宿屋の亭主コートは、伝説の存在・秘術師クォートの世を忍ぶ仮の姿。紀伝家のデヴァン・ロッキースに促され、彼は自らの半生を語り出す、、、
かつてはコンスタントに翻訳ファンタジーのシリーズをリリースしていたハヤカワ文庫。昨年から今年に至るまで1年ほどファンタジーの出版が空いていたが、待望の新作シリーズが開始された。5ヶ月連続刊行の予定らしいので、応援の意味も込めて1巻ずつ紹介していきたい。
作家パトリック・ロスファスは本作の原形で新人作家コンテストを優勝。デビューにあたり3部作ファンタジーの第一部として出版されたのが本作『風の名前(原題:THE NAME OF THE WIND)』だ。
そして、その翻訳の5分冊の第一巻が本書である。好評を博したら2部、3部も順調に訳されるハズである。期待したい。
さて、そういう訳で、本巻はストーリーのさわりの部分である。まだ、どうこう言う判断は付きかねるが、ファンタジーでよくある
馬車での旅のシーンがある。
このお約束シーンが好きな人は本巻も楽しめるだろう。
もちろん、私も好きだ。
以下ネタバレあり
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生存者の後語り形式
本作はクォートの後語り形式で話が進む。メインの思い出話のパートは一人称だ。
一人称視点なので、その分シーン毎の内面描写が使いやすい。その上後語り形式なので、語り手の視点も自分だ。現在の自分が、過去の自分を分析(ツッコミ)して補足したりする。
同じ人物で一人称でありながら、時折解説が入るという二重の視点になっておりなかなか面白い。
しかし、その一方で、ストーリー的には「クォートは絶対生き残る」という前提が出来てしまう(叙述トリックでない限り)。その、確定した未来に向けてストーリーがどう進んでゆくのか、楽しみだ。
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美しい旅のシーン
ファンタジーではお馴染みの馬車での旅のシーン。本作では少年期の無垢なる思い出として美しいシーンとなっている。
優しい両親、旅の仲間、そして理想的な師匠。全ての満ち足りたものがあるからこそ、それを突然奪われる悲劇性が増す。
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1巻での気になる事
まず気になるのは「クォートとは何者?」という事である。
伝説の存在のようだが、何をして、何故伝説になったのか?とりわけ気になるのは「王殺し」というフレーズである。彼は追われる者なのか?それとも王殺し故に英雄なのか?それをこれから語ってゆくのだろう。
そして、旅の一座が惨殺されたのは何故なのだろうか?おそらく、p.230の歌が原因なのだろうが、その何処がマズかったのか?ハリアックス卿とその一行こそがチャンドリアンで、何か歌と関係があるのか。それとも歌われる事自体が駄目なのか?その辺にも注目だ。
天涯孤独となったクォートがどうなるのか、それは2巻以降のお楽しみであろう。
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というわけで、次回も続けて『風の名前』2巻について語ってみたい。