映画『バリー・シール アメリカをはめた男』感想  嵌めたのか、ハマったのか?第一線に立ち続けた男の末路!!

 

 

 

民間の航空会社にパイロットとして勤めていたバリー・シール。密輸のサイドビジネスに手を染めていた彼に、CIAの「シェイファー」が接触。彼のスカウトに乗り、中米を高速で飛行し、紛争地帯の航空写真を撮影する仕事を始めるが、、、

 

 

 

監督はダグ・リーマン
『ボーン・アイデンティティ』(2002)がヒットし、シリーズの製作総指揮を務めている。
他、監督作に、
『Mr.&Mrs.スミス』(2005)
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)等がある。

 

主演のバリー・シール役にトム・クルーズ
今年2本目の映画作品だが、次回作の『ミッション:インポッシブル6(仮)』の撮影中に怪我をしたとの事なので、来年は雄姿を見られないかも知れない。
近年の作品に、
『オブリビオン』(2013)
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015)
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』(2016)
ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(2017)がある。

 

今年2本目のトム・クルーズ映画。
しかし、本作『バリー・シール アメリカをはめた男』はいつものトム・クルーズ映画とは一線を画する。

本作でトムが演じるバリー・シールは

アンチ・ヒーロー。
本作はピカレスク・ロマンである。

 

トム・クルーズ映画と言えば、
「ポップコーン片手に口を開けて観ても楽しめる」(褒め言葉)エンタテインメント特化型の映画である。

しかし、本作はちょっと事実関係が複雑で混乱するかも知れない。
だが、

バリー・シールがCIAの仕事の一方で、
中米にて密輸で大儲けした話。

 

とだけ覚えていれば、存分に楽しめる。

私は常々思っている事があった。

トム・クルーズは主役ばかり演じるが、実は悪人が似合うのではないだろうかと。

 

そう、本作ではその悪人を演じている。
そして、見事にハマっている。

アクションは無いが、「実話を基にした作品」である本作は、そのストーリーテリングで十分ハラハラドキドキ出来る。

さらには、本作での飛行機によるバリー・シールの飛行シーンは全てトム・クルーズ本人が運転しているという。

つまり、そのクオリティはいつもの、安心・安全・信頼のトム・クルーズ映画である事に代わり無いのだ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • バリー・シール、雇い主の変遷

本作ではバリー・シールの雇い主が多岐に亘っている。
ちょっとまとめてみたい。

1、航空会社TWAのパイロット~
2、CIAの依頼で、中南米にて航空写真を撮影する。~
3、麻薬カルテルと接触。コカインの密輸に手を染める。~
4、CIAに捨てられたタイミングでホワイトハウスが接触。麻薬密輸のおとり捜査をする。

大まかにこういう流れである。

 

  • バリー・シールの魅力

本作『バリー・シール アメリカをはめた男』はピカレスク・ロマンである。

トム・クルーズがいつものイケメン笑いを披露するが、本作ではそれが「裏を含んだ」お追従笑いの様相を呈している。
コイツ、笑いの裏に何か隠しているんでは無いか?と常に思わせる。

だが、基本的にバリー・シールは憎めない。
彼は自分の冒険心の赴くままに、自由に人生を謳歌しているからだ。

TWAにて安心安定ではあるが、決まり切ったルーティン・ワークを続けるより、
CIAの誘いに乗り、高速飛行機で紛争地帯へ向かう事を選ぶ。

麻薬カルテルに目を付けられて、ビビって手を引くどころかここがチャンスとばかりにコカインの運び屋となり大金を手にする。

CIAというお上の指示に従ったフリをしつつ、
カラシニコフ銃を別の場所に運び、そこから麻薬を積み込み密輸にてさらに大金を稼ぐ。

彼の人生は、正直男の夢に溢れている
誰だって、自分の自由に冒険したハズだ。
ルーティン・ワークなどまっぴらだし、
スカした上司の言う事など、表面だけ聞くフリをして裏で大儲けして鼻を明かしたい。
美人の嫁さんと可愛い子供に囲まれ、唸る程の大金を手に入れたい。

彼は人が現世で見る夢を体現した存在なのだ。
法や倫理を破っていても、その密やかな憧れがあるからこそ、彼を憎めない。

 

  • アンチ・ヒーローの破滅

しかし、彼は破滅する。
それは何故か。

バリー・シールは結局、誰かの手先であったからだ。

常に第一線にて自由な自分の人生の戦士として奮闘していたバリー・シール。
しかし、それは他の誰かが描いた絵図の中で自由に飛び回っていただけであった。

バリー・シールは「頭」では無い
CIAや麻薬カルテルの「手」という範囲内で勝手に動いていただけなのだ。

だから最後、用済みになったら無慈悲に切り捨てられてしまったのだ。

 

  • 恐怖!!権力者の実力!

バリー・シールはCIAに切り捨てられる。
そして、地元警察やFBI、DEA(麻薬取締局)に捕まってしまう。

そんな彼が「お上」の御達しで解放されたのは何故だろう?
(その時の電話の相手は、後の大統領ビル・クリントン)

バリー・シールは裏の仕事でCIAと繋がっていた
AK-47ことカラシニコフ銃を他国へ横流ししていたのが、他ならぬアメリカ政府だという生きた証拠が彼なのだ。

その彼に裁判で真実を証言される訳にはいかない
だから、政府はバリー・シールに新たなるミッション、おとり捜査を命じる。

麻薬カルテル側にバレて殺されるならそれで良し。
上手く証拠写真がゲット出来れば儲けもの位に思っていたハズだ。

そして、バリー・シールは首尾良く取引写真を撮影する。
政府側はそこにバリー・シール自身も映っている事をいいことに、敢えて彼が麻薬カルテルに狙われる様に写真をTVで公開するのだ。

裁判では無罪放免とし、司直の手から自由になった彼を麻薬カルテルに殺させる。
権力者が計算尽くで口封じをしているのだ。

結局バリー・シールが生き残る為には、国外へ単独で逃亡するか、大人しく捕まって30年監獄にぶち込まれるかしか無かった。
だが彼の性格上、家族を捨てる事が出来ず、偽りの自由に懸けて政府の甘言に乗るしかなかったのだ。

アンチ・ヒーローが権力者のトラバサミに噛みつかれ、「詰み」の状態へもっていかれたのだ。

 

 

バリー・シールは安定を捨て、自由な冒険とスリルに身を任せた。
それは誰もが憧れ、夢見る事である。

だが、彼は結局、誰かの手先であった為、いいように使われた挙げ句捨てられ始末される事になる。

どんなに唸る程大金が稼げても、自分で絵図を描けなければ、それは果敢無い、絵に描いた餅でしかない。

自分の人生は誰かの絵図の中なのか?
その中で安定を求め大人しく手先に甘んじるか、
自由を求めて抗うか?

『バリー・シール アメリカをはめた男』にて描かれるテーマはそこにある。

しかし、勿論違う道もある。
貧しくても、自分自身で人生の旗を振り、困難な道を拓く人生。
そういうものもある。

自らの人生とは何なのか?
そんな事をつとに考えさせられる映画。
それが『バリー・シール アメリカをはめた男』であった。

題名は『アウトロー』だが、ある種のヒーロー映画だ。


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さて次回は、安定、安心のハズの故郷が奪われる!?映画『マイティー・ソー バトルロイヤル』について語りたい。