メイン州、ロング・レイク湖畔に妻と息子と共に住むデヴィッド・ドレイトン。ある日の嵐の後、真っ白な濃霧が発生した。スーパーマーケットに買い出しに行ったデヴィッドは、その濃霧の為、足止めを食らう。何故なら、霧の中に何かがいたからだ、、、
著者はスティーヴン・キング。
当代きってのベストセラー作家。
代表作に
『キャリー』
『シャイニング』
『IT』
『ミザリー』
『グリーン・マイル』
「ダーク・タワー」シリーズ
等多数。
スティーヴン・キング。
日本で最も有名な海外作家だと、解説に書いてありました。
ベストセラー作家であり、
映像化作品も多いのが特徴。
映像化作品に、
『キャリー』
『シャイニング』
『スタンド・バイ・ミー』
『ショーシャンクの空に』
『グリーン・マイル』等、
映画史に残る名作から、
『ザ・スタンド』
『11/22/63』
『アンダー・ザ・ドーム』等、
TVドラマとなった作品も多数あります。
その中でも、
特に近年、「ナンバーワンの胸クソ映画」
として有名な作品として
『ミスト』があります。
さらには、『ザ・ミスト』としてドラマ化もされた同作。
これの原作が本書に収録されている、
「霧(原題:THE MIST)」です。
本書は、
現在絶版となっている扶桑社刊の短篇集
「スケルトン・クルー」(全3巻)
の中から作品をチョイスした傑作選です。
しかし、
やはりあくまで中心は『霧』。
近年見直された『霧』という作品を世に出す為に、
中篇の『霧』のみでは分量が少ないので、
短篇をオマケに付けました、というニュアンスを持った作品集です。
さて、
あくまで中心は『霧』とは言え、
同時収録されている短篇4作も、なかなかの粒ぞろい。
「キング作品を初めて読む人の為に作った」と、
後書き解説で書かれいただけあって、
どの作品も面白さを保証済みです。
そして、収録作の5篇には共通点があります。
それは、
胸クソ作品、だという事です。
サイコサスペンスとも、
ゴシックホラーとも、
スプラッターとも違う、
後味の悪い作品集。
「何でこんなオチなんだよ、、、」と唸る事請け合い。
そして、
それが面白いのがまた、何とも歯がゆいムズムズ感があります。
確かにこれは、
スティーヴン・キング作品の特徴の一つ。
初心者がスティーヴン・キングを知る切っ掛けとして、
その入門書として最適とも言える作品集となっています。
映画『ミスト』のファンで、原作を読んでみたい方は勿論、
キングファンだけど、
『骸骨乗組員』を買い逃して『霧』が読みたかった人も必読、
時代のニーズを受け復活した作品集
それが本書『ミスト』なのです。
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『ミスト』のポイント
短篇と中篇のお得なパック
後味悪し、不気味な印象の作品集
胸クソ映画『ミスト』の原作、『霧』が読める!
以下、内容に触れた感想となっております
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題名
本書『ミスト』は、
『Skelton crew』(原書)という短篇集から4篇に、
新訳の一篇を加えた作品集です。
詳しく言うと、
『スケルトンクルー1 骸骨乗組員』から
「ほら、虎がいる」
「カインの末裔」
「霧」
『スケルトンクルー3 ミルクマン』から
「ノーラ」
これに新訳の
「ジョウント」
を加えた作品集です。
扶桑社刊のスティーヴン・キング(&リチャード・バックマン名義)の作品が全て絶版となっている現在、
映画『ミスト』のヒットもあって、
短篇傑作選として、その原作を復活させた形です。
『ミスト』原作の『霧(原題:The Mist)』のみでは分量的に少ないので、
そこに短篇をくっつけた形です。
まぁ、私としては、
全て買い揃えていないので、
全部普通に扶桑社版を復活させて欲しかったのですが、、、
(『骸骨乗組員』は持ってます)
これを契機に、
「スケルトンクルー」の残りの作品も復活してくれたら有り難いです。
さて、
本書の題名は『ミスト』。
これは映画版のヒット作『ミスト』を意識し、
その原作である「霧」が収録されている、という事をアピールしているのでしょう。
題名が『ミスト』なのに、「ミスト」という作品が無い!
