俺の名前はニック・ビレーン。私立探偵だ。とびっきりの美女からセリーヌを探せと依頼が来た。さらには「赤い雀」を探せやら、妻を調べて欲しいやら…にわかに探偵らしくなってきやがった。さて、うまくせしめた前金は何番レースにつぎ込むかな、、、
著者はチャールズ・ブコウスキー。ドイツ生まれのアメリカ育ち。100冊を越える著作の中の遺作となった作品が本書『パルプ』だ。
他の著作に
『勝手に生きろ!』
『詩人と女たち』
『ブコウスキーの酔いどれ紀行』
『くそったれ! 少年時代』
『町でいちばんの美女』等がある。
本書『パルプ』の主人公はニック・ビレーン。チャールズ・ブコウスキーの著作の長編の主人公は『パルプ』以外、ヘンリー・チナスキーという作者の分身的存在だそうだ。
そういう意味でユニークな存在のニック・ビレーン。彼は探偵である。
小説で出てくる探偵で思いつくパターンは4つである。
一つ、シャーロック・ホームズの様な理知的・論理的タイプ。
二つ、榎津礼次郎の様な破天荒タイプ。
三つ、地道な作業で情報提供してくれる便利屋タイプ。
四つ、役に立たない雑魚タイプ。
『パルプ』のニック・ビレーンは破天荒ではあるものの、ハッキリ言うと雑魚タイプ。
自堕落、無気力、風のまにまに生きている探偵だ。
その一方で妙にバイタリティのある一面もある。まるでびびびのねずみ男だ。
そんな感じの男が主人公なので推理や解決には期待せずに、ニック・ビレーンの行動と展開に
んな、アホな!と、ツッコミを入れて楽しむ
のが、一番いい読み方だろう。
探偵ミステリというより、アウトロー小説だと考えてもらったらイメージがつかめる。
しかし、それでも一筋縄ではいかないのが、『パルプ』の魅力である。
以下ネタバレあり
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自堕落な主人公、予想の斜め上の依頼人。
ニック・ビレーンは兎に角、オフィスでそっくりかえって競馬新聞を見ている様なイメージしかない。
そんな彼に依頼をする相手も、一癖あるヤツ達ばかりである。
死神?宇宙人!その他モロモロ。
しかも笑えるのが、依頼された事件を解決しようとしないことである。
テスト前に勉強せず掃除を始めてしまう駄目人間の心理である。
しかしながら一度行動を起こすと、鮮やかといえなくもない強引な手段で解決してしまう。
それなのに後半は、明らかに見えている地雷に飛び込んでいく。
釣りの「浮き」の如くに、ぷかりと浮き沈みする人生の波を見ている様でまた面白い。
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セリーヌって誰?
という方もいらっしゃるだろう。私もそうだ。
セリーヌとはフランス人の作家、ルイ=フェルナンド・セリーヌの事である。本名はルイ=フェルディナン・デトゥーシュ。
1894年生まれ~1961年没。
『夜の果てへの旅』(1932)
『なしくずしの死』(1936)等の著作がある。
私は未読だが、彼の作品は自伝的で且つ、世界や時代へのリアリスティックな呪詛に溢れているらしい。
おそらくブコウスキーはセリーヌに同じアウトローとして通ずる所があったのだろう。
勝手にゲスト出演を願ったものと思われる。
「赤い雀」については巻末に解説がある。
また訳文も、リズムと雰囲気が内容にピッタリで大変読みやすい。
「翻訳小説」としての完成度も高い本作、ちょっとスカした話を読みたい人には是非オススメだ。
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さて、次回は死神でも宇宙人でも無い、神に会う!?SF小説『迷宮の天使』について語りたい。