本『戦後怪奇マンガ史』米澤嘉博(著)感想 日本史や世界史の教科書もこれくらい面白かったらよかったのに!!

 

題名を一見してあなたはどう思うだろうか?ちょっと堅苦しく感じる?面倒くさそう?いやいやとんでもない。これがもの凄く面白い。何故か?それは

構成の巧みさ、観察眼の鋭さ、そしてそれを正しく表出する文章力にある。

 


スポンサーリンク

 

 

  • 怪奇マンガとは

はじめに、さわりとして戦後の怪奇マンガの大まかな説明が入る。その後、怪奇マンガ史の流れを年代記形式ではなく漫画家ベースで記述してゆく。
「恐怖をいかに感じるかという点では、確かに個々によって違うだろう。だが、恐怖とはもともと私的感情なのだ。そして、それを目的として描かれてきた怪奇マンガは、その為の手法を作りあげ、その結果、読者の心理を操作する力を手に入れてしまったではないか。」(p.19より抜粋)
そう著者の米澤氏は言い、漫画家個々人のホラーへのアプローチと作品毎の変遷を著述する。そして、各個の独立した作家評を適切に並べる事によって、怪奇マンガ史を浮かび上がらせ俯瞰し理解出来るという流れを作っている。
それを可能にしたのは米澤氏の該博な知識によって裏打ちされた適切な評論だ。

  • いい評論とは

その米澤氏の漫画家評、作品評が実に素晴らしい。いい評論というものは、その評された作品自体を読んだ事がなくとも、それだけであたかも名作を読んだかのような面白さがある。批評する場合、作品の欠点をあげつらうのは簡単だ。だがそれよりも作品の美点やテーマを掘り起こし良い面を見つけた方がより多くの作品を楽しむ事が出来る。氏の評論はまさにそれである。

もちろん、中には自分の知っている作品もあるだろう。その時にこそ氏の評論の素晴らしさが分かる。自分が何気なく読んでいて、しかし心の中にあったものを表面に浮かび上がらせ気づかせてくれる。新たな読書の喜びがそこにはある。だからこそ知らない作品であっても、その評論に信頼が置けるのだ。

  • 怪奇マンガよ永遠に

それにしても、一口に怪奇マンガと言っても、これだけのバリエーションと作家毎のアプローチがあるのだ。それを教えてくれた米澤氏、そしてもちろん作品を生み出した漫画家の皆さんには本当に頭が下がる。そして、このホラーというテーマへ至る多彩なアプローチを知ることは、漫画のみならず小説や映画、そしてジャンルを超た様々な作品に触れる時に新たな視点を与えてくれる。

しかし、残念なのは、この本が取り扱っている期間が1955年頃~1990年前夜までしかなく、続きも著者が故人であり望むべくもない事だ。だが、怪奇マンガというのは、現在も途切れず連綿と続いているれっきとしたジャンルである。その端緒を知るの事が出来るこの『戦後怪奇マンガ史』は広く皆に読まれてほしい名書である。


スポンサーリンク

さて、次回はこちらもジャンルを大きく飛び越え、話題の新作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』について語っていきたい。