<強き者の島>とアイルランドとの戦は終わった。失意のマナウィダンの傷心を癒やす為、プラデリは自らが治める故郷のダヴェドに誘う。彼の地で、未だ美しさを失わぬフリアノンと心を通わせ、マナウィダンは安住の地を手に入れたのだが、、、
著者はエヴァンジェリン・ウォルトン。
本作は以下の『マビノギオン物語』の4部作の第3作目である。
『アンヌウヴンの貴公子』
『スィールの娘』
『翼あるものたちの女王』(本作)
『強き者の島』
本書『翼あるものたちの女王』は前作である第2部の直接の続きだ。
悲劇的な戦いを生き残ったマナウィダンの旅路の果てを描いている。
『アンヌウヴンの貴公子』では神話ファンタジー。
『スィールの娘』では悲劇的英雄譚。
そして本書『翼あるものたちの女王』においては
心温まる愛の物語が描かれる。
とは言えそれは、べたべたしたものでは無いし、
容易に手に入れられるものでも無い。
正に、苦難の末、ようやく手に入れられるものである。
しかし、そういうファンタジー的冒険を描く一方、
日常の幸せについても描いている。
『スィールの娘』を読んで傷ついたマナウィダンと読者の心を癒やす、優しき物語である。
これもまた、ファンタジーだ。
以下ネタバレあり
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遂に来た!?伏線回収!
第1部『アンヌウヴンの貴公子』でのドルイドの呪いの言葉(p.255)。
第2部『スィールの娘』でのブランウェンの指摘。(p.107)
読者が「もしや…」と思っていた伏線が、この第3部の導入部である。
そしてそれが、最早若者と言えず、寄る辺もなくなった傷心のマナウィダンの新たなる生きる支えとなる。
端的に言えば、家庭である。
名誉や戦の勲だけではない、心が帰り着く故郷たる家庭を守る事、それもまた人生の生き甲斐なのだ。
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安住を求めて
とは言え、王に近い生まれのマナウィダンを周りは放って置かず、プラデリにも類が及ぶ。
また、フリアノンも過去の因縁に苦しめられる。
手に入れたハズの安住は容易に維持できず、さらなる苦難と忍従を強いられる。
しかし、そうした安住への試練を受ける一方で、普通の生活も共に描かれる。
何気ない会話、毎日の食事、騒がしい隣人、そして愛する人と共にいる事。
そういった平和な日常のちょっとした事こそが真の幸せなのである。
日常と家庭を守ること、それこそが『翼あるものたちの女王』におけるマナウィダンの戦いである。
ほぼ全てを失い、自分の力の源泉たる「頼りにしてくれる者」がキグヴァしかいなくなり、最期のどんずまりで「家を守る暖炉の妖精(?)」たるボギーと奇妙な友情を結ぶのは、その象徴であろう。
戦いと冒険、ファンタジーの王道である。
しかし、傷つき、疲れ年老いた後にも人生は続く。
その時に安住となるのが家庭であり、日常なのだ。
そして、それを維持してゆくにもいろいろな困難があり、一筋縄では行かない。
家庭という日常を維持してゆく、それこそ幸せへの戦いなのだと訴える。
本書『翼あるものたちの女王』は我々の生活に最も即したファンタジーと言えるだろう。
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さて、次回はいよいよ最終刊『強き者の島』について語りたい。