十里は帰宅するなり、妻のミカに地球の危機を訴える。シベリアに着陸した円盤。当初はもぬけの殻だと思われていたそのUFOから、既にΣ星人が地球に降り立っていたのだ、、、
著者は今日泊亜蘭。
出版予定に名前が挙がれども、なかなか発売されないという状況が長く続いていたが、漸く過去作が再販されるに至った。
現在入手出来るものは
『最終戦争/空族館』(本書)
『光の塔』
『海王星市から来た男/縹渺譚』がある。
本書『最終戦争/空族館』は
SFのショートショート、短篇、中篇とバラエティ豊かなラインナップの作品集である。
p.324までが、過去にハヤカワ文庫JAの『最終戦争』で、
p.325~431までが、今回新しく収録された部分である。
基本はワンアイディア。
それを、文体、作風、アイデアの色々なバリエーションで表現しており、飽きさせない作りとなっている。
SFと言っても、訳の分からない理論などは出てこないので、軽い調子で読める。
あくまでもアイデアとオチが面白いショートストーリー集である。
誰が読んでも面白い、皆にオススメの一冊だ。
以下ネタバレあり
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収録作の特徴
本書『最終戦争/空族館』はワンアイディアを元にした、SFのショートショート、短篇、中篇によって編まれている。
その数、40篇。
(アイデアが被っているものがあるが)
全体的に、何処かユーモラスな印象を受ける作品群だ。
PARTⅠとⅡは旧仮名遣いを使っており、文体が独特なリズムを産んでいる。
声に出して読みたい日本語だ。
PARTⅢは中篇。
長い分、ストーリーを楽しめる。
本書の中ではシリアスな感じだ。
PARTⅣ以降は旧仮名遣いではない短篇が並んでいる。
もとのハヤカワ文庫JA『最終戦争』収録分はここまで。
PARTⅤはワンアイディアの短篇集。
PARTⅥは初出の「空族館」とショートショート。
ショートショートはいずれも、同じネタを短篇に転じたものが同書内に見られる。
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注目作ピックアップ
流石に全てを紹介するのは煩わしいので、個人的に面白かった物をピックアップしてみたい。
最後に笑う者 p.116~
映画『遊星からの物体X』を彷彿とさせる冒頭から始まり、なんだかドリフのオチみたいな展開を見せる大伽藍である。
カシオペヤの女 p.207~
静謐で情緒的な印象を残す作品。
実生活においても、「サイン」を見逃すと、後でとんでもない後悔を感じる事がある。
注意深く生きてゆかねばならない。
怪物 p.288~
戯曲形式で描かれている。
宇宙船内に突如現れた謎の存在に混乱するクルー達。
義務と本音に揺れる人間の心理を描いている。
神よ、我が武器を守り給え p.334~
何処に着地するのかと思ったら、衝撃のオチだった。
しかしこの作品の様に、「無駄になるから」という理由だけで負の状況を加速させる手段・手法を採る人間というのは、会社に一定数実在するという事実が恐ろしい。
光になった男 p.368~
語り手の乾いた様子と刑事の反応がいい。
陰キャの念介の気持ちが分かるだけに、もどかしい面白さがある。
本書は解説も充実している。
それによると、初出は1960年代~70年代の作品が多いようだ。
編集、解説の日下三蔵は、1957年が「現代SF」誕生の年と位置づけている。
つまり、著者・今日泊亜蘭は第1世代の作家という訳である。
だが物語としては、現代と引けをとらないどころか、むしろこちらの方が面白い。
やはり、先人と被らない物を追求していったら、方向性が先鋭化し、一般人が付いていけない領域に突入して行くのだろう。
もっと本書『最終戦争/空族館』の様な、読んでいて楽しいSFがあってもいいのではないかと私は思うのだ。
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さて次回は、今日泊亜蘭の『光の塔』について語りたい。こちらは長篇である。