中学生の岩田広一の家の隣に引っ越してきた男子、山沢典夫。二人が乗り合わせたエレベーターが停電を起こした時、典夫は異常とも言える過剰反応を見せる。なんとなく不気味に思いながらも登校した広一だが、なんと典夫は広一と同じクラスに転入してきた、、、
著者は眉村卓。
『妻に捧げた1778話』がTV番組「アメトーーク」で取り上げられ話題となる。
代表作に、
『ねらわれた学園』
『司政官 全短編』
『消滅の光輪』等がある。
また、傑作選の
『日本SF傑作選3 眉村卓』も入門編として最適な一冊だ。
転校生にどんなイメージがありますか?
学生時代、転校生を迎える側が抱く気持ち、
好奇心と嫉妬心。
この人はいったいどんな性格で、何が好きなんだろうという好奇心。
そして、ただ居るだけでクラスの注目を浴びることへの嫉妬心。
これらを同時に味わうのではないでしょうか?
本作『なぞの転校生』の主人公、岩田広一も、
転校生・山沢典夫に、そういったちょっと複雑な感情を抱きます。
しかし、山沢典夫はただの転校生じゃなかった。
勉強もスポーツも容姿も並外れ、
なのに、ひょんな事から突飛な行動をする。
He is ミステリアス転校生!!
それだけでは無く、
時を同じくして近隣の学校に引っ越してきた多数の少年少女達も、
山沢典夫のように容姿端麗・成績優秀、
そして、何処か変わったところがあったのです、、、
現役の中学生が読んで面白いのはもちろん、
かつて学生だった人間も、
あの、世界と自分が鞘当てする様な感覚を思い出す事が出来ます。
いわゆる、
ジュブナイルSF
と称されている本作『なぞの転校生』。
誰が読んでも、
スパッと一気読みしてしまう魅力に溢れた作品と言えましょう。
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『ねらわれた学園』のポイント
転校生に対する好奇心と嫉妬心
ミステリアスな謎と展開
地域に溶け込めない「転校生」の苦悩
以下、内容に触れた感想となっております
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共感出来る正統派主人公
本作『なぞの転校生』は、いわゆるSF作品。
ジュブナイルSFの傑作として紹介される事が多く、
過去、何度か映像化されています。
(1975年、2014年にドラマ化、1998年に映画化)
SFというからには、確かにある種の突飛な設定のある作品です。
しかし、何度も映像化され、
今だに傑作と称されるのは訳があります。
それは、この作品は読者の共感性が高い事です。
本作の岩田広一が抱く様々な感情、
転校生に対する、好奇心と嫉妬心が入り混じった感情を抱く場面。
また、偶然クラスメイトの秘密を知り、
それを言ってしまうと、告げ口の様な卑劣な感じがして、
一人ヤキモキする感情。
責められている友人を見捨てる事が出来ない正義感。
これら、中学生の頃、真っ直ぐな視線で世間を見ていたあの感じを、
主人公の岩田広一がやってくれる。
この事に共感せざるを得ないのですね。
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転校生の気持ち
その一方、転校生である山沢典夫の視点から見ても、
『なぞの転校生』は共感出来る部分が多いです。
初めての土地で、見知らぬ集団の中に入っていく感じ。
新しい事を始める期待と恐怖、
その情緒不安定な感情の揺らぎ、
これもまた読者の共感を呼びます。
山沢典夫とその集団は、確かにSF的な設定が適用されています。
しかし、
新しい環境に馴染めずに、
「前の方が良かった」とか、
「もっと何処かに自分の理想とする場所があるハズ」
と言って自分の居場所を求め彷徨う姿は、
転校初日の転校生の心に浮かぶ心情であり、
また、祖国を追われた難民や移民が抱く気持ちでもあるのです。
SF的な設定の面白さのガワを被ってはいますが、
その実、現実に即した感情、状況を強調して表しただけに過ぎない、
この現実感が共感性を呼んでいるのですね。
また、他の登場人物、
岩田広一の両親や、山沢典夫の父、
同級生の香川みどりや、担任の大谷先生、
彼達普通の人間が、
非日常においてどの様に現実と対峙して行くのか?
それぞれの立場にて、それぞれのスタンスを取っており、
彼等に感情移入しても面白いです。
手頃な短さで、スパッと読める。
だからこそ、まとまった作品の面白さが堪能出来る『なぞの転校生』。
自分の中学生時代を思い出し、懐かしい気分にも浸れ、
また、様々な登場人物に感情移入出来る。
面白さがギュッと詰まった作品です。
*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています。
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