モリーズ・ゲーム』。

人生、諦めなければいくらでも再起出来るという、
力強いメッセージも込められた波瀾万丈で魅力的な作品と言えるでしょう。

 

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原作「モリーズ・ゲーム」の翻訳版です。


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