タイに旅行に行った娘ウィンチーが行方不明になったと、その友人から連絡が来た。父のリーはタイに乗り込み、自分も香港で警察をしていると言い、地元の警察官のチュイの捜査に同行すると申し出るが、、、
監督はウィルソンン・イップ。
香港のアクション映画監督である。
主な監督作品に、
『SPL/狼よ静かに死ね』(2005)
『導火線 FLASH POINT』(2007)
『イップ・マン 序章』(2008)
『イップ・マン 葉問』(2010)
『イップ・マン 継承』(2015)等がある。
出演は、
リー:ルイス・クー
チュイ:ウー・ユエ
タク:トニー・ジャー
他に、
ラム・カートン、ヴィタヤ・パンスリンガム 等。
香港映画。
かつてはカンフー映画を多数輩出し、
世界的に見ても独特な映画文化を築き上げていました。
本作『SPL 狼たちの処刑台』は、
その遺伝子を継いだ作品。
随所でカンフー・アクションが炸裂します。
香港の警察官のリーのみならず、
タイの警察官のチュイもカンフーを使います。
とは言え、
チュイの同僚のタクは、
ちゃんとご当地のムエタイを使います。
日本の警察官なら、空手と合気。
韓国の警察官なら、テコンドー。
アメリカの警察官なら、ボクシング。
アクション映画にて、
警察官がご当地の武術・格闘技を使うのは、
世の嗜みです。
さて本作は、
娘のウィンチーが謎の失踪を遂げた事で、
リーの決死の捜索が開始されます。
一体、娘の身に何が起こったのか?
タイという国は、
外から見ると、独特の雰囲気があります。
映画の世界においては、
メキシコ同様、
タイという国はヤバイ!
それを実感させられる、
甘く無いストーリー展開を見せつけられます。
アクションとフィルム・ノワールの融合、
『SPL 狼たちの処刑台』は、そういう映画なのです。
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『SPL 狼たちの処刑台』のポイント
これぞ、アクション・ノワール!
香港 meets タイ
抗えぬ運命
以下、内容に触れた感想となっております
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アクション・ノワール
本作『SPL 狼たちの処刑台』は、
香港カンフーアクションの系譜に数えられる作品です。
普通、アクション映画の効用の一つに、
スカッとしたストレス発散的な意味合いもあります。
しかし本作は観賞後、
そのストーリー展開とラストの衝撃に、
虚無感と無力感に苛まれます。
そういう意味では、フィルム・ノワールというジャンルの作品とも言えるでしょう。
つまり、本作は、
アクション・ノワールなのです。
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「SPL」とは?
さて、本作の題名は『SPL 狼たちの処刑台』。
原題は『殺破狼. 貪狼』です。
監督は過去作に、
『SPL/狼よ静かに死ね』(原題:殺破狼)という作品も作っています。
この「SPL」って、一体何の意味があるのでしょうか?
Wikipediaの『SPL/狼よ静かに死ね』のページに、
その詳しい説明が書かれていたので、
抜粋してみたいと思います。
『原題の「殺破狼」は「シャー・ポー・ラン(Sha Po Lang)」と読む。
中国の占星術において、吉凶ともに人生に極端な影響を与える“凶星”と呼ばれる3つの星(七殺星・破軍星・貪狼星)のことで、
SPLとはそれらの頭文字である。
タイトルになった「殺破狼」の題字は、達筆として知られる香港の人気俳優アンディ・ラウによる揮毫。』
(以上、上記の『』内、2018/11/07現在のWikipediaの『SPL/狼よ静かに死ね』のページより抜粋)
前作の『SPL/狼よ静かに死ね』と
本作の『SPL 狼たちの処刑台』は、
テーマにて繋がりのある、シリーズ的な意味合いがあるのかもしれません。
本作においては、原題に「貪狼」の文字があるので、
それをテーマに作られているのでしょう。
「貪狼星」とは、
「紫微斗数」という占いにおいては、
北斗七星に属する星で、
己の欲望に忠実で裏表の無い、ストレートな性格を意味するとの事。
多才多芸でありながら、文芸で才を発揮するのでは無く、
酒、色、財という環境の中で身を処して行く事に才能を発揮するそうです。
これを踏まえて考えると、
本作のリーが直面する、
抗えぬ悲劇の運命というものは、
まるで、
「貪狼星」によってレールを引かれている様にも思えます。
リー自身は、
真面目で堅物な実直そうな印象を受けます。
しかし、
彼がタイにて直面する闇は、
他人を犠牲にしても、
権力や金、色欲や保身に走る輩にばかり出会います。
どいつもコイツも欲まみれ。
その中でリーも潰されて行くのです。
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抗えぬ運命の中で
リーはカンフーの強者です。
クライマックスのシーンでも、
まるで『北斗の拳』のケンシロウの様に、
無表情に敵をバッタバッタと倒して行きます。
しかしそれも、
『範馬刃牙』のヤンキーいわく、
「タイイチの素手ならね♡」。
武器を持った相手に多人数で襲いかかって来られると、
たちまち圧倒されてしまいました。
この、
強いは強いけれども、常軌を逸する超人レベルでは無い、
というのが、
映画のお約束を打ち破るリアルさを演出しています。
そんなリーは、
暴力にも、
権力にも打ち負かされるのですが、
しかし、
惨めなままで終わるのでは無く、
自分で幕引きを選ぶという選択をします。
自分が破滅してしまっても、
敵に落とし前は付けさせる、
リーはそういう決断をするのです。
しかし、リーは、その最後に希望を見ていました。
自分の行為が、
人質をとられたチュイを救う。
自分と家族は不幸な最期を迎えたが、
チュイの家庭は、ここから始まるのだと、
リーは祝福して、
チュイの幸せを願ったハズです。
だから、
ラストは、リーがタイで唯一笑顔を見せたシーンで終わったのだと思います。
人は、
絶望的な状況にて、抗えぬ運命にあっても、
せめて、その終わり方ならば選ぶ事が出来る。
運命に抗え無いのなら、
少ない選択肢において、
誰かに希望を託すという選択をするのも、
一つの手なのだと、リーは身を以て示すのです。
ただのアクション映画じゃない。
暗黒の絶望に彩られた、
アクション・ノワール作品『SPL 狼たちの処刑台』。
自分の家族の不幸に、
他人の家庭を巻き込んでしまったのなら、
せめて、
彼等を解放する為に、自分を犠牲にする事で、
未来に希望を繋げたと言いたいです。
虚無感に見舞われるストーリー展開であっても、
その中で、どう落とし処を見つけるか。
終わり方を選択する、という行為を教えてくれる本作は、
決して甘くはありませんが、
それでも、一人の人間の戦いを描いた作品であるのです。
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