漫画『ギガタウン 漫符図譜』こうの史代(著)感想  漫画の基本に返った面白さ!!

 

 

 

国宝「鳥獣人物戯画」から、兎に蛙、猿たちが飛び出した!?キガタウンでの彼等の暮らしが4コマ漫画になった。そして、漫画の表現記号たる「漫符」を一つずつ組み込んで、使用例を解説しているのだ!

 

 

 

 

作者はこうの史代
知る人ぞ知る漫画マニア受けする作家だったが、2016年の映画『この世界の片隅に』のヒットで一躍人気となった。
代表作に
『ぴっぴら帳』
『夕凪の街 桜の国』
『長い道』
『この世界の片隅に』
『ぼおるぺん古事記』
『日の鳥』等がある。

 

映画『この世界の片隅に』のヒットで、一般にもすっかり知名度が行き渡ったこうの史代。

その映画公開後の初単行本となるのが本作『ギガタウン 漫符図譜』です。

しかし、

もともと「売れ筋」を追求するタイプでは無い作者の新作は、多分に実験的。

 

とは言え、特に難しい事を気にせずとも、

新聞の4コマ漫画を見る感覚で気楽に読む事も出来ます。

 

大笑いとはいかなくとも、
読むとちょっと「ふふっ」となって、安心出来る感じの漫画になっています。

作品のコンセプトは「漫符」の解説。

「漫符」とは
「!」とか、「♪」とかの、漫画で使われる記号の事。

一ページに一つ「漫符」が4コマ漫画にて使用例と共に紹介されています。

 

この辺りの、誰でも読める親切さからも、
新聞4コマ漫画みたいな読み味を感じさせます。

もちろん、そんな事気にせずとも、

可愛い兎や蛙が動き回っているのを見るだけでも和みます。

 

派手なアクションも無いし、
深い感動とも無縁。

しかし、気楽に楽しく読めるというのが、漫画の根本的な楽しみ方なのだと思い出させてくれる、
『ギガタウン 漫符図譜』とはそういう漫画です。

 

 

  • 『ギガタウン 漫符図譜』のポイント

「鳥獣人物戯画」から飛び出たキュートなキャラクター

「漫符」の解説

気楽に楽しめるシンプルな面白さ

 

 

以下、内容に触れた感想となっています

 


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  • 漫画の文法

あなたは漫画を読まれますか?

漫画読みからすると信じられない事ですが、
どうやら一定数以上の「漫画を読めない」人間がいるそうです。

読まない、じゃなくて「読めない」人です。

漫画を読めない人というのは、漫画をどう読めばいいのか分からないのだそうです。

以外ですが、子供の頃から親しんでいないと、「漫画の文法」というリテラシーが身につかないのですね。

(コマを読む順番、目線の移動、等)

作者・こうの史代の周囲にも、そういう方がいたそうです。

こうのはふと気付いた。
確かに、昔の漫画はコマに読み順の数字があったり、
コマ自体が一定のリズムで単純に読めていた、と。

そして、「漫符」。

漫画を理解する上で有用な、状況の説明記号であり、定型文の意味を持つ物

これも、知らないと意味が分からない「絵」としか認識していないのかもしれません。

なので、本作で作者は漫画を読まない(読めない)人にも分かり易いように、

1:4コマ漫画の形式
2:漫画で使用される「漫符」を解説しながら

楽しく読める物を描こうと思った様です。

4コマ漫画なら起承転結がシッカリしており、読む順番にも悩まされずに済みます

それに、一ページ読み切りなので、「漫符」を例に取るのに丁度良い形式でもあります。

 

  • 鳥獣人物戯画

漫画のコンセプトを確立させて、さぁ、キャラクターはどうするか。

ここで、作者・こうの史代が選んだのは、「鳥獣人物戯画」。

これは、「日本最古の漫画」とも言われる事も多い絵巻物です。
(勿論、異論もありますが)

知名度と人気はケタ外れ。
博物館で展示公開ともなれば、連日長蛇の列が並ぶ人気コンテンツでもあります。

この、人気と知名度を兼ね備え、「最古の漫画」とも言われる由緒ある素材を基として、基本に立ち返った漫画を描く。

正にピッタリのチョイスと言えましょう。

 

  • ちょっと言わせて!

そういうコンセプトなので、漫画としてはストイックにシンプルな物となっています。

絵を描いたのは筆かな?
スクリーントーンの使用は皆無です。

そして、「漫符」の使用も少ない。
というか、説明した漫符以外は極力使用しないように気を付けて描いています。

私が気付いた面白い面をあげますと、

先ず、p.84の「リボン」
リボンを付けているのは「女の子」という記号という説明。

無機物や動物に付けて女の子(雌)である事を説明する記号ですが、漫画を読めない人からすると、それさえも理解していないという事実に驚愕します。

しかし確かに、「使用例」を知らないと理解出来ず、違和感しか無いのかもしれません。

p.78の「ざわ…」
この用法の3番は、福本伸行の漫画じゃないですか!
ピンポイント過ぎィ!
ざわ… ざわ…

単純に一番好きなのはp.59の「視線」
一触即発の起承転結が行き着く先が笑えました。

 

  • 本作での目線誘導

また、本作『ギガタウン 漫符図譜』では、台詞も写植が使われず手書きで、しかも横書きとなっています。

(普通の漫画は4コマといえど縦書きが多い)

台詞を横書きにした理由はおそらく、
読む時に「上から下へ」目線を誘導したい為でしょう。

台詞が「縦書き」だと、目線の動きが「N字型」となります。

ストーリー漫画の様に、一ページに沢山コマがある場合は「右から左」に視線誘導をする必要がある為、台詞をその誘導標識として使用する事になります。

しかし、4コマ漫画の場合はコマを追うのは基本的に「上から下」のみ。

なので、台詞が「横書き」で、目線を「Z字型」に誘導する方が自然だとの配慮が感じられます。

面白いのはこの配慮、
普段漫画を読みまくっている私が読むと、台詞を読む順番を間違えてしまう事も多々あったという事です。(p.89など)

「N字型」に慣れた私が、「Z字型」の読み方に戸惑う。

これはつまり、普段気付かずとも、漫画の文法を駆使して漫画を読んでいたという事の証左とも言えましょう。

なかなか面白い「気付き」を提供してくれます。

 

 

作品がアニメ化され大ヒットで評価され、売れる。

漫画家としては夢の展開だが、問題は、売れたらそれ以降の漫画の質が落ちる事態が多々あるという事。

長年漫画を描き続けたベテランでもその例に漏れず、
例えば『ジョジョ』の8部とそれ以外を比べると明確でしょう。

(鳥山明みたいな例外もごくたまに存在しますが)

しかし、この『ギガタウン 漫符図譜』を読む限りでは、「あぁ、いつものこうの史代だ」と思わせてくれて安心する。

マイペースでありながら、
しかし、漫画表現に挑戦し続けるこうの史代の漫画を、これからも私は支持して行きたいのだ。

 

 


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さて次回は、小説の表現に挑戦し続ける人気作家の短篇集、小説『第四解剖室』について語りたい。