土壌を耕し、種を蒔き、農耕をする。農業開始以来人力、または家畜を使って作業をしてきた。しかし、機械化の波によりその風景が激変する。19世紀末に開発された「トラクター」。それが、農地に変革をもたらす、、、
著者は藤原辰史。
京都大学人文科学研究所准教授。
専攻、農業史。
著作に
『カブラの冬』
『戦争と農業』(近著)等がある。
本書『トラクターの世界史』は、その名の通り
トラクターが世界でどの様に導入されてきたか、
各国毎の概略が記されている。
機械化(モータリゼーション)の導入は利益をもたらす一方、変革に伴う様々な軋轢や問題点をも産む。
機械化による生産性向上の夢は共通すれど、
問題点は国毎に違う点が面白い。
トラクターの発展の歴史は、近代の工業化とも密接に関わっており、特に
第一次世界大戦前後の世界史においても重要な役割を果たしている。
その様な、今まで全く知らなかった事を「トラクター」という機械の歴史により見つけられる事は、意外な面白さがある。
以下ネタバレあり
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農業の機械化がもたらす変革
農業の機械化、それは苛酷な労役から農民を解放する一方、様々な問題点をも産んだ。
家畜よりパワフルで疲れ知らずである一方、化石燃料に頼る為に原油の価格により利益が左右される様になる。
家畜の世話から解放される一方、家畜の糞によりもたらされる飼料が使えなくなる為に化学肥料を導入する。
農業の効率化が果たされる反面、農産物の過剰生産が価格の下落を産み、1929年には世界恐慌を引き起こす一因にもなった。
また、機械化は農地から都市へ人口の流入を促し、国単位で工業化の後押しとなったりする。
益がある反面、社会全体の変革をもたらした、農地の機械化の原動力となったのが「トラクター」の導入であったのだ。
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農地の大規模化、アメリカとソ連
トラクターの導入、それは「大規模農場への夢」をもたらす。
そしてその夢は、農業を効率化に向かわせる事になる。
アメリカでは、土地の集積、大規模化をもたらし零細農を放逐させ、農村労働力を減少させる事になった。
著者はそれを、工業が農業を囲い込む「第三次エンクロージャー」とも言えるのではないか、と説いている(p.240)。
つまり、本来は農業労働力だったものが、化学工業やサービス業、IT業など、各産業へとの拡散を工業(トラクター)がもたらした、と言うのだ。
ソ連においては「コルホーズ」と「ソフホーズ」による農業集団化がなされる。
しかしそれは農民の自発的な集団化ではなく、国家による強制的な部分もあり、中央への隷属を促す事になる。
いずれにせよ、それが行われたのはトラクターという機械の誕生が契機となったのだ。
アメリカとソ連だけではない。
ナチス下のドイツ、ウクライナ、ポーランド、日本など、各国毎にトラクターがもたらした農業革命は大きいものがあった。
そして、トラクターの生産技術は戦車へと転用され、戦争にも影響を与えるのだが、それについては著者の次作である『戦争と農業』で詳しく語られるのではないかと期待している。
ともあれトラクターは、「技術のブレイクスルーが社会を決定的に変える」という20世紀の有り様を示す、その一端を顕著に表わしたものであるのだ。
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さて、次回は今まで知り得なかった世界の描写、それが恐怖だったら!?小説『二階の王』について語りたい。