映画『アムステルダム』感想  何処かにあるユートピア、その名はアムステルダム!!

時は、1930年代。ニューヨークで主に帰還兵を相手に開業医をしているバートと、弁護士として活躍するハロルドは、第一次世界大戦の戦友であった。
その二人が出会う切っ掛けとなった将軍が死んだ。娘のリズに請われて死因を探るバートとハロルドは、思いがけない事件に巻き込まれてしまう、、、

 

 

 

 

 

 

監督は、デヴィッド・O・ラッセル
監督作に、
スリー・キングス(1999)
ザ・ファイター(2010)
世界にひとつのプレイブック(2012)
アメリカン・ハッスル(2013) 等がある。

 

 

出演は、
バート:クリスチャン・ベール
ハロルド:ジョン・デヴィッド・ワシントン
ヴァレリー:マーゴット・ロビー

トム・ヴォーズ:ラミ・マレック
リビー・ヴォーズ:アニャ・テイラー=ジョイ
イルマ:ゾーイ・ソルダノ
ベアトリス:アンドレア・ライズボロー
ミルトン:クリス・ロック
ヘンリー:マイケル・シャノン
ポール:マイク・マイヤーズ
レム・ゲトワイラー刑事:マティアス・スーナールツ

ギル・ディレンベック将軍:ロバート・デ・ニーロ 他

 

 

 

「果汁100%」って謳い文句があります。
飲料とか、グミとかね。

でも実際は、
全ての「果汁100%」表記の商品が、
果汁のみで作られている訳ではないそうです。

ざっくり言うと、
果実が本来持っている水分を(?)
飛ばしてしまった分を砂糖とかで補っているだけで(?)
実質、果汁100%、みたいな
感じですかね。

なので、
厳密には重量の2%くらいの成分しかなくても、
「果汁100%」になったりする訳で。

 

 

そんな事はさておき、
本作『アムステルダム』です。

「アムステルダム」とは、
オランダの首都の名前。

しかし、
本作の舞台はニューヨークです。

まぁ、
「アムステルダムで過ごした思い出」という形で、
回想シーンがありますが、

実質的な舞台は、
アメリカなので、その点はご考慮を。

 

また、本作は、
予告篇がよく出来ていますね。

「ありえないけど、ほぼ実話」とか、
「歴史を変えた」とか、
「3人の絆」が云々とか。

予告篇を観た感じでは、
国際的な陰謀を、
歴史に名を残していない、
知られざる人物の活躍で、
それを阻止する、

みたいなね
そんな、印象を受けますよね。
何か、面白そうですよね。

 

で、実際に観てどうだったかというと、

本来、別のシーンを
予告篇においては、
カット編集で繋ぎ合わせている

 

んですよ、本作って。

つまり、
何だと言うならば、
予告篇で感じた様な面白さや、
ドライブ感は無い、という事です。
ぶっちゃけね。

 

それでも、
出演陣が無駄に豪華です。

その、
「あ、この人観た事ある!」的な、
ミーハーな感じで楽しむのが、
本作の一番の面白さなのかもしれませんね。

 

で、
予告篇では、
何だか、スパイものみたいな感じも見受けられましたが、

まぁ、
スリルとサスペンスも、
無くは無いけれども、
思ったよりは、そのスケールはミニマムというか。

 

そして、
本作は「実話ベース」の作品であるかの様な売り出し文句がありますが、

これも言うなれば、

「果汁100%」の商品に含まれる果実の量くらいのノリの、
実話の含有量です。

 

まぁ、
本作が「ありえないけど、ほぼ実話」というならば、
山田風太郎の小説の、
『魔界転生』も実話と言えるでしょう。

 

つまり本作は、
「良く出来た」予告篇に騙されずに、
それなりの期待値で以て、
実話風のファンタジーを楽しむ感じで観に行くべき作品と、
言えるのではないでしょうか。

ちゃんちゃん。

 

 

 

  • 『アムステルダム』のポイント

何処かにあるユートピア

無駄に豪華な出演陣

「ほぼ実話」では無い

 

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 予告詐欺に出会ってしまった!?

本作『アムステルダム』は、
その予告篇の出来が秀逸です。

何か凄く、
面白しろそうな映画に見えます。

で、
実際に観てみると、
ハッキリ言うと、そうでもない。

これはどういう事かと言うと、
映画を観た予告篇の製作者が、
「これ、つまんねぇ映画だな」と思ったので、
カット編集で、映画内の色々なシーンを繋ぎ合わせて
面白そうと思える作品に作り替えているのです。

つまり、
プロモーションする映画製作側のスタッフ自身も、
「つまんねぇ」と思っている、
だから、
「詐欺予告」を作っているのです。

 

まぁ、それはおいといて、

本作、
出演陣も豪華で、
国際的な陰謀を描いている、
という、スケール感の割に、

実際の事件は、
自分の庭の中の出来事というか、
自分ちの四畳半の中で完結しているかの様な、
ミニマム感を受けます。

つまり、
設定にて大風呂敷を広げたのは良いものの、
実際に、それをストーリー展開として畳む時には、
小さく、小さく、まとめてしまった

そういう話なのです。

広げた新聞紙が、
最終的に、ビスコ位の大きさになっちゃった、
そんな印象です。

 

結局、
予告篇の印象と、
本篇にギャップがある事で、
本作はその評価を落としているのではないでしょうか。

浅はかな小細工は、
作品の評価を無駄に落とすという、
その例と言えます。

 

因みに、
本作に出演している、
人気歌手のテイラー・スウィフトが、
先頃(2022/11/01付けのニュース)、
アメリカのビルボードにて、
トップ10を、
全て彼女の曲で占めるという快挙を成し遂げました。

まぁ、
本作に於いては
活躍を期待されつつも、速攻で死亡するという、

まるで、
『ドラゴンボール』の天下一武道会のチャパ王みたいな役でしたけどね!!

