2013年、怪獣、太平洋から現る!!環太平洋の国々は怪獣の襲撃を受け、一致団結して対怪獣の巨大ロボ「イェーガー」を開発、これを何度も撃退する事に成功する。そう、2020年、アラスカのあの日までは、、、
監督はギレルモ・デル・トロ。
生粋のオタク監督だが、作りは真摯で面白い。
主な監督作品に、
『ミミック』(1997)
『ブレイド2』(2002)
『ヘルボーイ』(2004)
『パンズ・ラビリンス』(2006)
『クリムゾン・ピーク』(2015)
『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)等がある。
出演は(役名:役者名)
ローリー・ベケット:チャーリー・ハナム
森マコ:菊地凛子
スタッカー・ペントコスト:イドリス・エルバ
ニュートン・ガイズラー:チャーリー・デイ
ハーマン・ゴッドリーブ:バーン・ゴーマン
テンドー・チョイ:クリフトン・コリンズ・Jr
マーク・ハンセン:マックス・マーティーニ
チャック・ハンセン:ロバート・カジンスキー
ハンニバル・チャウ:ロン・パールマン 他。
2013年公開、本作『パシフィック・リム』を一言で言えば、
ロボと怪獣の映画です。
アラスカでの対怪獣戦にて、人類は改めて怪獣の脅威に晒されます。
イェーガーで戦うより、
海岸線に壁を築き、防御に徹する事に予算を使うと各国の政府は決断。
イェーガーを戦略の基調としたPPDC(環太平洋防衛軍:Pan Pacific Defense Corps)の司令官ペントコストは、
予算打ち切りの前に、最後の反抗作戦を開始すべく、各国の精鋭を香港に集めます。
その一人として、かつてアラスカで戦ったローリーを呼び寄せたペントコスト。
そして、香港の基地で彼を待っていたのは、日本人の森マコだった、、、
本作の大きな特徴として挙げられるのは、まず
日本の特撮の影響が大きく見られる事です。
ゴジラ、ウルトラマン、等々、
これら、大きなもの大暴れする作品を参考していると、監督自身が名言しています。
そして、
ロボットアニメの息吹が随所に生きています。
マジンガーZ、ボトムズ、エヴァンゲリオン、、、
これら、特撮やアニメ等のイメージを拝借しつつ、
しかし、
新しい怪獣映画を作り上げています。
また、その
CGで描かれた映像美、照明の美しさは必見の価値あるものとなっています。
ストーリーは10歳の子供が見ても楽しめるものです。
しかし、シンプルだからこその力強さ、面白さに溢れた作品です。
これぞ、エンタテインメントの傑作。
面白い映画が観たい?
ならば、本作『パシフィック・リム』を観るべし。
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『パシフィック・リム』のポイント
怪獣とロボのバトル!!
キャラ立ちした登場人物達の関係性
脅威のCGグラフィック
以下、内容に触れた形で本作の魅力について語ってみます。
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*本作『パシフィック・リム』は、ソフト版に収録されている監督のオーディオコメンタリーが必聴レベルの面白さです。
是非、本篇観賞後には合わせてご覧頂くことをオススメします。
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ファーストインプレッション
本作『パシフィック・リム』を劇場にて初めて観たときの衝撃は忘れられません。
私は「IMAX3D」で観たのですが、
いや~、凄かった。
今現在(2018/04/13)に至るまで、3D映画のナンバーワンはこの作品です。
まず、初っ端の怪獣登場のシーンで、思わずのけぞってしまいました、あまりの迫力に。
映像で体が動くなんて、小学生がやる「マリオカート」じゃあるまいし、、、
しかし、恥ずかしい事に体は正直でした。
映画の面白さの要因として、
「起承転結」の構成がしっかりしている事、が挙げられます。
