妻と別居しているソグは離婚寸前。だが、誕生日を迎える娘のスアンに頼まれ、釜山(プサン)にいる妻に会いに列車で連れて行く事になる。列車がソウルを発つのと時を同じくして、各地でデモと暴動が発生したとの報道が流れる。そして、列車の中にも、挙動不審な人物がいて、、、
監督はヨン・サンホ。
なんと本作が実写初監督作品。
もともとはアニメーションの監督である。代表作に
『豚の王』
『我は神なり』
『ソウル・ステーション/パンデミック』等がある。
主演のソグ役にコン・ユ。出演作に
『トガニ 幼き瞳の告発』(2011)
『サクペクト哀しき容疑者』(2013)等がある。
他、共演にキム・スアン、チョン・ユミ、マ・ドンソク、キム・ウィソン等。
お待ちかね。
本作はゾンビ映画だよ。
しかも、韓国発。
韓国映画と言えば、他国には無い過剰とも言えるエネルギッシュさがある。
この映画もパワーに溢れている。
ゾンビ相手にも肉弾戦だ。
しかし、ゾンビ映画としてはグロは控えめである。
個人的には、もっと脳みそとか内臓とか血しぶきとかドバドバ出した方が面白かったと思う。
この辺は年齢制限との兼ね合いなので難しい。
ゾンビの種類は、最近流行の走るタイプである。
さらに舞台は列車の中。
適度なソリッドシチュエーションで、何も起こらないハズも無く、、、
そこで、ゾンビ映画を観るにあたって
観客が期待するあんな事や、こんな事が色々起こる。
ゾンビ映画の基本を押さえつつ、今までありそうで無かった「列車」という閉鎖空間を舞台に選んだ本作『新感染 ファイナル・エクスプレス』。
きっとあなたの期待通りの作品だろう。
以下ネタバレあり
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韓国映画 meets ゾンビ!!
あなたは韓国映画をご覧になった事があるだろうか?
私は邦画とハリウッド映画がメインなので、韓国映画をたくさん観ている訳ではない。
そんな私の韓国映画の印象は、とにかくエネルギッシュ、過剰なまでのエネルギッシュさが売りだと思っている。
痛々しい暴力、感情の爆発、ぶっ飛んだ表現。
もちろんこの映画もそのソウルに満ちている。
また、監督は元々アニメーション出身という事で、発想が柔軟である。
CGを使う事にためらいが無い。
結果走るというより、まるでホースからほとばしる水の如くに押し寄せるゾンビの大群が暴れ回る映画が出来上がった。
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ぶん殴る!!
本作のゾンビは今流行の走るゾンビである。
その特徴は、
動くものに反応する。(暗闇での視界は効かない)
音に反応する。
ゾンビに噛まれるとゾンビになってしまう。
という、基本を押さえた物である。
そして、このゾンビ連中を倒すにはどうするか?
ハリウッド産ゾンビ映画では大体銃でぶっ放す。
頭が弱点である。
しかし、韓国は日本と同じく銃社会ではない。
ゾンビに対抗する武器は
バット、警棒、素手、つまり基本的に己の腕力である。
「噛まれたら即終了」という相手と接近戦、というより肉弾戦を繰り広げる無謀さこそ、この映画の売りの一つである。
銃の無い社会で、ゾンビ相手に銃で対抗するのは現実味が無い。
その意味で肉弾戦は正しい描写だ。
普段から見かけるもので対処する事で、映画としてのオリジナリティと最低限のリアリティが生まれる。
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舞台設定の妙
本作『新感染 ファイナル・エクスプレス』の面白い所は、「列車」というソリッドシチュエーションを用意した所である。
もちろん、正しい意味での「閉鎖空間」では無い。
しかし、この「半・閉鎖空間」といえる「列車」のシチュエーションがたまらなく面白い。
外から乗り込もうとするゾンビ、
反対に列車の車両から溢れ、飛び出そうとしているゾンビ。
容易に開閉するドアでしか仕切られていないという状況が、この上ないスリルとサスペンスを生む。
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ゾンビ物恒例!?敵はサイコパス!!
