月が明るい、、、。いや、明るいどころでは無い、まるでサーチライトである。何が起こった?月の異変、光量の増大は、即ち、太陽の異変が考えられる。こちらは真夜中、しかし昼側はどうなってしまっているのか?、、、
著者はラリイ・ニーヴン。
大胆なアイデアのハードSFがお得意、
その一方ファンタジー作品も著している。
代表作に
「リングワールド」シリーズ
『パッチワーク・ガール』
『魔法の国が消えていく』等がある
昔のSFベスト系の短篇集では度々名前が挙がるが、
近年、新刊で入手出来る本が全く無かったラリイ・ニーヴン。
今回、日本オリジナルの傑作選が発売されました。
ハードSFという売り文句が裏表紙に見えますが、ご安心を、
ハードSF、と言っても、
想像力で補えるレベルの内容です。
難しいオリジナル理論が延々続いて煙に巻かれる様な事が無いのが良いですね。
むしろ、SFは土台であり、
アイデア、冒険や感情の揺れといった物語部分が面白いです。
収録作が傑作選という事で、手軽に気楽に楽しめる中短篇集。
それが本書『無常の月』です。
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『無常の月』のポイント
SFネタを支えるストーリー部分の面白さ
生き生きとしたキャラクターの魅力
ファンタジーもあるよ!
以下、内容に触れた感想となっとおります
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アイデア+ストーリー+キャラクター
本書『無常の月』は裏表紙にハードSFという文句が見えます。
Wikipediaの人物紹介でも、「ハードSF」という単語が見える作家です。
SFのアイデア部分が面白いのは確かです。
しかし、今回本書にて短篇をまとめて読んで思ったのは、
そのSFアイデアを活かす
ストーリー、キャラクターの面白さが際立っているという事です。
むしろ海賊のキャラクターが良かった「帝国の遺物」
冒険モノとしての面白さがある「太陽系辺境空域」
情緒SF「無常の月」
人間関係がメインの話「ホール・マン」
SF作品、特に短篇はアイデアメインである事は間違いありませんが、
SFには「ネタの賞味期限」みたいなものがあり、
アイデアのみでは中々面白さが後世まで伝わり難い部分もあります。
しかし、ストーリー部分やキャラクターの面白さ、オチの意外性など、
「小説そのもの」の面白さが備わっていれば、息が長い作品として評価されると思います。
本書のSF部分のアイデアは、現在では語り尽くされた感もありますが、
それでも魅力的で皮肉な見方のキャラクターの面白さがあって作品の面白さ自体は色褪せていません。
やっぱり、読書って、
特にエンタメ系は読んで楽しくないとなぁと、私は思います。
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収録作解説
では、収録作を簡単に解説してみます。
全7篇。
「太陽系辺境空域」のみ中篇、残り6篇が短篇です。
帝国の遺物
衰退した先行文明、
その文明が残した植物の生態、
隠遁した科学者、
海賊の由来、
超科学を持つ宇宙人の秘密、
これらのネタがたった40ページ弱に詰め込まれて、
それが混乱せずに面白い短篇として成り立っているのが奇跡的な作品。
物語は科学者の目線ですが、
むしろ海賊の波瀾万丈な流転ぶりが面白さがあります。
中性子星
本書で最もハードな感じのSF。
質量が馬鹿デカい星であるが故に、重力も馬鹿デカイ。
なので、たった90メートルでも端と端では潮汐力が働いて、引っ張られる!!
つまり、犯人(原因)は重力!
え!?そうなの!?と思っちゃうけれど、
サスペンス的な物語の上手さで何となく納得出来るのが面白い作品です。
*潮汐力とは?
Wikipediaの記述を参考にしてまとめると、
潮汐力は、
重力が、物体の内部、表面など、場所により異なっている為に起こる。
重力源に近い部分と遠い部分では、重力加速度が違う。
その為、物体は潮汐力を受けると体積を変えずに形を歪めてしまう。
球体の場合、重力源に近い部分と遠い部分がふくらんだ楕円形となろうとする。
太陽系辺境空域
本書唯一の中篇。
潮汐力と重力ネタが好きなのかな?
SFネタも面白いですが、むしろ冒険モノとしての部分や、
ネタを仲間に喋らずニヤニヤしているカルロスにイライラしたり、
シェイファーの皮肉な目線を楽しむ部分がメインの様な気もします。
007の様な、隠しアイテムの数々もツッコミ所です。
無常の月
世界が後数時間で終わるとしたら、どう過ごすか?
これを情緒豊かに語った作品。
ジタバタすら出来ない状況で、
破滅が忍び寄る中、それを従容と受け入れる様子が感じ入ります。
ホール・マン
ウマが合わない人間を、一緒の職場で働かせてはいけません。
人が辞める一番の原因は人間関係なのです。
閉鎖空間においては、その純粋な能力よりも、協調性が考慮されなければ、周りも地獄ですね。
しかし、上司のパワハラに負けずに、完全犯罪を成し遂げたという点では、謎の爽快感がある作品です。
終末も遠くない
唐突に始まるファンタジー。
しかも、ちゃんと面白い。
魔法にはエネルギー源がある、というネタも面白いですが、
やっぱりキャラクタ-の魅力、
魔法使いがジイさんになったり、剣士がアホだったり、魔剣が魔物だったり、
ファンタジー好きが食い付くネタをちゃんと弁えているのが良いです。
馬を生け捕れ!
この作品もファンタジー。
しかも、ユーモアもの。
読んでいて、「ん?」と思わせるくすぐり方が秀逸。
言葉が伝わらないからと言って、
ハトに餌をばらまいて誘導するが如くに人間を宝石にて釣る部分も笑えます。
SFとファンタジー。
ジャンルとしては違いますが、
人知を超えた圧倒的な技術や現象の描写という点においては共通点があるように思います。
これらのアイデアを、
ひねりの効いたストーリーと、
ちょっと皮肉なキャラクターで色付けする。
だから、面白い。
短篇を読む楽しさに満ちた作品集、
それが本書『無常の月』なのです。
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