さらに、傑作となると、この「起」の前に、
この映画がどの様なものか、それを端的に表す「つかみ」の部分があります。
本作はちょっと長目の冒頭16分間がそれに当たり、
しかし、この16分間に、
作品の世界観、設定、キャラクター、映画のカラー等々、色々な情報を詰め込みつつ、
それでいて絶大なインパクトがあるという奇跡の様な作りになっています。
この冒頭16分、
これが好きなら続く120分も間違い無く楽しめる作品なのです。
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オールスター構成
本作の題名『パシフィック・リム』。
日本語に訳すと、「環太平洋地域」。
この地域を守る為、
アメリカ初め、
日本、オーストラリア、中国、ロシア、イギリス等の国々のオールスターチームで怪獣の脅威に臨む。
人種、国籍、性別問わず、全ての人間が協力して事にあたる。
この展開が燃えるのです。
(…もっとも、中国、ロシアがやられて、アメリカ、日本、オーストラリア、イギリスのメンバーで最終戦に挑むのは、何となく意味深ですが
何となく、麻生太郎氏の著作『自由と繁栄の弧』を思い出しますなぁ、、、)
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溢れる怪獣愛
本作『パシフィック・リム』はその最後に、
レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に献辞が捧げられています。
レイ・ハリーハウゼンは、
ストップモーションアニメで、モンスター映画を作った映画監督。
代表作に
『原子怪獣現る』(1953)
『地球へ2千万マイル』(1957)
『シンドバッド七回目の航海』(1958)
『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)
『タイタンの戦い』(1981)等があります。
怪獣映画の元祖であり、
ギレルモ・デル・トロ監督によれば、ロボットものは、ハリーハウゼンの映画の発展形であると言っています。
そして、本多猪四郎はご存知『ゴジラ』(1954)の監督。
『モスラ』(1961)、
『マタンゴ』(1963)
『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)
等でも有名です。
これら怪獣映画にリスペクトを捧げ、
特撮というジャンルをCGという新しい技術で現代に生まれ変わらせた作品、
それが『パシフィック・リム』であると言えます。
オーディオコメンタリーを聞くと、特にその知識の豊富さ、情熱の熱さが感じられます。
監督のお気に入りの怪獣はピグモンで、
先日、『シェイプ・オブ・ウォーター』のプロモーションで来日した時、サプライズで遭遇して大喜びしていたのも記憶に新しいです。
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ロボットアニメの息吹
その一方で、怪獣に対する存在として巨大ロボット、「イェーガー(JAEGER:ドイツ語、意味は狩人)」があります。
こちらはアニメの影響が多数見られます。
先ず冒頭、ジプシー・デンジャー(GIPSY DANGER:アメリカ所属)の頭が胴体と合体する場面。
これなんかは『マジンガーZ』のパイルダーオンそのままです。
これに代表される様に、
ロシアの操縦士のスーツが『ボトムズ』にソックリだったり、
「ドリフト」というアイデアが『新世紀エヴァンゲリオン』の「シンクロ」を彷彿させたりします。
男女二人のシンクロと言えば、『ウルトラマンA』も思い浮かべます。
…流石に『純情パイン』ではないと思いますが。
また、森マコは、その髪型や司令官の養女という設定、
また、日本語吹き替え版の声優が林原めぐみだった事もあり、
「綾波レイ」をイメージした部分が多く見られます。
その名前「森マコ」は『宇宙戦艦ヤマト』の「森雪」が由来でしょうか?
