扉を抜けた先の世界、<裏側>にて空魚(そらお)は水深20センチの場所で溺れかけていた。ネット怪談でお馴染みの存在「くねくね」らしきモノをみた途端、体が動かなくなったのだ。そこに、たまたま金髪美女の鳥子が通りかかって、、、
著者は宮澤伊織。
「神々の歩法」にて第6回創元SF短編賞を受賞。
著作に
『僕の魔剣が、うるさい件について』
『高度に発達したラブコメは魔法と区別がつかない』
等がある。
本作『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』はハヤカワ文庫JAというレーベルで発売されています。
ハヤカワと聞くとSF的なイメージだが、本作は
プチ怪談ラノベといった印象。
ネットで見かけた怪談をラノベ風に小説化。
そして
舞台は異世界。
最近流行の「異世界モノ」、
本作はその主流の「転生」や「召喚」では無く、「訪問」のパターンです。
「ネット」で「怪談」で「異世界」と言えば、それ自体が一つのジャンルとなっている程の体験談が多数見受けられます。
本作はその流れを汲み、
異世界と言えば、
「転生無双」じゃなくて、「ネット怪談」だろ?
と声高に主張しています。
インターネット上に伝わるフォークロア(伝承、風習)、
つまり
ネットロアをネタにした小説
それが、『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』なのです。
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『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』のポイント
ラノベ化されたネットロア
異世界探訪ミッション
訳あり二人のバディもの
以下、内容に触れた感想となっております。
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ネットロアとは?
本作『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』は、ネットロアを元ネタとしたラノベ風実話怪談です。
では、ネットロアとは一体どういう意味でしょう?
ネットロアとは、
インターネットとフォークロアの合成語。
フォークロアとは、
民族に伝わる風習、伝承、それにまつわる学問の事。
主として無形財の事を指します。
つまり、「インターネット上にまつわる都市伝説」の事をネットロアと呼ばれています。
特徴として、
拡散経路がSNSや掲示板、チェーンメールなどが使われ、従来の都市伝説と比べてその伝播速度や範囲が格段に上である事があげられます。
その種類と質は正に玉石混淆。
体験談、不思議体験、目撃譚、伝聞、デマ、創作、
それらが渾然一体となり、
一人が語った事に対し「身に覚えがある」と全くの赤の他人が同調する事で信憑性が増し、
一気に読み手の猜疑心のラインを下げ、心胆を寒からしめるのです。
従来の怪談と比べると伝播速度が早いが故に、
その内容も伝言ゲームの様に変質して行き段々とエスカレート、
しかし、あるレベルまで行くと「嘘くさく」なってしまうので、そのギリギリのラインで話の無駄な部分の取捨選択がなされ、
結果、怪談として洗練された「恐さ」が残り、伝聞されて行くという特徴もあります。
これを学問として統合して考えるのは至難の業だと思いますが、
ならばフィクションとして扱うならば可能であろうと、その発想にて作られたのが『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』であるのです。
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怪談+Wizardry
『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』というタイトル。
言い得て妙です。
メインキャラ二人で怪異に挑む、
と言えば思い浮かべる作品は海外ドラマの『X-ファイル』。
裏世界という異世界に、
ピクニック感覚にて小ミッションに挑む。
言葉のイメージ通りの内容の題名といえます。
また、私の勝手なイメージですが、本作はゲームの『Wizardry』を連想します。
女子二人のバディが「異世界」というダンジョンに挑み、
その場その時でNPC(ノンプレーヤーキャラクター)を加え、
ミッションをこなし、
帰還しては潜りを繰り返し、
少しずつマップを踏破し、
最深部(冴子の行方、裏世界の謎)を目指す。
ラノベ風なので、「帰還しては潜り」の部分を「ピクニック」という語感で言い表しているのが絶妙です。
ネットロアを題材に、異世界をミッション的に踏破して行かんとする『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』。
裏世界そのものの成り立ちと、実話怪談がどの様な結びつきを見せるのか?
その辺りにも期待を持たせつつ、シリーズものとして続いて行きそうな気配があります。
今後も注目したい作品です。
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さて次回は、異世界というか、小さくなったら別世界!?映画『ダウンサイズ』について語りたいです。