幻想・怪奇小説『幸運の25セント硬貨』スティーヴン・キング(著)感想  玉石混淆でも、アタリはホームラン!!

 

 

 

チェックアウトしたお客がホテルの客室係に残したチップは、たったの25セント。手紙には、幸運の25セントと記されてあったのだが、、、

 

 

 

 

著者はスティーヴン・キング
当代きってのベストセラー作家。
モダン・ホラーの帝王とも言われる。
代表作に、
『キャリー』
『シャイニング』
『ザ・スタンド』
IT
『スタンド・バイ・ミー』
『ミザリー』
『グリーンマイル』
『11/22/63』
ダーク・タワー」シリーズ等多数。

 

本作『幸運の25セント硬貨』は
原題『Everything’s Eventual : 14 Dark Tales』の日本語訳、その後半。
7篇の中短篇を収めた作品集である。

*前半の『第四解剖室』は題名クリックでページに飛びます。

ジャンル的には

SF、奇想、ホラー、怪奇小説

 

といったラインナップ。

面白い作品もあり、
それなりの作品もあり、

しかし全体で見ると

多彩な読み味の作品を「ホラー」という味付けで統一している。

 

読み終わってみると、
「やっぱり面白いな」と思わせるのは流石。

長篇が評価されている作家でも、
短篇がこれだけ面白い。

それを発見出来るだけでも、価値がある作品集である。

 

 

  • 『幸運の25セント硬貨』のポイント

短篇ならではのワンアイデアの面白さ

短篇ならではの勢いだけで持って行く力強さ

サクサクどんどん読める手軽さ

 

 

以下、内容に触れた感想となっています

 


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  • 短篇の手軽さと面白さ

長篇と短編小説を比べて、短篇を読む事の利点を考えた場合、その一つに手軽に読める事が上げられるだろう。

そういう気軽さがウリの短編小説を、長篇での描写のしつこさに定評があるスティーヴン・キングが書いたらどうなるか?

短篇でも、やっぱり面白いのである。

長篇では盛り上がるまで時間がかかる場合でも、
短篇では直ぐさま物事の核心に至る

まるで、長篇でのクライマックスのみを抜き出したかの様なお得感があるのだ。
(全部では無いが)

勿論、短篇には長篇には無いリズムがあるので好みは人それぞれだが、
スティーヴン・キングの長篇が好きならこの短篇集も気に入る事は間違い無いだろう。

 

  • 作品解説

収録作の7篇を簡単に解説してみたい。
「なにもかもが究極的」が中篇。
残りが短篇である。

なにもかもが究極的
SFチックな中篇。
謎めいた導入から、意外な展開を迎える中盤までのワクワク感が凄い。
自ら考え無いものは、結局誰かの道具でしか無い
それを受け入れるかどうかで、人生は決まる。
厳しい現実を突き付けて来る。
面白いだけに、オチを放棄したラストは残念至極。
実は、「ダーク・タワー」シリーズに関連した作品でもある。

L・Tのペットに関する御高説
魅力的な語り口が実は、絶望に押しつぶされそうな現実からの逃避だったという哀しさ。
短篇としての起承転結が見事な作品である。

結局、夫婦生活とは忍耐と我慢なのだと改めて知らされる。

そして、ラストをどう解釈するか?
単に、哀しみに暮れる男の話なのか?
それとも、もしかしたら「斧男」はL・Tなのか?
等、色々想像が膨らむ余地を残しているのも、この作品の面白さである。

道路ウイルスは北にむかう
ストレートな、ゴシック・ホラー。
理不尽さを前面に押し出したスティーヴン・キングらしい作品である。

ゴーサム・カフェで昼食を
こちらもアンストッパブルな展開がスティーヴン・キングらしい作品である。
しかし、理不尽過ぎて、ホラーが転じてギャグの領域にまで達している。

離婚訴訟のゴタゴタで、お互いの会話が成立していない感じが、夫婦生活の破綻を端的に物語っている

例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚
いわゆるループもの。
ループものは、思いついた時には面白く思うだろう。
しかし、実際に読まされる方は、ほとんど同じ文章を繰り返し読まされ、かと言って読み飛ばす事も出来ず、ちょっとした違いを探して展開の進展を注意しなければ成らないという作業感に苛まれる
ぶっちゃけつまらないのである。
これがゲームだったら、読んだ部分は早送り出来るが、小説ではそうはいかない。
面白いアイデアに反して、ループものを読む方はしんどいのである。

短篇では、ループものと気付いた時点で早送りで読み飛ばす案件である。

一四〇八号室
呪いの部屋を扱ったゴシック・ホラー。
実際の怪奇現象部分より、それを盛り上げ煽るホテルの支配人の「前語り」部分が格別に面白いのである。

幸運の25セント硬貨
夢オチ。
だが、せめてこういう幸運の妄想を楽しまないと、人生はやっていけないのである。

 

 

本作で特徴的なのは、夫婦の物語が3篇収録されている事だ。
(「L・Tのペットに関する御高説」「ゴーサム・カフェで昼食を」「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」)

夫婦と言っても結局は他人。
愛に目が眩んでいる間はいいが、正気に戻れば悪い所ばかりが目に付く。

しかし、それをお互い様と忍耐と我慢で乗り切るのが夫婦生活の秘訣である。

そうで無ければ、本作収録作の人々の様な修羅場が訪れるのでしょうねぇ。

 

 

『第四解剖室』『幸運の25セント硬貨』。
両方合わせて一つだが、正に玉石混淆。

しかし、面白さは個人の感覚であり、全体で見るとベテラン作家の如才ない作品作りが楽しめる作品集となっている。

ホラー作家というイメージの強いスティーヴン・キングだが、本作を読むとそういうイメージに囚われず、物語自体の面白さを堪能出来る

長篇だけじゃない、短篇も面白い、それが、スティーヴン・キングである。

 

こちらは前半の個別ページ

https://kansoublog.com/gensoutokaiki_everythingseventual1/

 


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さて次回は、民俗学的ホラー漫画!?『みくまりの谷深』について語りたい。