時は「今」から20年後、所は日本。犬たちに蔓延する「ドッグ病」が人間にまで感染する前に、ウニ県メガ崎市の市長は犬をゴミ島に隔離する事を決定、全頭の島流しを敢行する。しかし、市長の義息の小林アタリは、自分の愛犬を追って単身ゴミ島へと渡るのであった、、、
監督は、ウェス・アンダーソン。
独特の世界観で、多くの固定ファンを獲得している。
主な監督作に
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)
『ライフ・アクアティック』(2004)
『ダージリン急行』(2007)
『ファンタスティック Mr.FOX』(2009)
『ムーンライズ・キングダム』(2012)
『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)等がある。
声の出演は
小林アタリ:コーユー・ランキン
スポッツ:リーブ・シュレイバー
チーフ:ブライアン・クランストン
他、
エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン、フランシス・マクドーマンド、グレタ・ガーウィグ、渡辺謙、夏木マリ、等、
無駄に(?)豪華すぎる声優陣である。
本作、『犬ヶ島』はストップモーション・アニメーション。
パペットをちょっとずつ動かして行くタイプの、
実写でありながらアニメという不思議な感覚をもたらす作品です。
セルアニメでも、CGとも違う、
まるで人形浄瑠璃の様な、
ちょっと独特のカクカク感のある動きが良い味出してます。
舞台は日本、
そして、本作の日本描写はこれまた独特。
外国産映画の日本描写と言えば、
エキセントリック、
オタク趣味、
自然礼賛、
忍者
などが多いですが、
本作は、レトロ・フューチャーな日本。
監督が言うには、
50年代、60年代から見た未来、
といったイメージだそうです。
愛犬、スポッツを追ってゴミ島に単身渡った小林アタリ。
彼はその地で、
5頭の浮浪犬に出会います。
何事も民主的に決定するその5頭、
チーフ、レックス、キング、ボス、デュークは、
多数決の決定により、小林少年のスポッツ捜索を助けます、、、
さて、本作が特徴的な部分は、作中
日本語と英語の二ヶ国語が飛び交う所。
各々が母国語を喋っているという設定の元、
小林アタリや舞台のメガ崎市住民は日本語、
犬は英語を喋ります。
そして、犬は何となく日本語を理解しているのです。
え?犬の方がかしこい!?
ま、まぁ、そんな事は置いといて、
やっぱり、ワンちゃん可愛い♡
登場犬は結構いますが、
割とキャラ分けがしっかりしているので、ゴッチャにならないスッキリさもあります。
人間の少年と、犬の冒険物語、
ですが、どちらかというと、
犬目線の描写が多め。
犬好きラブ映画となっています。
そして、空間や小物を意識した、美術全般、
浮世絵なども意識している、それらのビジュアル面も要注目。
ぶっちゃけ、
このクオリティを外国人に作られたら、
実際に日本に生きている我々の肩身が狭いレベル。
本当に良く出来た、魅力的な世界観です。
面白くて、
可愛くて、
見た目も良い、
日本人なら、最早必見!?
『犬ヶ島』はそんな映画と言えます。
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『犬ヶ島』のポイント
少年と犬の大冒険(犬目線)
日本人が観ても感嘆するビジュアルと世界観の美しさ
ディストピアにて生きる、迫害されるものの復興
以下、内容に触れた感想となっております
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二ヶ国語同時通訳
本作『犬ヶ島』は、ちゃんと日本というものをリサーチしている作品です。
むしろ、並大抵の日本人が作るより、
日本的なイメージの作品となっています。
ビジュアル面として、浮世絵の葛飾北斎や歌川広重を参考にしたり、
宮崎駿の作品の影響を受け、
そして、イメージとしては黒澤明の近現代系の映画を取り入れたと監督は語っています。
他にも、小物や美術面、
電話や寿司、風呂、役所の書類や学校の教室の黒板の様子等々。
舞台は発達した大都会でありながら、
それらの美術品にて、何処かレトロ・フューチャーな雰囲気を醸し出している、
このバランス感覚も素晴らしいですね。
また、ちょっと面白い日本的な要素として、
翻訳者の二ヶ国語同時通訳という物があります。
日本独特のものとして揶揄されている事に、
来日したハリウッド俳優が英語でコメントをまだしている間に、同時通訳を始める、
というネタがあります。
『キル・ビル Vol.1』でもネタの一つとして採用されていましたが、
本作では逆に「日本語を喋っている間に、英語に同時通訳する」人が出て来ます。
こういう転倒したネタを使っているのも、日本をよく観察しているな、と思います。
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ディストピア
犬と少年の冒険、
そして、ビジュアル面でのレベルの高さに目を奪われがちになりますが、
本作の世界観は、その可愛らしい見た目とは裏腹に、
メガ崎市は管理社会のディストピアとなっています。
日本に住んでいる我々は、時代劇や大河ドラマで慣れ親しんでいるので何も感じませんが、
実際、日本も近現代以前の江戸時代は、
いわゆる管理社会であったと外国からは見られています。
昨年公開された『沈黙 -サイレンス-』を観ると、
日本とは、得体の知れない国であると、外からは見られているのだと、
その事実を見せつけられます。
そういう、ある種日本的でもあるディストピアという社会。
また、ナチスの強制収容所や、
(毒ガスがワサビなのは、外人がワサビ寿司を食べたら悶絶するからでしょうか?日本的な植物であるワサビと、その緑色を毒ガスと組み合わせるセンスが良いですね)
『華氏911』や『一九八四年』などの文学作品をも思い起こさせる世界観となっています。
一応、犬というオブラートに包んではいますが、
明らかに、排除と選別という、人種隔離政策の恐ろしさを描いている本作。
お上の発言のみを鵜呑みにしたら、
いつの間にか真実を知らないままに、他人を傷付ける社会になってしまっている、
全く自分に関わり無いと排除してしまった事は、
実は大切な事なのかもしれない、
そういう事をも訴えているのです。
先ず、見た目のスゴさに目がいく作品『犬ヶ島』。
拘りの日本描写、美術とビジュアルの凄さも素晴らしいですが、
その画作りは、引きが多く、キャラクターの全体像が画面の中に収まっているの良いです。
まるで、一昔前の漫画、
手塚治虫やちばてつやの作品を読んでいるかの様な親近感すら感じます。
また、ワンちゃん達のキャラクター設定も良いです。
例えば「ナツメグ」の場合、
彼女の体毛がサラサラなのは、灰を使ってお手入れしており、
それを何度も使う為に再利用していると、
声優のスカーレット・ヨハンソンがパンフレットで語っていました。
キャラクターが、その場だけのものでは無く、
背景があって、歴史や由来があるんだろうなと、
語られずとも、観客に想像させる作りになっているのです。
こういう、
作中では細かく描写され無い、しかし、ちゃんと設定してある事、
それを想像するのが楽しいんですね。
ただ普通に観るだけでも面白い、
美術面に注目しても目を瞠る、
細かい設定に注目して唸ってみる、
何度観ても色々な楽しみがある、
『犬ヶ島』はそんなオモチャ箱の様な、楽しい映画なのだと思います。
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