映画『囚人ディリ』感想  インド発、骨太硬派ガチアクション!!俺がやるしかねぇんだよな!!

警察の特殊部隊が犯罪組織から大量の麻薬、武器弾薬を押収した。隊長のビジョイ以下4名のメンバーは、報告がてら、長官のホームパーティーに参加する。
しかし、警察内部に居る犯罪組織の密通者の陰謀で、その参加者殆どが、毒を盛られて意識不明になってしまう。
動けるのはビジョイと、刑務所を出所したばかりで拘束され、偶然そこに居合わせたディリのみだった、、、

 

 

 

 

 

 

監督は、ローケーシュ・カナガラージ
インド、タミルナードゥ州南部出身。
監督作に、
『Maanagaram』(2017)
『マスター 先生が来る!』(2021)等がある。

 

出演は、
ディリ:カールティ
ビジョイ:ナレーン
カーマッチ:ディーナー
ナポレオン:ジョージ・マリヤーン

アンブ:アルジュン・ダース 他

 

 

 

 

先日公開された、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の最新作『エターナルズ』。

その登場人物に、
インド系のキャラクターである「キンゴ」が居り(演じているのはパキスタン人)、
そのキンゴはボリウッド映画の人気スターという設定でした。

旧友がキンゴに会いに来た時、
彼は歌って踊れる三部作の第一部の映画の、
丁度、ダンスシーンを撮影していた、

という展開がありました。

こういう口さがない「イメージ」というか、

インド映画といえば、ダンスシーンというのが、
日本のみならず、
他の国でも連想される共通認識になっているのかもしれません。

 

 

さて、本作『囚人ディリ』は、

そんなイメージを打破というか、
「ヒットしているインド映画」という共通認識に囚われていません。

ダンスシーン無し、
ヒロイン無し(本当はいる)

と喧伝されていますが、
本作の本質は、

硬派なアクション映画という所にあります。

 

 

「世界でヒットしているインド映画」には、

アクションと、
恋愛と、親子関係と、因果応報と、
歌とダンスシーンがあり、
正に、満漢全席エンタテインメントといった印象があります。

 

一方、
本作は至ってシンプル、
アクションのみ
まぁ、親子関係の話も、多少はありますが。

しかし、
豪華な満漢全席よりも、

美味い米と、
ごんぶとの骨付き肉さえ有れば、
それだけで満足、
いや、それだからこその満足という事もあります。

そう、
本作のアクションには、骨があるのです。

 

アクションシーンの開幕は、
バスとバンでのカーチェイス。

まるで、
インド版マッドマックスとでも言うようなノリに、テンション爆アゲ!!

メインを張る、
元囚人「ディリ」の、このアクションパートがド派手に映画を引っ張り、

そして、
サブ展開として、

陰謀、潜入捜査、籠城劇という、
これまた面白いストーリーラインが絡まり、

手に汗握るハイテンションが、
終始繰り広げられます。

 

 

夜中の爆走、
終始泥だらけ、
叫び回る烏合の衆と、
喚き散らすチンピラ雑魚共 etc…

カオスな状況が、
しかし、
映画の結末に向けて、突っ走り収斂して行く感覚が堪りません。

 

昨今は、
CGを多用した、カッコ良いVFXアクションが一大ストリームをなっていますが、

どうして、どうして、

こういう泥臭いイメージの作品こそ、
アクションの本質と言えるのではないでしょうか。

『囚人ディリ』の骨太アクションを、
皆も味わってみて欲しいです。

 

 

  • 『囚人ディリ』のポイント

骨太の泥臭いアクションでテンション爆アゲ!!

目的と動機でやる気スイッチオン

実は、隠れ設定がある!?

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 目的と動機が、やる気を生む

インド発、
硬派なハイテンションアクション映画、『囚人ディリ』。

昨今の、
消毒された、
清廉なスタイリッシュなアクション映画とは一線を画する、

骨太な面白さがあります。

奇妙な武器や、
ビームが出なくとも、

己の拳での殴り合いだけで、
そりゃもう、これだけ面白いアクション映画が生まれるのです。

 

さて、そんな本作の主人公は、ディリ。

元終身刑であり、
模範囚として出所した直後、
不審者として拘束されてしまったという設定。

彼は、
翌朝10時に、
孤児として、施設で育てられている娘のアムダに会いに行く予定です。

 

なので、
いくら警官であるビジョイの頼みと言えど、
見ず知らずの相手の命令には乗り気ではありません。

脅されて、渋々協力する事になります。

極力他人とは目を合わせず、
運転するバスの同乗者とも口喧嘩し、
悪い雰囲気を醸し出しています。

 

そんなディリが覚醒するのは、
物語中盤。

携帯電話で娘の声を聞いた瞬間です。

人が変わるのは、
ふとした切っ掛けだけで充分。

ディリにとっては、
イマイチ、実感のなかった「娘」という存在が、
現実のものと認識されるに至って、

娘に会うという目的と
そして、その後の人生、

娘を幸せにする為に、何が出来るのか?