それだけでは無い。
ソリッドシチュエーションだからこそ湧き上がる問題。
追い詰められた人間の醜いエゴが剥き出しになる様がまた、(観ているだけの観客には)たまらなく面白い点である。
極限の状況に追い込まれると、人間の本性が出る。
その様子を惜しげも無く、そしてあられも無く活写しているのが素晴らしい。
極限での英雄的行為が際立つのは、
極限では下衆の極みの行為が横行してしまうからである。
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ゾンビ物に付きもの!?家族愛
ゾンビ物では家族愛を描いている事がよくある。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』でも随所に挿入されている。
しかし、(ゾンビ物における)家族愛とはそれ程高尚なものでは無い。
むしろ、極めて利己的な思考である。
ゾンビが溢れた極限状況において、まず人は自己防衛を行う。
これが行き過ぎると、自己保身となり、他人を積極的に追い落としたり出し抜いたりする事となる。
これが時に醜い行為を生み出すが、当の本人も良心の呵責に苦しむ。
(あまり苦しまない人もいる。この映画においては、バス会社常務のヨンソクである。)
その結果、責任転嫁や現実逃避が行われたりする。
だがこの時、自らの行いを正当化する格好の免罪符がある。
それが、「家族の為」という思考である。
人は、「誰かのため」という一見正しい大義名分があれば、それを心の盾にしてどんな非道な行いをも正当化してしまう。
その最も簡単で身近な理由付けが家族の為、つまり家族愛なのだ。
本作でもソグは娘のスアンの為に、二人だけ助かる道を密かに用意する。
しかし、この利己的な自己保身たる家族愛は、決して悪いものでは無い。
他人を見捨てる行為をする一方、娘を救出する為にゾンビで溢れた車両を突っ切るという英雄的行動をも行う。
だが、利己的なファンドマネージャーであるソグのキャラクターが大きく変化した訳では無い。
ただスアンを守るという一念、その行動が場面により利己的に見えたり英雄的に見えたりする。
ただ、それだけなのだ。
そして、その対比が興味深いのだ。
しかし、極限状況のサバイバルにおいて、人の為でも、家族の為でも、自分の為でも、何でも良いから力に変える。
その崇高な精神が感動を生むのだ。
もっとも、醜い行為を生む時もあるが、、、
ゾンビ映画に限らず、極限状況のサバイバル物で家族愛がよく描かれるのは、それが理由なのだ。
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元ネタ!?関連映画集
本作『新感染 ファイナル・エクスプレス』は映画『ミスト』を参考にした部分があるという。
確かに、極限状況での人間心理を描いている部分に共通点がある。
また、親子関係として映画『ザ・ロード』も念頭にあったそうだ。
そして、派手な列車事故とサバイバルといえば、ロシア映画の『メトロ42』も思い浮かぶ。
『メトロ42』の事故があり、『ザ・ロード』的なシチュエーションで『ミスト』を描いたゾンビ映画といった所か。
本作『新感染 ファイナル・エクスプレス』は面白いゾンビ映画である。
もっとも、序盤の入りがちょっと長く感じられるが、そこさえ乗り越えてしまったら、後は怒濤の展開が待ち受ける。
ゾンビ映画の基本を踏まえつつ、ゾンビ相手に肉弾戦、「列車」というシチュエーションなどの本作ならではのオリジナリティも観せてくれる。
子役のキム・スアン、
肉弾オヤジのマ・ドンソク、
某政治家に髪型と眼差しがそっくりな下衆な乗客キム・ウィソン
といった、役者達の演技も迫真で、ゾンビ映画ファンのみならずとも見所がいっぱいである。
とにかく怒濤の映画である。
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さて、次回はこれまた怒濤の疾走映画『ベイビー・ドライバー』について語りたい。