他にも、私が知らないだけで、色々な特撮やアニメのモチーフがふんだんにちりばめられているのでしょうが、
コレが陳腐な模倣に堕していないのは、
『パシフィック・リム』が、拘りに拘り抜いた作品作りをし、
先人から受け継いだ影響を、新しい技術で自らのものとして表現する事で
次世代へと繋げる地平を拓いた事にあります。
後に生きる人間が、先人の影響を受けるのは仕方が無い事。
それをパクリと批判されるか、
オマージュとして理解され称賛されるか、
その境目は、ひとえに真摯さがあるかどうかによるのです。
本作を観たSF作家のウィリアム・ギブスンは本作の事をこう称しました、
「怪獣とロボに対する愛の詩」
正に、本作を端的に表す一言と言えるでしょう。
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ゲームの影響も、あるよ
ここで、ちょっと小ネタ。
ジプシー・デンジャーのAIの声。
ロボットモノにおいては、
ロボに搭載されている「ナビゲーションAI」の声や個性は、ロボットそのものと同じくらい重要であると言えます。
落ち着いた感じの特徴的なこの声を演じたのはエレン・マクレーン(ELLEN McLAINE)。
彼女は『ポータル』というゲームのシリーズにおいて「GLaDOS」という個性的なナビゲーションAIの声をあてていた人物です。
こういう特撮やアニメ、ゲームなど、
いわゆるオタク系の人が好きな物を沢山詰め込んだ映画なのですね。
また、怪獣の名前ですが、
オニババ、ヤマアラシ、ライジュウと日本由来の名前が多いですが、「オオタチ」もそうでしょうか?
私の知っている「オオタチ」はポケモンですが、他に由来があるのでしょうか?
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手強い「怪獣」
『パシフィック・リム』の敵役、「怪獣」。
コイツが小憎らしい程強い。
だから面白いんですね、本作は。
まず冒頭、この相手が強い上にコワい。
この迫力で、先ず観客の心を鷲づかみにするんですね。
このシーンの怪獣の名前は「ナイフヘッド」。
深海に生息する「ミツクリザメ」の様な外観が禍々しいです。
そして、本作において最も盛り上がる戦闘シーンである、「香港防衛戦」。
ここに出てくる
オオタチ:酸を飛ばす方
レザーバック:デカ物、生けるEMP兵器
この2体は、明らかにイェーガーの搭乗者を狙った攻撃をしてくるあたりに、背筋が凍る思いがします。
道具を使ったり、形態が変化したり、、、
戦闘にバリエーションがあるのが面白い所です。
そしてラストバトル。
普通なら正義側が大人数でフルボッコするのがラストバトルでのお約束ですが、
本作は逆に敵の方が多い、しかも、ラスボス的にドデカいヤツもいる。
カテゴリー5「スラターン」の登場シーン(1:48:38)、
この時に流れるBGMが『ゴジラ』の音楽を彷彿とさせるもので、敵が如何に強敵なのかという事を物語っています。
「2体でもやばかったのに、3体相手にどうするの?」という絶望感が素晴らしいです。
敵の強さに説得力があるからこそ、それをやっつける時に爽快感があるのですね。
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CGの凄さと色合いの工夫
『パシフィック・リム』はロボットや怪獣を扱う関係上、CGバリバリの映像となっております。
しかし、凄かったのは、
CG特有の嘘っぽさが、観ている間には全然気にならなかった事です。
それ程作品に夢中になれたという事ですが、
これはやはり技術的な凄さにも裏付けられた成果であるのです。
その色合い。
例えば、「香港防衛戦」における港でのジプシー・デンジャーとレザーバックの戦い。
この場面は、
イェーガーと怪獣の上部は緑がかった色に染め、
下部は暖色に染める事で、
「巨大な物同士の戦い」に説得力をもたらす「奥行き」を獲得しています。
これらに見られる、陰影や色彩の調整、
埃や雨粒が機体に当たる様子の細かい描写、
こういう細やかな仕事により、スケール感と立体感を色彩と視覚により表現しているのが凄い事です。
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細やかさの面白さ
スケール感を出す演出としては、
これも「香港防衛戦」ですが、
レザーバックにジプシー・デンジャーが港で土俵際まで押される場面、
ギリギリの所でビット(係船柱)に「ちょん」とぶつかり、カモメが飛び立ったり(1:21:31)、
ビルの中を突き進むジプシー・デンジャーのパンチが「ニュートンのゆりかご」に当たってカチカチ動き出したり(1:25:53)、