その為に、
全力を尽くすという動機を、同時に手に入れたのです。

 

その後の、
ディリの無双振りは言わずもがな。

 

やっぱり人間って、
人に言われて嫌々やる事よりも、

自分の内から発する感情のままに、
目的意識を持って事にあたる方が、余程、成果が出ると言えます。

 

本作の面白い所は、

ディリと、
警察署の本部で籠城した、ロートル警官のナポレオンの共通点と相違点です。

 

どちらも、
アクシデントに「巻き込まれた」形で、
困難に対処するを余儀なくされます。

そんな状況の中で、

ディリは、
娘への愛の為に覚醒したのに対し

ナポレオンは、
協力した学生が無惨に殺された事に対する「怒り」から覚醒します。

その怒りは、
殺した相手に対してであり、
そして、市民を守れなかった自分自身に対する怒りでもあります。

窮地に当たって、
強烈な感情は、動機を生む。

 

物語中盤、
終盤に向かう直前に、
ディリとナポレオンは、一度だけ、会話します。

そこでディリは言います。
「覚悟を決めろ」と。

本作は、巻き込まれた無関係の者が、

それでも、
その状況の中から目的意識を見つけ出し、

困難の打破に挑むという構図が、

ディリとナポレオンによって、
二重に描かれています。

 

目的を持って動く、
潜入捜査官や、犯罪組織側のスパイ、

困難に対処せざるを得ない、
隊長のビジョイ、

突然のアクシデントに、
現場放棄する警官達。

様々な状況の中で、
最もモチベーションが低い立場にいても、

自分がその場でやるしか無いという状況で、
どう動くのか?

 

超人的な活躍をするディリと、
50代のロートルのナポレオンが、

同じ行動を取る所に、
誰でも、ヒーローになる資格がある、
ヒーローに成らなければいけない瞬間があるという事を教えてくれます。

…まぁ、
自らの死と隣り合わせのリスクもありますが。

 

皆さんも仕事などで、
誰も始末せずに、
山積された状況に直面した事が無いでしょうか?

それでも腐らず、
本作のディリやナポレオンや、

漫画『DEATH NOTE』のメロの様に、
俺がやるしかないだろうな」と、
自分のその時出来るベストの行動をとりたいものです。

 

  • 続篇意識!?裏設定に思いを馳せる

本作『囚人ディリ』は、
なんと封切り2日後に、続篇の製作を監督が宣言したとの事。

恐らく、
余程の反響があって、
ノリで言ってしまった発言だと思われますが、

それも納得の面白さではあります。

 

その上で、監督が言うには、
本作の続篇は、
前日譚も、後日譚も、両方作れると言っています。

 

正統な続篇としての、後日譚も作れますが、

確かに、本作に至っては、
前日譚も、面白いものが作れそうです。

 

そもそも、
ディリは何でそんなに強いのでしょうか?

収監されるエピソードは聞きましたが、

そこに至るまでの、
強者になる軌跡と、妻を喪う哀しみなどを描き、
掘り下げたら面白そうです。

 

更に、

ラストの、犯罪組織のボスの意味深な台詞、
あいつの名はディリ、ヤツは最初から関わっていた
という発言があります。

ボスとディリには面識がある?
と、言うより、ディリは裏社会で顔が利く?
もしかして、過去に二人は因縁がある?
それとも、

そもそも、麻薬の押収から警察署の本部の襲撃まで、
絵図を描いたのはディリだった?

その台詞までは、
単純にアクションを楽しんでいたのに、
たった一つの発言で、
これまでの前提が覆されるようなモヤモヤが残ります

 

色々想像出来ますが、

もしかして、ディリは、
木訥だが純粋なヤツではなく、

アムダを娘と言った事も嘘で、
単に、目眩ましの為に、
身寄りの無い、施設の赤の他人を利用したのかもしれません

 

こういう妄想も含めて、
前日譚や後日譚も作製されたなら、
面白いものになりそうです。

 

 

 

 

CGのド派手な映像加工系のアクション映画が流行っている昨今、

寧ろ、時代に逆行するかの様な、
昭和のヤクザ映画の香すら漂う、『囚人ディリ』。

しかし、
アクション映画の面白さというものは、

こういう骨太の、硬派さにあるのだと、

再確認させられる作品と言えるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

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