映画『ノー・エスケープ』感想 荒野で地獄の鬼ごっこ!

 

 

 

荒野をゆく一台のトラック。中にはメキシコからアメリカに向かう不法移民の一団が乗っていた。道中トラックが故障し、徒歩での越境を余儀なくされる。その様子を眺めるアメリカ人男性がいた。彼はライフルのスコープを覗き、引き金を引く、、、

 

 

 

監督はホナス・キュアロン。『ゼロ・グラビティ』を撮ったアルフォンソ・キュアロンの息子だ。主演はガエル・ガルシア・ベルナル。スナイパー役にジェフリー・ディーン・モーガンが出演している。

『ノー・エスケープ』は、

いわゆるデスサバイバルだ。

 

移民の一団は、各人の個性に関わらず等しく死の恐怖にさらされる。単純に生きるか死ぬか、無事にアメリカまでたどり着けるかどうか、そういう話だ。しかし、単純でありながらひと味加わっているのが、この作品の根底にあるテーマ、

移民問題である。

以下ネタバレあり


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  • 移民問題

昨年の大統領選で数々の大言壮語を吐いたドナルド・トランプ氏。中でも度肝を抜かれたのが「アメリカーメキシコ間の国境に壁を築く」と言う発言だ。誰もが口だけだと知ってはいたが、しかし、もしかしたらこのオッサンならやりかねないな、、、と思わせる妙な説得力があった。
だがそもそも、何故壁を作る必要があるのか?その理由は移民問題だ。メキシコは治安が悪い事で有名だ。おまけに賃金も安い。パンフレットによると、一日に稼げるのは4~5ドル程度らしい。しかし、アメリカなら一時間の最低賃金が5ドルを下らない。そう聞くと、法を犯し、危険を顧みずに越境してしまう気持ちもわからなくはない。雇う会社は不法移民と知りつつ安い賃金で買いたたく、しかし、働く方も比較的安全な社会で地元の何倍も稼げる。お互いWinーWinの関係に見えるが、黙っていないのがアメリカ側の地域住民である。
自分達のテリトリーに侵入し我が物顔で闊歩する。しかも圧倒的な人数で押し寄せ仕事も奪う。いつしか町が移民で溢れかえっている。面白く思わない人間は必ず出てくる。あの狂気のスナイパー(サム)の行動は全く擁護できない。だが、彼を駆り立てた社会的要因や問題がその背景にはある。

  • 狂気のサムの行動原理

移民を見つけたサムは警察に通報する。しかし、ポリスは「いつもの事」だからどうでもいいと思っている。それどころか面倒くさい事ガタガタぬかすなと思っているフシがある。サムはそれを感じ取る。ポリスもサムが感じ取ったという事を感じ取る。表面上は取り繕いながらも内心はお互い「クソボケが」と思い合っているこのシーンは秀逸だ。
だから、サムは自ら手を下す。サムは自分をサムライだと思っているのだ。警察が動かないなら自分がやるしかない。俺が地域と国を守ってやる。不法移民はは叩かれて然るべき。正義はわれにあり、そう自惚れているのだ。
しかし、移民を容赦なくスナイプしていながら、彼に人間的感情がない訳では無い。人間を射的の的程度に扱いながら、愛犬の死に慟哭しムキになって青筋をたてている。サムは神の如き無慈悲な執行者では無く、一人の寂しい男なのだ。彼はただ単に自らの大義名分を果たしているに過ぎない。

 

  • デスゲームサバイバルに求められるもの

この手のデスゲームサバイバル映画に求められるものは残酷だ。観客はどこかで、被害者の死を見たがっている。そしてある程度の犠牲者が出た後に、逆に被害者の反撃の末の加害者の死を期待するのだ。そこにカタルシスがある。
だが、この作品の様に社会問題と絡められた場合はどうだろう。そこには、被害者も加害者もそして観客も、誰にも善も悪もなく、ただ残酷な現実だけが横たわっている。そんな風に感じてしまったのは私だけだろうか、、、


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しかし、そんな過酷な現実を乗り越える為の処方箋としてホラー作品は存在している。次回はそんなホラーの、しかもホラー漫画の歴史をまとめた作品『戦後怪奇マンガ史』をとりあげてみたい。