この辺の、
「期待外れ感」は、本作を象徴していると思います。

 

 

  • 何処かにあるユートピア

ニューヨークでファシストの陰謀に関わってしまった主人公達の物語、
その題名が何故、『アムステルダム』なの?

冷静に考えれば、その点、疑問ですよね。

 

で、何故そんな、オランダの首都を題名にしたのかと言うと、
それは、本作のテーマに関わっているからです。

 

作中で、主人公格の3人、
バート、ハロルド、ヴァレリーはアムステルダムにて、
人生のモラトリアムたる、幸せな日々を過ごします。

そこから、
最初にバートが、妻の居るニューヨークに帰ると言い出し、
結局、
3人ともアメリカへと帰国します。

とは言えバートは、
婿養子や、『サザエさん』のマスオさん状態とも微妙に違う感じですが、
妻の親が医学界に権力を持つ者であるが故に、
頭が上がらない状態です。

ハロルドは弁護士になるも、
黒人という事で、差別的な扱いをされている
(ハズです。作中では深く触れられませんが)

ヴァレリーは、
「頭がおかしい」と言われ、
実家に軟禁状態。

 

つまり、本作における「アムステルダム」は何かというと、

何処かにあるユートピア、
理想郷として描かれているのです。

それは、
秦の始皇帝に言われ、
徐福が探したと言われる蓬莱であったり、

或いは、
『西遊記』にて三蔵法師玄奘が目指したガンダーラと言われたり、

或いは、
ニライカナイと言われたりする場所です。

バート、ハロルド、ヴァレリーにおける理想郷は、
その過去にあり、
それが、象徴としての「アムステルダム」なのです。

 

作中、
ヴァレリーは、
彼女の兄のトム・ヴォーズに
幸せとは、日々の暮らしの中に美や喜びを見出す事」であると言います。

これこそ、
本作のテーマの核心です。

 

一方、そう言われたトム・ヴォーズは、
自らの野望と信仰、金儲けの為に、
世界の趨勢を変えようとします。

世界そのものから、幸せを享受しようというヴァレリーと、
幸せの為に、世界そのものを変えようとするトム・ヴォーズ。

これが対比されています。

 

また、
このトム・ヴォーズ達、「五人組」の国際的な陰謀を止めんとする、
FBIのヘンリーと、MI6のポールのコンビがいます。

このコンビも、
トム・ヴォーズと対比されているキャラクターです。

しかし、
世界を暴力で作り替えようとするトム・ヴォーズと、
世界のカオス化を止めんとするコンビ、

この二者は、
希少種の鳥のエピソードにて、
興味深い関係性があると描かれます。

 

トム・ヴォーズは、バードウォッチングの愛好家。

自然に生きるままの姿を愛おしんでいた彼は、
希少種のカッコウが、
その巣を荒らしたイギリス人によって、絶滅してしまった事を非難します。

で、
実は、その巣を荒らしたというのが、
ヘンリーとポールのコンビ。

彼達は、カッコウの生態を知る為に、
有用な行為だったと主張します。

これって、
「バードウォッチング」という観点からすれば、
トム・ヴォーズの方が自然主義で、
コンビの方が、利己的なんですよね。

メインストーリーの部分と、
立場が逆に描かれています。

つまり、
世界を相手に何かしようという者達は、
本質的には、同じ穴の狢だよ、という事を言っているのです。

 

生きる上で、幸せとは、何なのか?

それは、
毎日の、何気ない日常の中から、
美と喜びを見出す事、

自分が愛し、愛される人と一緒に、ね。

本作は、その事を描いています。

 

しかし、
本作のラストでも示唆されていますが、

オランダの首都、アムステルダムは、
1940年、ナチスドイツの電撃侵攻によって占拠されてしまいます。

本作では、
他に、ユートピアを用意してある、
そこへ向かえ、と言います。

つまり理想郷とは、
特定の場所では無く、
日々、幸せを感じながら、
それが、未来に繋がる日常の事なのですね。

 

この様に、
描かれているテーマ自体は興味深いですが、

出演者が豪華であるが故に、
スケール感が出てしまい、

設定も、
国際的な陰謀でありながら、
その解決は、
半径1キロメートルくらいで完結してしまうという展開もあり、

どうしても、

最初に広げた風呂敷と、
描きたいテーマにギャップを感じてしまう事が否めません。

 

色々と勿体ないなぁ、と思う作品、
それが、『アムステルダム』なのです。

 

 

 

 

 

 

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