映画『ザ・シークレットマン』感想  社会正義と職業倫理の狭間で!!我ら、忖度すべからず!!

 

 

 

40年に亘りFBIを牛耳って来たフーバー長官が死んだ。ニクソン大統領と政府はこれ幸いとばかりに、FBIの長官代理に自分達の息のかかったL・パトリック・グレイを送り込む。副長官のマーク・フェルトがそれに対抗しようとしたその矢先、ウォーターゲート事件が起こる、、、

 

 

 

 

監督はピーター・ランデズマン
映画監督になる前は雑誌記者として活躍。
その所為か、撮っている作品はいずれも社会派サスペンスである。
監督作に
『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』(2013)
『コンカッション』(2015)がある。

 

マーク・フェルト役にニーアム・ニーソン
最近はアクションも多いが、社会派映画の出演も多い役者です。
主な出演作に
『シンドラーのリスト』(1993)
『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)
バットマン ビギンズ』(2005)
『96時間』(2008)
『沈黙 ーサイレンスー』(2016)
怪物はささやく』(2016)
トレイン・ミッション』(2018)等。

 

他、共演に
ダイアン・レイン、マートン・ソーカス、マイカ・モンロー、トム・サイズモア、他。

 

 

本作は、FBI副長官時代のマーク・フェルトにスポットを当てた

実話ベースの社会派サスペンスです。

 

しかし、そもそも、
日本人にとっては「マーク・フェルトって誰?」
状態でしょう。

彼がFBI副長官だった時代に起こったのは、

ウォーターゲート事件。

 

ワシントンD.C.の民主党本部ビルに侵入した者達は、誰の指示で何をしていたのか?

この事件を捜査するFBIに、ニクソン政権が捜査打ち切りの圧力をかけます。

「政府の傀儡」的な長官代理のグレイは政府の意向にそう形の指示を出します

しかし、マーク・フェルトら生え抜きのFBI局員達はその決定に納得いかない。

そもそも、FBIは政府の下部組織ではありません。

独立した捜査機関であるのです。

全くの別組織であるFBIにすら居丈高な態度を当たり前の様にとるニクソン政権。

そんな大権力相手に、
我々は忖度すべきか否か?

 

FBIファーストを唱える副長官マーク・フェルトが、この時何をするのか、このドラマが描かれるのです。

歴史を知っていたらその過程をスリリングに、
知らなければ、まさかの展開に息をのみます。

それに、この映画は単なる歴史では無く、
今現在我々が直面している事件とも通底しているテーマをはらんだ映画でもあるのです。

歴史から再発見して現在を考える。

この実話系映画の醍醐味を味わえる、
『ザ・シークレットマン』はそういう映画なのです。

 

 

  • 『ザ・シークレットマン』のポイント

ウォーターゲート事件

権力者の圧力に屈するべきか、否か?

社会正義と職業倫理

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • ウォーターゲート事件

『ザ・シークレットマン』で主要に描かれるウォーターゲート事件事件とは一体どんな事件なのか?

極簡単に説明して見ようと思います。

 

1972/6/17
ワシントンD.C.の民主党本部ビル(ウォーターゲートビル)に盗聴器を仕掛けようとした侵入者がおり、
警備員に見つかり警察に捕まった事が事件の発端です。

当初、共和党のニクソン政権は関与を否定していましたが、
「ワシントン・ポスト」の取材などで次第に政権の関与が発覚、
盗聴、捜査妨害、等がなされていた事が明るみにされました。

ニクソン大統領は執務室での会話を録話しており、
それの提出を上院特別委員会に求められます。

しかし、ニクソンは大統領権限を発動し、それを拒否
それどころか、司法長官に録音テープ提出を止めさせるように命令します。

それに反発した司法長官と次官が抗議辞任(土曜日の夜の虐殺:1973/10/20)します。

この司法妨害に世論は猛反発、

そして、下院司法委員会が弾劾決議を行いこれが可決、
下院本会議にて弾劾決議が確実とされる時点において、
ニクソン大統領は辞任するに至るのです(1984/8/9)。

 

ウォーターゲート事件の顛末は大変面白く、興味深いので、
気になる人はWikipediaで記事を読んだり、
関連書籍を読んだりして頂くといいと思います。

 

本作で主に描かれるのは、
その捜査初期段階での政権側の捜査妨害の部分、

そして、それを打開せんと、マーク・フェルトが奮闘する場面です。

 

  • ディープ・スロート

当初は、大して話題にならなかったこの事件に火が付いたのは、
「ワシントン・ポスト」によりすっぱ抜かれた大統領と政権関与の記事

この時、「ワシントン・ポスト」に政権側の情報を漏らしたとされる内部告発者がいると噂されていました。

その、アメリカ社会において、最大の内部告発者と言われる「ディープ・スロート」。

その正体がマーク・フェルトなのです。

 

「ディープ・スロート」と言えば、
個人的に印象に残っているのは『X-ファイル』の登場人物。

この人物は、FBI捜査官のモルダーに政府の機密情報をリークしているキャラクターでした。

 

しかし、元々「ディープ・スロート」とは、男性器を喉奥までくわえ込む行為の事を意味し、
「ワシントン・ポスト」編集部内で情報提供者についてあだ名を付ける際、
1972年当時に流行っていたポルノ映画『ディープ・スロート』から採ったそうです。

