昭和37年、広島、瀬戸内は備後市。運送会社に務める市川安男は、喧嘩っぱやくて、粗野で乱雑。しかし、彼には「出来た妻」である美佐子がいて、彼女との間に一子を儲け、旭(あきら)と名付ける。
しかし、美佐子が事故で亡くなり、父と息子の二人暮らしが始まる。
彼達は、周囲の人達に支えられてその人生を送る、、、
監督は、瀬々敬久。
ピンク映画でキャリアを積み、
現在では、安定して新作を制作するベテランの一人。
主な監督作に、
『へヴンズストーリー』(2010)
『ストレイヤーズ・クロニクル』(2015)
『64ーロクヨンー 前編/後編』(共に2016)
『友罪』(2018)
『菊とギロチン』(2018)
『楽園』(2019)
『糸』(2020)
『護られなかった者たちへ』(2021) 等がある。
原作は、重松清の小説『とんび』。
2012年のNHKのスペシャルドラマ版、
2013年のTBSの連続ドラマ版に続いて、
3度目の映像化になる。
出演は、
市川安男:阿部寛
市川旭:北村匠海
市川美佐子:麻生久美子
たえ子:薬師丸ひろ子
照雲:安田顕
幸恵:大島優子
海雲(和尚):麿赤兒
由美:杏 他
原作小説『とんび』を書いた重松清は、
映像化の原作小説を多数輩出しています。
TVドラマの
『定年ゴジラ』(2000)
『とんび』(2012、2013)
『流星ワゴン』(2015)
『きよしこ』(2021)等、
映画では
『失踪』(2005)
『青い鳥』(2008)
『幼な子われらに生まれ』(2017)
『泣くな赤鬼』(2019)
『ステップ』(2020) 等。
そんな人気作家なのですが、
なんと、
本作『とんび』は、
3度目の映像化。
それだけ、人気作品なのだと伺えます。
その三度目の映像化、
映画化を果たすのが、
近年、
安心・安全、
安定して泣ける映画を提供する、
瀬々敬久監督。
主演に、
直近の前作である、
『護られなかった者たちへ』でも主役の一人を演じた、
これまた安定の実力派の人気俳優・阿部寛を迎えて臨みました。
この布陣、
最早、鉄板でしょう。
観る前から感動するって、
解ってるから、
観る必要無くない?
とか言っちゃったりします。
中二の私ならね。
しかし、
それなりに人生を過ごして来た自分としては、
本作の、定番の王道感動ストーリーに、
グッとくるンですよねぇ…
そうなんですよね。
映画とか、
小説とかの「感動ストーリー」って、
如何に、ストーリーに「共感」出来るか、
具体的に言うと、
自分の人生に、良く似た苦難や喜びがあると、
作品に、より、のめり込む事が出来るんですよね。
その意味で本作は、
正に安心・安定の「共感力」を備えた作品と言えるのです。
粗野で不器用な男が、
期せずして、シングルファザーとなる。
彼なりの子育ての奮闘と、
それを支える周りの人間の愛情・友情を描いた作品である本作、
人生に疲れ切った時、
ささやかな日常に、幸せを感じる様になる映画、
『とんび』、
気持ち良く「泣きたい」人にオススメの作品ですね。
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『とんび』のポイント
安心・安定の「泣ける」作品
感想エピソードに共感、だから、面白い
親視点、息子視点、友人視点
以下、内容に触れた感想となっております
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人生を3つの視点で描く感動ストーリー
本作『とんび』は、
なんと今回で3度目の映像化となる作品。
2012年のNHK版スペシャルドラマ、
2013年のTBS版連続ドラマに続いて、
2022年に映画化されたのが本作です。
それぞれ、主なキャストは、
市川安男
NHK:堤真一
TBS:内野聖陽
映画版:阿部寛
旭
NHK:池松壮亮
TBS:佐藤健
映画版:北村匠海
美佐子
NHK:西田尚美
TBS:常盤貴子
映画版:麻生久美子
たえ子
NHK:小泉今日子
TBS:麻生祐未
映画版:薬師丸ひろ子
照雲
NHK:古田新太
TBS:野村宏伸
映画版:安田顕
海雲
NHK:神山繁
TBS:柄本明
映画版:麿赤兒
となっており、
こうやって並べると、錚々たる面子となっております。
さて、
本作『とんび』は、
父親と息子の年代記。
幼子から、
少年期、
反抗期、
青年期、
そして、息子が父になるまでの、
父と子の物語となっています。
その視点として、
