小説『長く暗い魂のティータイム』ダグラス・アダムス(著)感想  どっちらかりユーモア小説!?深い事は考えずにたのしみましょ!!

 

 

 

英国在住、自称ニューヨーカーのケイトはヒースロー空港での搭乗カウンターの順番待ちの途中、自分の目の前にいた巨漢が中々進まず苛立ちを覚える。世間知らずだが、何処か高貴な感じも受けるその人物と、杓子定規なカウンターのやり取りが交わされる中、突如、雷が落ちる、、、

 

 

 

 

著者はダグラス・アダムス
代表作に
「銀河ヒッチハイクガイド」シリーズ
ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』等がある。

 

前作、『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』で私の中で話題となったダグラス・アダムス。

その「ダーク・ジェントリー」シリーズの2冊目が本作『長く暗い魂のティータイム』です。

とは言え、内容もキャラクターも、前作とは一切関わりが有りません。
ダーク・ジェントリーが共通で出る、程度です。

前作ではSFとミステリが融合した見事な構成で畳みかけてきましたが、
本作は

ドタバタユーモア小説といった趣です。

 

空港であり得ない事件に出会ったケイト。

勿論、彼女はこの後、謎の巨漢と絡んで奇妙な冒険に繰り出す事になります。

一方、我らが探偵たるダーク・ジェントリーも事件に出会います。

典型的ダメ探偵として描写されるダーク・ジェントリー。

折角ボロい依頼を受けるも、約束の時間に5時間遅刻して到着。
すると、依頼人は首チョンパで死亡済み。

なんとなく成り行きで捜査を開始します。

前作は凝った構成で、前半のネタが後半融合して行く伏線の回収が見事でした。
ですが、その分、前半を丁寧に読んでいく必要がありました。

しかし本作ではネタが爆発。

楽しい会話、奇矯な人物、あり得ない事件が次々と描写されます。

 

本作でも伏線と回収の構成が面白いですが、
前作のキレ味と比べると、流石に劣っています。

本作ではむしろ、

繰り出されるユーモアの数々を広い心で受け入れ、楽しむ事が一番だと思います。

 

気楽に「フフッ」と読書したい、
そんな時に本作『長く暗い魂のティータイム』はオススメです。

 

 

  • 『長く暗い魂のティータイム』のポイント

繰り出されるユーモアの数々

手軽に楽しめるネタと伏線

生きる気力を失わせるのは、圧倒的無関心

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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*本書は巻末に訳者・安原和見氏の解説が書かれています。
これが実に的確且つ、分かり易く、殆どこれを読めば他の解説が必要ない物となっています。
ですが、個人の感想も必要だと思いますので、以下、私が感じた事も記してみます。

 

  • 罪悪感の神

本書『長く暗い魂のティータイム』は、巻末解説で指摘されている通り、
登場人物の罪悪感がストーリーを進める車輪となっています。

ぱっと見、無責任の権化の様なダーク・ジェントリーは、
自分の遅刻が依頼人を殺したのかと悩み、誰に言われるまでも無く、事件解決を目指し捜査を開始します。

オーディンは自分の快適な生活の為に他の神々の「神通力」を売り渡しますが、
本人は快適さに耽溺し、罪悪感を殊更無視しようと努めます。

トールは一人奮闘しますが、
しかし、要領が悪く、行く先々でトラブルを起こします。

自分がトラブルメーカーだと自覚しているが故に、人に指摘されては黙り込み、
表面的にはガサツに振る舞いながらも、心の中ではばつが悪そうに思い悩みます。

ユーモアと皮肉に満ち、楽しく読める内容ですが、
表面的には楽しく面白い人でも、
その内面には悩みを抱えているのだという現実に気付かされます。

冷蔵庫に閉じ込めて、
普段は決して見ないようにして封じ込めているものが「罪悪感」というオチは、
現代に生きる人間は、人を傷付ける事に無関心でいる事で成り立っているという指摘であるのです。

人間が無関心に没し、
信仰と畏怖を念頭から無くした世界では神はその力を失ってしまいます。

そして、ひとたび自分の行動に罪悪感を覚えたら、
人のみならず、神ですら死んでしまう程なのです。

現代を人(神)が生きるには、鈍感力が必要なのですね。

 

  • ユーモアの数々

前作『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』では、SFとミステリを融合した内容の、謎と伏線とその回収が見事な逸品でした。

本書『長く暗い魂のティータイム』でその部分を期待したら肩透かしになりますが、
前作よりパワーアップしているのが、皮肉なユーモアの数々です。

前作はミステリ的な展開とSF的な設定を理解する為に注意深く読む必要がありましたが、
本作は肩肘張らずに読めて楽しいです。

私が一番好きなのは、p.201~202にて描写される部分。

車が動かなくなって修理工を呼びますが、酔っぱらってやる気が無い修理工は適当な事を言ってのらりくらりと躱します。

そこでダーク・ジェントリーは修理工の車をかっぱらって逃走。

直ぐ様、道路脇に乗り捨てると、
ダークの車を速攻で直した修理工がそれを追って来る、という場面です。

世の中、やる気の無い人間ってもの凄く沢山いますが、
ちょっとつついてやると血相変えて向かってきますよね。

出来るのなら、最初からやれよ!といつも思います。

こんな感じで、世界を透徹した目線で皮肉かつユーモラスに描写するのが本書の最大の魅力だと言えます。

 

 

「ダーク・ジェントリー」シリーズ。

前作はSFとミステリの名作として、

本作は皮肉なユーモア小説として、また違った読み味で楽しめる作品です。

読んで笑えるという小説は本当に珍しい

馬鹿っぽい事を書いて、結果読者を馬鹿にしているだけの本もありますが、
ユーモアとして読者を楽しませるのは存外難しいものです。

そういう貴重な小説でもあるのが、本書『長く暗い魂のティータイム』なのです。

 

前作について語ったページはこちらです

エス・エフ小説『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』ダグラス・アダムス(著)感想  SF?ミステリ?奇想天外な物語!!


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さて次回は、行き過ぎたキャラクター設定で読者を苛つかせる!?小説『時空のゆりかご』について語ります。