また、ラストバトルの核爆発の衝撃で海水が吹っ飛んだ後、
魚がボタボタ落ちてきたり(1:53:35)、
こういった、見慣れたものが如何に小さいのかを表しつつ、
その対比をイェーガーとの関係性でコミカルに描いているのが何とも憎らしいです。
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「色」に込められた思い
『パシフィック・リム』では、場面の「色」そのものが状況を表す意味を持っています。
青
青は主に、怪獣の色。
体が青色に発光していたり、
「裂け目」の色が青紫色だったり、
また、家族の復讐、つまり怪獣に思いが囚われているマコの髪に青色が混じっていたりしています。
黄色
黄色は希望の色。
ペントコスト司令官が士気をを揚げる為に演説した場面。
また、怪獣に遂に勝利したラストの場面はこの色に溢れています。
赤
赤は生命の色。
血の色。
また、ローリーとマコが棒術で対戦する熱い場面でも赤色が多く使われています。
他にも、自爆寸前の危機的状況にて赤色が使われます。
そして、マコの靴も赤い色。
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マコの赤い靴
監督は靴に意味を持たせた、と言っています。
一つは、コミカルな部分を担ったハンニバル・チャウのど派手な金の靴。
「香港防衛戦」において、シリアス一辺倒でなく、
このハンニバル・チャウとニュートのやり取りが良い塩梅に緩急となっています。
そしてもう一つが、森マコの赤い靴。
生命を表す赤の色。
マコの心には、おそらく怪獣に対する燃えさかる復讐心があったのだと思われます。
しかし、マコは黄色い希望の光を後光の様に纏ったペントコストに救われます。
つまり、この時からマコ復讐心を抑えて(ペントコストに靴を預けて)、
彼の養女として過ごす事になるんですね。
だが、パイロットにマコを選んだペントコストは、
マコに再びその心(=靴)を返します。
戦いに臨むという事は、
つまり彼女には怪獣に復讐する機会が与えられるという事と同意であり、
また、自分の庇護下に置いていたマコを一人立ちさせる事でもあるのです。
(また、血の色である赤は、同時に死地に送るという意味をも含んでいますが)
彼女は戦いの中で見事、自らの過去を清算するのですが、
このわだかまりの解消という行為が、結果基地全体の一体感にも繋がっている象徴的なモチーフなのです。
更に、やはり日本で「赤い靴」と言えば、童謡の『赤い靴』を思い浮かべます。
メキシコ人のギレルモ・デル・トロ監督、
もしかして日本の童謡を知っていたのか?
「異人さんに連れられて行っちゃった」
森マコはペントコストの養女としてもらわれて行ったのでしょうが、
その事も象徴的に表しているのかも知れません。
監督の最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』でも象徴的に使われた赤い靴。
偶然の一致か?
それとも童謡を知っているのか?
ここまで来ると、童謡を知っていると、私は思います。
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スポ根的にとらえると、、、
監督がオーディオコメンタリーでしきりに例えていたのですが、
本作はスポ根的な文脈でもとらえる事が出来ます。
1:以前、失敗してチームを追われたローリー。
コーチに連れられ戻って来るが、チームの皆は半信半疑。
2:新人女性と組むが、注目の初戦で大ポカをかましてしまう。
3:ベンチでチームメイトと喧嘩。
結果、大一番では控えに回される。
4:しかし、チームのエースが相次いで陥落。
希望は控えに回ったローリー達に託される。
5:見事仕事を果たし、チームの信頼を獲得する。
どうですか?
こう書くと、何だかベースボールムービーの様な印象もあるでしょ?
つまり、ストーリー的な面白さは、王道を行っている作品なのです。
さて、色々語ってみましたが、魅力を上手く伝えられたか、ちょっと力不足な様な気もします。
実際、本作ほど映画館にて映像体験を得られる作品はそうそう無いので、是非ともリバイバル上映が「IMAX3D」であった場合、観に行ってほしいものです。
私にとっての『パシフィック・リム』は大傑作。
語ろうにも、語り尽くせない魅力に溢れた作品なのです。
そして、いよいよ公開される続篇。
これを期待と、少々の不安で迎えたいものです。
*追記:その続篇の感想はコチラのページから。
*現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
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