父親の安男視点、
息子の旭視点で、
それぞれ物語が進みますが、
それに加え、
親子を支える、
たえ子や照雲達、
親しい友人達の視点を含めた、
3つの視点にて、物語は進行します。
感動とは、
言うなれば、
如何に、共感する事が出来るかで、生まれます。
不器用な父親が、
彼なりの愛情で奮闘する姿。
母をしらない息子が、
それでも、
周囲の大人の愛情で素直に育ち、
それでも、
子供なりに父とぶつかり、色々と葛藤する様子。
そんなトラブル続きの親子を、
愛情と友情でもって支える友人達。
子供との関係の難しさ、
親との軋轢、
難しい家庭へ、どの程度手を差し伸べるべきか、
色々、
実際の人生に照らし合わせて、
「ああ、これあるある」
「そうだよな、これ、自分も言われた(言った)事ある」
というものが多数あります。
本作には、
目線(立場)が3通りあり、
故に、共感出来る状況が多いので、
より、感動も生まれているのではないでしょうか。
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好きな感動シーン
と、言うわけで、
私が個人的に好きだった感動シーンを語ってみたいです。
先ずは、
海雲が、
安男と旭、照雲を伴って、
冬の海に出かけるシーン。
場面としては、
海雲が旭に、
「母が居なくて寂しくても、お前の背中を温めてくれる周囲の人間が居る」
と言うシーンですが、
直前の流れから、
旭に語りかける形で、
その実、安男に向けた説話である所に、
心憎さを感じました。
そして、海雲は安男に、
「お前は海になれ、海は雪を全て飲み込む」と言います。
雪は寒さであり、哀しみ、寂しさの象徴。
それが降り積もらない海になれとは、
子供の艱難辛苦を包み込む、
器、度量の大きさを持てと、
優しく激励しているのです。
思えば、
瀬々敬久監督の前作『護られなかった者たちへ』では、
震災の津波により、
海に家族を奪われた父親を、阿部寛は演じていました。
本作では、
家族を包み込む海になれと諭されている所が、
感慨深いです。
二つ目は、
旭が由美を備後に連れてきて、
たえ子の小料理屋「夕なぎ」にて安男と対面するシーン。
この場面では、
終始、何か言いたい事がある様子なれでも、
ムッツリと何も喋らない安男ですが、
照雲が登場して場面は一転、
由美をこき下ろす照雲に向かって、
何だお前はとばかりに、安男が由美を庇うシーンです。
まぁ、
照雲のキャラからして、
そんな事言う人物では無く、
明らかに「釣り」だと解るのですが、
それでも、
まんまと乗せられる安男と、
一芝居打った照雲の男気に心が温かくなる場面です。
照雲絡みでは、
病室での照雲の様子を「立派だった」と言う安男、
そして、その安男に「100まで生きて」と言う旭のシーンも、
好きですね。
で、一番好きなシーンは、
旭の出版社の作文の場面です。
旭が出版社に入社するときにしたためた作文を安男が読むのですが、
それにより、
物語前半~中盤までの旭のナレーションは、
実は、この作文由来なのだと判明する場面です。
そしてこの作文には、
二十歳の誕生日に、
海雲の、自分(旭)へ向けた遺書を読んだというエピソードが含まれています。
そこには、
母・美佐子の死の理由を尋ねられ、
「旭を庇って死んだ」と本人に言えず、
父・安男は「自分を庇って死んだ」と旭に言い聞かせていたのですが、
海雲は、
「その嘘を、許してやってくれ」と旭に伝えていたのです。
父へのわだかまり、
息子への後ろめたさ、
それを知りつつ、何も出来ない周囲のもどかしさ、
それが、一気に解消されたシーン。
「いつか、お父さんも読むべきだと思っていた」
と、気を利かせた編集長や、
「作文、読んだんでしょ」「ああ」
で済ます、旭と安男の会話とその関係など、
不器用な者同士が、色々と、
とうとう理解し会えたという、クライマックスの一つが、
多くを語らず、
さらりと描かれているのがまた、良いじゃないですか。
直前の、
安男が、
自分を捨てた父親に「ありがとう」を伝えるシーンなどとも関連して、
個人的には、
鼻水垂らしながら涙した場面です。
3度も映像化された人気作品『とんび』。
安心の監督、
安定の主演、
約束された感動作を、
ちゃんと、王道に作ってくれた、珠玉の作品と言えるでしょう。
コチラが、重松清の原作小説です
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