青鹿晶子が夜の新宿で出会った少年。彼は非行少年達に襲われ、ナイフを腹に刺されるも平然としていた。そして翌日、その少年・犬神明は青鹿晶子が務める博徳学園、しかも晶子のクラスに転校して来た、、、
著者は平井和正。
多くのSF作品や漫画原作を手掛けた。
代表作に
「ウルフガイ」シリーズ
「幻魔大戦」シリーズ
『死霊狩り』等がある。
先日は『日本SF傑作選4 平井和正』が発売された。
生賴範義展(2018年1月6日~2月4日)の開催に合わせて復刊されるとの事で読んでみた本作。
シリーズものではあるが、1巻である本作は独立して完結している。
ジャンルとしては、
伝奇アクション小説。
現代に生きる狼男たる犬神明。
彼は人を拒絶し生きるが、
正体を知らずとも周りの人間は犬神の常人から外れた雰囲気を放っておかない。
拒絶しながらも人に注目され、
結果、否応無く事件に巻き込まれる。
少年の不器用な青春が描かれる。
狼男の犬神が不良相手に無双し、弱きを助け強きを挫く。
設定だけ見れば、現代のラノベと何ら変わらない。
とは言え、書かれたのは1971年。
何も考えずに読んでも面白いが、その込められたテーマ性を受け取ると、より感じ入る物語だろう。
また、
後書きでブイブイ言わせているのも面白い。
時代を感じさせない、力強い面白さの作品、それが『ウルフガイ1 狼の紋章』である。
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『ウルフガイ1 狼の紋章』のポイント
不死身の狼男の無双アクション
人を拒絶しながら、求めざるを得ない二律背反
思いの丈を込めた後書き
以下、内容に触れた感想となっています
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ツンデレ!?拒絶しつつ求める人の愛
『ウルフガイ1 狼の紋章』の主人公、犬神明は人を拒絶して生きている。
彼は、両親を亡くし、自分を育てた狼をハンターに殺され、人間という種族自体を憎んでいる。
しかし、その一方で、孤独感に苛まれ犬神は愛を求めている。
「俺を放っておけ」と言うが、
男は対抗心を剥き出しにし、女はワイルドな魅力に参ってしまう。
誰も、犬神を放っては置かない。
犬神自身もアウトローの一匹狼を気取るが、いざ目の前で傷付けられる人間を見ると助けずにはいられない。
犬神は存在自体がツンデレなのだ。
周りも、自分も、嫌だといいつつどうしても関わってしまう。
思えば、「狼」という存在自体、その気がある。
「孤高の一匹狼」というイメージがあるが、
実際は群れを組んで計画的に狩りをするのが狼である。
犬神はイメージとしての「狼」を身に纏おうとするが、実際は群れとしての愛を求めているのかもしれない。
この矛盾し、相克する感情のうねりが本作のテーマであり面白い部分である。
それを知ってか知らずか、周りの人間は彼に否応無く惹かれて行くが、
その連中が揃いも揃って個性派なのが、トラブルとなっているのが大いに皮肉なのである。
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むしろ本番!?後書き大暴走!
本作『ウルフガイ1 狼の紋章』は後書きが個性的だ。
一見ネタに見えるが、実際に読むと、むしろ後書きにかなり言いたいことを詰め込んでいるのだ。
殆どネタばらし的に、作品に込めたテーマの解説を自ら行っている。
弱肉強食を地で行き、憎悪を撒き散らす存在である人間には期待すべきでは無いのか?
それに比べ、狼の如何に誇り高い事か。
人間に対して絶望しつつ、しかし、狼の誇りと愛をもって、尚も人間に寄り添わんとする。
こんな意味の事を後書きにて宣言している様に思う。
そして、『ウルフガイ1 狼の紋章』は、それを体現した作品なのだと感じるのだ。
約50年前に書かれた作品である『ウルフガイ1 狼の紋章』。
しかし、学校での生徒同士の関わり合いや、
暴力に恃む人間の心情、
人を拒絶しても求めずにはいられない孤独な若い魂など、
現代にも普通に通じる作品である。
これを切っ掛けにシリーズ全体が復刊されれば面白い。
電子書籍でも読めるが、生賴範義先生の挿絵も添えて、是非に。
次巻、『狼の怨歌』の感想はこちらから
https://kansoublog.com/denki_wolfguy2requiem/
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さて次回は、第二弾、『ウルフガイ2 狼の怨歌』について語りたい。