エス・エフ小説『星を創る者たち』谷甲州(著)感想  現場魂!!起こった事件は俺たちが解決する!!

 

 

 

「圧送管が詰まっている」またかと山崎主任は嘆息する。月での地下トンネル工事、その過程で出た砂礫を粉砕して後方へ送る圧送管。度々トラブルに見舞われるこの管を現場に確認に行ったその時、予期せぬ重大事故が発生する、、、

 

 

 

著者は谷甲州
『航空宇宙軍史』シリーズ
『覇者の戦塵』シリーズ
『白き嶺の男』
『日本人没 第二部』等、
ハードSF、冒険小説など、幅広く活躍している。

 

著者の谷甲州は、建築会社に勤務後、海外青年協力隊としてネパールで活動中にデビューしたという経緯がある。

その著者が描く本作『星を創る者たち』は全7作からなる連作短篇集。
その内容は、

宇宙土木SFと言えるだろう。

 

月や金星、水星などを舞台に土木工事が行われる。

だが、地球と違う環境、ノウハウの無い作業、

当然の様に「想定外の事故」が起こる。

 

そして、それに対処するは意思決定管理者では無い、

今現在、事態に直面している現場作業員が奮闘する。

 

事故が起こり、一瞬の躊躇もままならない状況で、

「俺がやらねば誰がやる!」

 

と、言わんばかりにその場、その時最前線に居る人間が活躍するのだ。

本作は、謂わば設定SF。
しかし、その宇宙現場の設定の描写をくどくならないギリギリで留め、アクション的見せ場も描かれており存外読み易い。

何より、普段は省みられない様な下っ端が活躍するのでスカッとする。

読んで面白いSF作品。
本書『星を創る者たち』は、正にそれである。

 

 

以下、疲弊する現場の状況を語る


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  • 起承転結の設定SF

本著『星を創る者たち』は設定SFである。

普通、設定SFの場合は、冗長気味に舞台や世界観、独自理論の説明に紙幅を割く。

だが本作では、起承転結がしっかりとしており、その「承」の部分で舞台設定を終わらせてくれるので、以降の事件発生部分が面白く読める

理論や世界観を語るだけの設定SFは読んでいて苦痛だが、本作の様な形なら楽しく読めるのだ。
正に理想の「設定SF」の形である。

 

  • 必ず起こる想定外の事件

起:何か予兆を感じて調査に赴く
承:舞台の設定、工事現場の説明がなされる
転:事故が起こる
結:事故に対処する

これが本書『星を創る者たち』の基本設定である。

勿論、工事においてはトラブルシューティングを設定しているだろう。
しかし、それでも想定外の事故は必ず起こる

本書では、その「想定外の事故の発生と対処」がストーリーのメインとなっている。

重大事故が起こった時どうするか?

人的被害を食い止める為、素早く現場を放棄・撤退し周囲の安全確保に務めるのも一つの方策だ。
(2016/11/08のJR博多駅前陥没事故を思い浮かべてもらうといい)

しかし、本作においては、(現場放棄によって会社が負うリスクが高いという事もあり)事態に直面した作業員やスタッフは、自分こそが終息に導く当事者と言わんばかりに奮闘する

この、自分の仕事に誇りを持って事態に当たる当事者意識というものは、現代においては希薄となってしまった意識である。

現代においては、トラブルが起きた場合はマニュアルに従って規律ある行動を採る事が望まれる。

事故の初期対応だったり、
直ぐに復旧可能な軽微な事故や、
練度の低い作業員の安全確保という場合においてはマニュアルの重要度は高い。

しかしその際、良かれと思ってやった応急処置が処罰の対象となる場合も、往々にしてある。
本来は責任を負うべき上司が、失敗の理由付けを部下の行動に拠るものと断じて、責任を回避してしまうのだ。

よって、事故が起きた場合は、
上司は現場の如何に問わずマニュアルを徹底させ、
部下は命令に従うという建前の元余計な事はせず、
お互いに責任を放棄して事故対処に当たってしまう事も起こり得る。

この執着の無さというか、責任所在を曖昧にしてしまうマニュアル対応は、事が重大で想定外であればあるほど意味を成さなくなる

この時はじめて、現場にいる人間の練度(マンパワー)が問われるが、
現代においては、このマンパワーの源泉ともなる個性を殺す方向に向かっている印象がある。

頑固に黙々と作業して結果を残して行く人間は現場では重宝されるが、
それよりも、上司に取り入っておべっかを使う人間の方が覚えが良いので、出世する。

結果、立ち回りが上手いヤツが幅を利かせ、
ミスにおいて詰め腹を切らされるのは現場となり、練度の高い人間から辞めて行く事になる。

この様に、マンパワーがスポンジ状となった現場では士気も低下し、ミスがミスを呼び、重大事故に繋がってしまうのだ。

(人的災害としても、初期対応の杜撰さにしても、である)

 

 

本書『星を創る者たち』の様に、プライドを持って事態に当たる。

これは理想であり、だからこそ面白い。

しかし、コンプライアンス重視の現代においては、現場作業員の機転(という名の独断)は処罰の対象になる。
その意味では、今読むと古き良き理想を描いたファンタジーとして映る。

不退転の決意を持って完遂する、
この意気を以て何事にも当たりたい。

そういうふうに、本書は読めば自らを鼓舞する事にもなるのである。

著者の代表的なシリーズ


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さて次回は、漫画の創作現場を大公開!?『怪奇まんが道 奇想天外篇』について語りたい。