エス・エフ小説『光の塔』今日泊亜蘭(著)感想  現代SFの起源にして至高!!

 

 

 

火星から帰還した水原史生(みのはらしお)は、宇宙省への出頭途中、昇降機の中で停電にあう。それは「絶電」と言われる、日本中が正午12時丁度に停電に陥る現象であった。これこそ未曾有の事態が出来する、その前兆であった、、、

 

 

 

著者は今日泊亜蘭
評価が高くとも絶版状態だった作品が、ここ1年ほどの間に次々と復刊された。
現在、新刊で手に入るものに
最終戦争/空族館
『光の塔』(本書)
海王星市から来た男 縹渺譚』がある。

 

本書『光の塔』は「現代日本SFの初長篇」と言われる作品である。

そして、

原初にして至高の作品と言える程面白い。

サスペンスフルな謎の現象、SF的設定、戦争、アクション、政略、言語遊戯、ミステリー、メロドラマ

 

まさに、なんでもござれのごった煮エンタテインメント作品だ。

『最終戦争/空族館』を読めば分かるが、短篇が上手い作家であるが故に、
長篇である本作『光の塔』においても多数のエピソードが重なりあって進行してゆく。

物語の伏線が次々と回収されてゆく様は、見事な構成力である。

 

SFであるが故に「謎の独自理論」が出てくる。
それでも全ての本読みに送りたい逸品である。

 

 

以下ネタバレあり


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  • エンタテインメントの見本市

本作『光の塔』は「侵略SF」という本筋があれど、その内容はエンタテインメントの見本市ともいうべき様々なバリエーションに溢れている

まずキャラクターがいい
主役の水原の性格はフラットな感じだが、その家族関係が複雑で、そこに引き込まれる。
特に別居状態の妻との冷え切った会話が微妙で面白い。

他にも江戸っ子を自称する照岡、豪放磊落な賀藤、生真面目な軍人柴田、そして魅力的なのが愛すべき暴れ馬こと竜四郎が良い味を出している。

また、言葉遣いに特徴のある著者だけに、言語遊戯にも面白いものがある。
賀藤のダイイングメッセージはミステリ的な謎解きの面白さがあるし、
火星語や光語が独特の味を出している。

謎の侵略で戦争状態の時に、唐突に始まるメロドラマも笑える。
別居中の妻との会話、そして竜四郎の愁嘆場などだが、それがラストにまさかの伏線となっているのが凄い。

兎に角ごった煮感が凄いが、それが次々と伏線としてラストに盛り上がるのが面白い。

 

  • 謎の理論、時間移動

『光の塔』ではタイムトラベルの理論について語られるシーンがある。(概ねp.357~380辺り)

タイムトラベルといえば、SFのみならず、一般にも「将来出来たら嬉しい不思議能力」として知れ渡っている。
だが、実際には、時間のみを移動しても、空間の問題はどうするのか?という疑問がつきまとう。

つまり、地球自体が宇宙を移動しているので、時間だけを元に戻したら宇宙空間に放り出されてしまうという問題があるのだ。

普通の作品ではその辺りの疑問には敢えて着目せず、科学力という名の魔法でタイムトラベル(ワープ、リープ)を行っている。

しかし、本作におけるタイムトラベルは独特なものである。
自分なりにまとめてみたい。

本作ではまず、「光速の壁」は破る事が可能、という前提がある。

すると、光速を超えた速度の船で地球を飛び出て、
瞬間的にUターンして戻ったら、
そこは過去の世界である。(A)

この理屈を
並列して走る列車においては、
早い方から見た遅い方の列車は巻き戻している様に見える(p.368)、という身近な例で無理矢理納得させるのが面白い。

そして、A状態が可なら、
光速を超えるスピードで物体を地球上で回転させると、
その物体は過去へ行く事になるとしている。(B)

このB状態を使ってタイムトラベルをしたのが「光」というのが本作の設定である。

このアイデアが面白いのは、B状態であれば、地球という物体上での現象、つまり地球(上の一部)がタイムトラベルしているという解釈が成り立ち、空間の問題が解決する点だ。

まぁ、こういう作者のオリジナル理論は実際にはあり得ない物だったりするので、
読者が自分の中で分かり易い様に再解釈しなおすと、不思議な事に作品への理解が深まる場合が多い。

この作業はSFを読み慣れていないと面倒くさいものだ。
しかし、一方でSF小説を読む場合の魅力でもあるのだ。

 

 

本作『光の塔』は長篇SFの原点の作品でありながら、既にして頂点と言うべき作品である。

それはSFのみならず、ミステリ、ドラマなどストーリー部分の面白さが際立っており、作品としてのレベルが高いからこその印象だろう。

小説とは、畢竟エンタテインメントであるので、読んで面白い作品が評価されるべきだと私は思う。

その意味で、『光の塔』が長篇SFの原点と言われ、代表作として読み継がれて行くのは、SFとして幸福な事である。

 

 

 


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さて次回は『海王星市から来た男 縹渺譚』について語りたい。長年でるでる言われてついに出た作品だ。