と、一瞬焦るかもしれませんが、
本書では『ミスト』=「霧」なので、ご安心を。
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作品解説
それでは、簡単に作品の解説をしたいと思います。
「霧」のみが中篇、
残り4篇が短篇となっております。
ほら、虎がいる
子供の頃って、授業中にトイレに行くのにも、ある種の勇気が必要です。
この作品の様に、ちょっと意地悪な先生もいます。
そういう、子供目線のリアルな恐怖描写がしてある所が秀逸。
虎も良いですが、
ビビってシンクで用を足す発想も子供らしくて、
ホラーというよりジュブナイル的印象すらあります。
ジョウント
本作のテレポーテーション技術、「ジョウント」という名称は、
アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ』のテレポーテーション「ジョウント」から採られています。
オチ自体は面白いですが、
そこまでが、ちょっと長いです。
むしろ、オチまでもっていく人間描写の方が面白く、
アイデアは短篇ですが、
描写は長篇的というちぐはぐさを楽しむ作品なのかもしれません。
ノーラ
異常な暴力性の発露が、ゴシックホラーに着地する、
奇妙で不思議な作品。
暴力の発露が、異常な存在を呼び寄せたのか?
それとも、異常な存在が、暴力を誘発したのか?
暴力の誘発の原因が、
過去のトラウマとシンクロしていた、
恐怖そのものを覆い隠す為に、異常な暴力性を発揮した、
しかし、本人はそれをむしろ享受し、
過去から親しんできたトラウマ自体を受け入れる事で、
それを愛と称する異常性を描いた、興味深い作品です。
カインの末裔
短篇であるからこそ、
理由も意味も無く、
突然凶行が起こる恐ろしさを描けている、そんな作品だと思います。
霧
映画『ミスト』の原作。
映画はほぼ原作通り、
それでいて原作者に「私が思いついていたら、このラストにしていた」とまで言わしめた胸クソラストは映画オリジナルです。
(とは言え、原作のラストも、これはこれで「スティーヴン・キングらしい」余韻を残す終わり方だと思います)
さて、
原作も映画の方もテンポが良いです。
具体的には分からない「何か」が起きた所為で真っ白な濃霧が発生、
そして、「霧」の中に、何かがいる。
一見、モンスターパニックものだと思われますが、
本作が面白い、というか、興味深い作品なのは、
極限状況に置かれた人間心理の十人十色模様です。
普段は頼りなげな人間が、勇気を発揮するタイプ、
目の前の驚異を現実と何としても受け入れないタイプ、
状況を積極的に打破しようとする勇者タイプ、
異常な状況に乗っかって布教に勤しむ自己主張型カルトタイプ、
異常な状況では、一番怖いのはモンスターではなく、
人間(サイコ)なんだ、
今ではよく語られる物語の定石ですが、
「霧」においては、その類型が見事に描かれています。
また、この「霧」は、
スティーヴン・キングの「ダーク・タワー」シリーズにおける、
「希薄」(『ダーク・タワーⅣ 魔道士と水晶球』他に発生)も連想されます。
具体的には言及されていませんが、
「霧」の世界観も、「ダーク・タワー」サイクルの一つなのかもしれません。
*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています。
胸クソ映画として一躍有名になった『ミスト』の原作「霧」を復活させる形で、
「胸クソ作品」を集めた傑作選、『ミスト』。
まさに名作、
スティーヴン・キングを初めて読む人も、
勿論キングのファンも、
短篇作品好きも、
皆が楽しめる、
いや、不快な感じになれる面白さ、
それが本書『ミスト』なのだと言えます。
*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています。
「霧」が収録されている扶桑社版の短篇集(現在は絶版中)です
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