(政権内部まで食い込む情報提供者、という意味合いでしょうかね)

 

それが現在ではウォーターゲート事件を契機として、
いわゆる「内部告発者」や「密告者」の事を「ディープ・スロート」と呼ぶ様になったそうです。

言葉の意味が、これ程変化するのも面白いですね。

 

  • 社会正義と職業倫理の狭間で

フェルトはFBIという捜査機関の副長官という立場にありながら、
職業倫理に反する行為を行います。

(実際にフェルトが行ったのは、内部情報公開では無く、「取材示唆」、つまり記者に情報を追う方向性を教えた事だとWikipediaには書かれていました)

フェルトが「ワシントン・ポスト」に強力したのは何故でしょうか?

 

先ず考えられるのは、政権の捜査妨害を止めさせる事が目的だったでしょう。

新聞によってニクソン政権の捜査妨害が暴露されれば世論の目が向きます。

そうなれば、政権は口出し出来ず、FBIは捜査を継続しなけらればならなくなります。

この政権とFBIとの主導権争いの部分は大きいポイントです。

 

捜査は独立したものでなければならない。

それが政権主導で行われたならば、
政府の都合の良い解釈のみがまかり通ってしまいます

それに、一度屈すれば次から次へと要求がエスカレートするでしょう。
何としても政府の言いなりになる訳にはいかなかった。

マーク・フェルトはこのFBIの公共性を守る為に動いたのです。
この部分が一番大きいと思われます。

 

また、「ワシントン・ポストの暴露記事」という外部からの要因で捜査を続けざるを得ない、という状況ならば、
表向きは指示に従っている、という体面だけは保てます

 

それに、マーク・フェルト自身、次期FBI長官という立場が確実視される中で、
鳶に油揚げをさらわれるが如くに、ニクソンの息の掛かったグレイを長官代理に置かれた事に対する私怨も、全く無かったかと言えば、嘘になると思います。

これ程までに忠誠を尽くした組織は、こんなもの(政権に屈する組織)だったのか?
そんな事は許されないし、私が許さない、
という傲慢と負の感情もあったハズです。

 

職業倫理を越えたのは
社会正義であり、
FBIという組織自体への忠誠心であり、
ある種の傲慢さ
これらが渾然一体となった個人の意思力なのだと思います。

 

  • 関連映画作品

本作『ザ・シークレットマン』を観るにあたって、合わせて観ると面白いと思われる作品があります。

 

先ず、『J・エドガー』。

これは、FBIの長官であったジョン・エドガー・フーバーの生涯を描いた作品です。

FBIがどの様に発展していったのかも描かれている点も面白いです。

 

そして、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』。

この映画は、ウォーターゲート事件直前に起こった、「ニューヨーク・タイムズ」による「ペンタゴン・ペーパーズ(政府の最高機密文書)」暴露事件を描いています。

この事件で裁判を起こされたタイムズ紙ですが、
それに恐れず、即座に「ワシントン・ポスト」は追加記事を掲載しました。

こういう政権に屈しない新聞社の姿勢を直前に見ていたから、マーク・フェルトは「ディープ・スロート」になったのかもしれません

 

そして『フロスト×ニクソン』。

これは、テレビのトークショーの司会者フロストが、
辞任後に余生を送るニクソンにインタビューする様子を描いた作品です。

ウォーターゲート事件に切り込みたいフロストは、どう話をもって行くのか?
元大統領との距離感を計る様が面白い作品です。

 

 

 

「ウォーターゲート事件」という大事件、
この事件の「ディープ・スロート」にスポットを当てた作品『ザ・シークレットマン』。

原題は『MARK FELT THE MAN WHO BROUGHT DOWN THE WHITE HOUSE』。

直訳すると「ホワイトハウスを倒した男、マーク・フェルト」でしょうか。

政権に屈する事無く、政府に忖度する事無く、
捜査の公共性を守った男の話です。

一方、私生活での苦境や、
彼自身が、必ずしも全き正義では無いという点をきちんと描いている点は好感が持てる作品です。

 

そして本作で描かれる事態は昔話ではありません。

現在でも、トランプ大統領は自分の身辺を捜査するFBI捜査官を解任したりしています。

これが今後どう展開するのか?
動かぬ証拠が出てくるのか?
予断を許しません。

 

また、日本においても、
政権に忖度した官僚の行動が問題視されています。

「忖度」とは、言い得て妙の表現ですが、
もっと言うと、「屈服」と同意でもあります

「森友、加計問題」の今後にも注目です。

 

また、この「屈服」を良しとしなかったのが、テレ朝女性記者による、
財務省の事務次官のセクハラ暴露です。

詳しい経緯はまだ分かっていませんが、
職業倫理より社会正義を優先したという展開としては本作のマーク・フェルトと通じるものがあります。

 

権力者の圧力には、決して屈するべからず。

それは、相手を増長させる事になるのです。

まつろわざる者達へ送る、
人生の矜持の物語『ザ・シークレットマン』。

職を失おうが、誇りを失うよりまし。

そういう事を思わせる作品です。

 

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