ファンタジー小説『風の名前(2巻)』パトリック・ロスファス(著)感想 少年よスラムより這い上がれ!

 

 

 

パトリック・ロスファス著、『風の名前』の2巻である。

今巻では少年クォートの受難時代が描かれる。その設定は、これまたファンタジーでは定番の「家なき子」物語だ。

どうやら『風の名前』は、ファンタジーの定型文を意識してなぞっている様だ。
王道を行くのは簡単な様でいて難しい。
道なき道を切り拓く場合は、たどたどしくとも、その道行きだけで十分目立つ。しかし、整備された道路を行こうとするなら、他より堂々とした力強い道行きでないと目立たず埋もれてしまう。この

王道スタイルを追求してゆく姿勢

 

に期待して注目しつつ読んでいきたい。

 

以下ネタバレあり


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  • スラム時代

天涯孤独となったクォートは港町タルビアンで家なき子生活を送る。
聡明な頭脳を持つなら苦難くらい切り抜けられるだろう、そう思う向きもあるかもしれない。しかしクォートは両親の死、一座の惨殺という悲劇の記憶を、現実に押しつぶされない為に封印してしまった。そして記憶の封印は才能の封印でもあった。
クォートは習い覚えた共感術も使えずに、12歳相応の子供の力だけで生きてゆく事となる。
そして、このスラム時代でクォートは新たな性質を獲得する事となる。それが「やられたらやり返す、倍返しだ!」と言わんばかりの負けん気の強さである。
格闘技においては、同じ力量の人間が戦ったら勝つのはいじめっ子、と言った人がいる。元来は無邪気だったクォートは、少年がスラムで生きてゆく為に必要な才覚として、この負けん気の強さを後天的に獲得する。それがパイクに対する復讐であり、ジョスンの対する嫉妬心であり、ヘンメ師匠にたいする対抗心となって現れている。

  • 大学入学

スラム時代を抜け出し、大学入学へと挑むクォート。特に大学入学面接試験のシーンは彼の才能、機知が遺憾なくあらわれており、見所となっている。
一方ヘンメ師匠をやっつけるシーンは、胸がすくというより、ちょっと危うい感じを覚える。正直、ヘンメ師匠程度だったら嫌味なヤツどまりで、殊更ムキになる必要もない。如才なく立ち回るならば、あの程度なら軽く受け流せばいいのだが、敢えて相手に恥をかかせて自らの苦境を招くあたり直情的な傾向を感じる。
しかし、この不屈さこそがクォートの性質で、魅力であり、弱みでもあるのだろう。

  • 2巻での設定と謎

2巻では重要と思われる世界観の神話が語られる。一つが、トラピスが語るp.63~83までの神話。そしてスカルピが語るp.101~115及びp.125~127までの神話である。
トラピスの神話では神であるテフルの設定が述べられる。テフルが信者を募るシーン、魔物エンカニスを追い詰めるシーンはともにキリスト教を彷彿とさせる。一旬間という暦の設定もこのテフルとエンカニスの追いかけっこが由来の様だ。そして、魔物は鉄に弱いという設定が改めて強調されている。
スカルピの神話はランレの話で、ストーリーライン的にも重要だ。従来では英雄と目されていたランレが堕落し、ハリアックスと成った。1巻でクォートの家族や仲間を惨殺した、あのハリアックスか?このスカルピの神話を聞くことでクォートが覚醒する。ハリアックスとそれに従うものがチャンドリアンで、それに対抗するものがアミルであるのか?その真意を確かめるべく、クォートは大学へと目指すこととなった。

2巻でストーリーは進み始めた本筋の謎はハリアックスとアミルであるが、他にもちょっと気になる所がある。
ひとつは、p.53のシーン。警備にシメられたクォートが雪の中で出会う盗賊?の二人。なんでもない親切な人かもしれないが、わざわざ「ゲレック」と名前があるのが気になる。後に出てくるのか?
もう一つはスカルピが連行されるシーン。彼は、何故名乗っていないクォートの名前を知っていたのか?「語り部スカルピ」は実は驚くべき正体を隠しているのかもしれない。

 

謎を含ませつつ3巻以降、クォートの人生はどうなってゆくのか?期待して待ちたい。

こちらは前巻

 

 

 


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といいつつ、次回も『風の名前』について語りたい。もちろん3巻だ。